The New England Journal of Medicine
2022
解析実務に直答
技術動向
3枝病変で FFR ガイド PCI は冠動脈バイパスに並べるか — FAME 3 試験
Fractional Flow Reserve-Guided PCI as Compared with Coronary Bypass Surgery
1500例で1年の死亡・心筋梗塞・脳卒中・再血行再建は FFR ガイド PCI 群10.6%、冠動脈バイパス群6.9%(ハザード比1.5)で、PCI の非劣性は示されませんでした。死亡・心筋梗塞・脳卒中は7.3% と5.2%で有意差はなく、大出血・不整脈・急性腎障害はバイパス群で多くみられました。
FFR でステントを必要な病変に絞っても、3枝病変ではバイパスとの差を埋めきれなかった試験です。FFR が 0.80 を超えた病変は24%で、FAME の37%より少なく、測定できたのも82%の病変にとどまりました。FFR ガイドの利益は不要なステントを避けることにあるため、見送る病変が少ないと利益も小さくなると著者は考察しています。冠動脈バイパス群で FFR を測ったのは10%だけで、FFR でバイパスを導く利益は PCI ほど示されていないとも書かれており、グラフト設計の血流解析を扱う当社にとって、外科側の血流評価がまだ定まっていないことを示す材料になります。
EuroIntervention
2021
解析実務に直答
技術動向
閉塞性冠動脈疾患の無い心筋虚血(INOCA)の定義・診断・管理 — EAPCI 専門家合意文書
An EAPCI Expert Consensus Document on Ischaemia with Non-Obstructive Coronary Arteries in Collaboration with European Society of Cardiology Working Group on Coronary Pathophysiology & Microcirculation Endorsed by Coronary Vasomotor Disorders International Study Group
INOCA は微小循環障害(微小血管狭心症)と心外膜冠動脈の攣縮(攣縮性狭心症)を主な機序とし、予後は良好とは限りません。カテ室では圧と温度センサー付きワイヤーで CFR(熱希釈で2.0未満が異常)と IMR(25以上が異常)、FFR を測り、アセチルコリン負荷で攣縮と内皮機能を評価します。微小循環を生体内で直接写す方法は現時点でありません。
冠循環の虚血には、心外膜冠動脈の狭窄だけでなく、写らない微小循環の構造的な変化と機能的な調節不全が関わることを整理した合意文書です。微小循環を直接描出する方法がないため、評価は心筋血流と CFR・IMR のような流量と抵抗の指標に頼るほかありません。CT や造影から計算する FFR は心外膜の形状と集団の法則に基づく微小循環の模型で成り立っており、この文書が扱う病態はその模型の前提の外にあります。血流解析の結果を説明するとき、計算が扱える範囲と扱えない範囲を示す参照点として使えます。
The New England Journal of Medicine
2020
解析実務に直答
技術動向
中等度以上の虚血がある安定冠動脈疾患で、侵襲的治療を先行させるべきか — ISCHEMIA 試験
Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease
37か国5179例を追跡期間中央値3.2年で比べ、侵襲的治療の先行は虚血性心血管事象も全死亡も減らしませんでした。複合転帰は6か月で侵襲群5.3%・保存群3.4%、5年で16.4%・18.2%と交差し、死亡は145例と144例でした。結果は心筋梗塞の定義によって変わりました。
虚血の量で患者を選べば血行再建の利益が出るはずだ、という仮説を正面から試した試験で、その仮説は支持されませんでした。虚血の程度による治療効果の違いも見つかっていません。手技に伴う心筋梗塞が早期に増え、手技と無関係の心筋梗塞が後期に減るという逆向きの動きが打ち消し合い、死亡は同じでした。血流の指標が示す「虚血がある」ことと、「治療で予後が良くなる」ことは別の命題であり、FFR や CT-FFR の計算結果を顧客に説明するときに、この区別を保つための根拠になります。
JACC: Cardiovascular Imaging
2019
解析実務に直答
技術動向
急性冠症候群の前に撮られた冠動脈 CT の血流指標で、責任病変を見分けられるか — EMERALD 研究
Identification of High-Risk Plaques Destined to Cause Acute Coronary Syndrome Using Coronary Computed Tomographic Angiography and Computational Fluid Dynamics
急性冠症候群の1か月〜2年前に CT を撮っていた72例の216病変で、責任病変は非責任病変より CT-FFR が低く、病変前後の CT-FFR の差(ΔFFRCT)、WSS、軸方向のプラーク応力が高い値でした。狭窄度・病変長・プラーク性状のモデルに血流指標を加えると識別能が上がり(c 指数0.747→0.789)、単独で最も情報量が多かったのは ΔFFRCT でした。
血流の指標を組み合わせると、形態とプラーク性状だけのモデルより将来の責任病変を見分けやすくなることを示した研究です。冠動脈の WSS の総説では「CT 由来の WSS が狭窄度や高リスクプラークより心筋梗塞をよく予測した」と要約されていますが、原文では WSS は4つの血流指標の1つで、単独で最も情報量が多かったのは病変前後の圧の差(ΔFFRCT)でした。WSS も単独で識別能を上げていますが、閾値 15.47 Pa は最大充血を模した定常計算の値で、安静時の WSS とは桁が異なります。CT-FFR の計算で同時に得られる量なので追加の計算負担がないことも、実用上の利点として書かれています。
European Heart Journal
2019
解析実務に直答
技術動向
ヒト冠動脈の壁面せん断応力の評価に関する専門家推奨 — 再構成・境界条件・格子・臨床応用
Expert recommendations on the assessment of wall shear stress in human coronary arteries: existing methodologies, technical considerations, and clinical applications
冠動脈口から関心領域までを再構成し、関心領域の直前の分岐を含めます。格子は細分化で WSS の変化が3%以内になるまで収束を確かめ、血液は剪断減粘性の模型で扱うよう推奨しています。プラークの進展を調べるなら IVUS と造影または CT の融合、被膜の微細構造やステントなら OCT の融合を勧め、MRI は冠動脈の形状に精度が足りないとしています。
冠動脈の WSS 研究の第一人者29名が、計算手順と臨床の根拠を一つにまとめた文書です。冠動脈 WSS の総説(JAHA 2024)が引く 1 Pa 未満・1〜7 Pa・7 Pa 超の区分の出典はこの文書の表で、その数値の多くは培養内皮の実験条件と少数の生体計測から来ています。つまり施設をまたいで使える診断閾値として検証された値ではありません。当社が冠動脈の WSS 解析を受けるとき、形状の取得方法・分岐の扱い・格子の収束・血液の模型・入口付近の値の除外を、この推奨に沿って説明し記録する土台になります。現在の WSS は臨床事象を予測するのに十分な感度・特異度を持たないと文書自身が書いている点も、過大な説明を避けるために押さえておくべき記述です。
EuroIntervention
2019
解析実務に直答
研究の着想
冠動脈バイパスの吻合先を FFR で決めるとグラフト開存は変わるか — GRAFFITI 試験
Graft patency after FFR-guided versus angiography-guided coronary artery bypass grafting: the GRAFFITI trial
172例を造影ガイドと FFR ガイドのバイパスに割り付け、FFR ガイド群は吻合数が減り(中央値3か所→2か所)、オフポンプ手術と低侵襲手術が増えました。1年のグラフト開存は80% と81%で差がなく、死亡・心筋梗塞・標的血管再血行再建・脳卒中にも差はありませんでした。
FFR が 0.80 を超える血管に吻合したグラフトは閉塞しやすいという過去の登録研究から、FFR で吻合先を選べば開存率が10ポイント上がると想定した試験でしたが、差は出ませんでした。登録された病変の4分の3が FFR で有意だったため、見送る吻合が少なく、試験の検出力が足りなかったと著者は考察しています。グラフトが開存するかどうかは自己冠動脈の FFR とも狭窄度とも相関しませんでした。グラフトの開存を決めるのは自己冠動脈の狭窄の重症度だけではなく、吻合の形状や競合血流を含む局所の血流である可能性を示しており、グラフト設計の数値流体解析が扱う問いに直接つながります。
European Heart Journal
2018
解析実務に直答
実臨床で CT-FFR は治療方針をどれだけ変えたか — ADVANCE 登録研究
Real-world clinical utility and impact on clinical decision-making of coronary computed tomography angiography-derived fractional flow reserve: lessons from the ADVANCE Registry
欧州・北米・日本の38施設5083例で、CT-FFR を加えると中核検査室の判定で治療方針の66.9%が変わりました。侵襲的造影で有意狭窄がなかった割合は CT-FFR 0.80 以下で14.4%、0.80 超で43.8%でした。CT-FFR 0.80 超の1592例では90日以内の死亡・心筋梗塞はなく、心事故19例はすべて0.80 以下で起き、18例は0.76 未満でした。
計算した血流の指標が、二値の判定ではなく連続量として臨床判断に使われている実態を示した登録研究です。CT-FFR 0.80 以下でも血行再建を勧められたのは施設判定で34.4%にとどまり、0.71 未満では54%、0.76〜0.80 では13%が血行再建を受けていました。医師が数値の大きさと症状・病変の部位を合わせて判断していることを示しています。日本の施設が参加しており、提出された CT の画質不良による解析不能は3.2%でした。90日の追跡で事象数は少なく、中央の事象判定委員会も置かれていない点は限界です。
Journal of the American College of Cardiology
2018
解析実務に直答
技術動向
狭窄の無い狭心症で冠動脈機能を測ると治療は良くなるか — CorMicA 試験
Stratified Medical Therapy Using Invasive Coronary Function Testing in Angina: The CorMicA Trial
造影で閉塞性病変の無い151例を無作為に割り付け、冠動脈機能検査の結果を主治医に伝えた群では、6か月の狭心症の総合スコアが11.7点改善しました。検査では微小血管狭心症51.7%、攣縮性狭心症16.6%、両者の合併20.5%が見つかり、異常が無かったのは11.3%でした。結果を伝えない群では35.5%が見逃されていました。
造影の空間分解能は約 0.3 mm で、心筋血流を主に決める直径約 0.1 mm の抵抗細動脈は写りません。狭窄の無い狭心症の大半に、心外膜冠動脈の形では見えない血流の異常(微小循環の拡張不全や攣縮)があることを示した試験です。FFR は心外膜の狭窄を評価する指標で、この患者群の FFR の中央値は0.88と正常でした。冠動脈の血流解析が対象にするのは主に心外膜冠動脈であり、そこが正常でも虚血は起こりうるという線引きを、顧客に説明するときの根拠になります。
The New England Journal of Medicine
2018
解析実務に直答
技術動向
FFR で選んだ狭窄への PCI の5年成績 — FAME 2 試験の長期追跡
Five-Year Outcomes with PCI Guided by Fractional Flow Reserve
5年の死亡・心筋梗塞・緊急血行再建は PCI 群13.9%、薬物治療群27.0%で差が続きました。差は緊急血行再建(6.3% と21.1%)によるもので、死亡(5.1% と5.2%)と心筋梗塞(8.1% と12.0%)に有意差はありませんでした。薬物治療群の51%が5年までに PCI を受けています。
長期でも利益の中身が変わらなかった点が要点です。差は緊急血行再建で、死亡は同じでした。狭心症の軽減も3年までは PCI 群が優れていましたが、5年では差が消えています。同じ期間に薬物治療群の半数が PCI に移っており、割り付けどおりの解析では両群の差が薄まります。FFR 0.80 超で薬物治療だけを受けた登録群の5年の事故率15.7%は PCI 群と差がなく、虚血を起こさない狭窄は治療しなくてよいという判断は長期でも支持されました。
Journal of the American Heart Association
2018
解析実務に直答
技術動向
造影2方向から計算する QFR はカテ室で FFR の代わりになるか — FAVOR II Europe-Japan 研究
Diagnostic Performance of In-Procedure Angiography-Derived Quantitative Flow Reserve Compared to Pressure-Derived Fractional Flow Reserve: The FAVOR II Europe-Japan Study
11施設317病変で、QFR の感度86.5%・特異度86.9%は、2次元の定量造影の44.2%・76.5%を上回りました。FFR との差は平均0.01±0.06、計算時間の中央値は5.0分で FFR の7.0分より短くなりました。ただし FFR 0.75〜0.84 の病変では正診率が71.3%に下がりました。
QFR は CT-FFR と違い、3次元の数値流体解析を解かず、造影2方向から再構成した3次元内腔と、造影剤が進む速さから数えた流速で圧の比を推定します。境界条件を集団の法則で決める CFD 方式の「全員に同じ条件を当てる」限界と計算時間の長さを、著者は従来法の弱点として挙げています。一方で、フレームの選択・内腔の輪郭・造影剤の追跡に人の操作が入るため、カテ室での計算と中核検査室の再計算の間に平均 −0.03±0.07 の偏りが出ました。計算方式の違いによって、何が速くなり何が操作者に依存するようになるかを説明する材料になります。
Journal of the American College of Cardiology
2018
解析実務に直答
技術動向
FFR 陽性の安定冠動脈疾患で、病変近位部の高い WSS は心筋梗塞を予測するか — FAME 2 の事後解析
High Coronary Shear Stress in Patients With Coronary Artery Disease Predicts Myocardial Infarction
FAME 2 の薬物治療群441例のうち3年以内に責任血管の心筋梗塞を起こした29例と、背景を揃えた対照29例を比べると、病変近位1/3の WSS が 3 Pa 上がるごとに心筋梗塞のハザードが23%増えました。最適な閾値は 4.71 Pa で、FFR の予測モデルに加えると再分類が改善しました。病変の上流・中部・遠位・下流の WSS や、低い WSS は心筋梗塞と関連しませんでした。
圧の比である FFR と、壁に沿う力である WSS は、同じ狭窄から計算しても互いに独立した情報を持つことを示した研究です。病変近位部の WSS と FFR の相関はほぼありませんでした(ρ=−0.152)。計算は造影の2方向からの3次元再構成、造影剤の速度から求めた患者ごとの入口流速、Murray 則による分流、定常流と、日常の造影で実行できる条件です。著者は、拍動・壁の運動・心臓の動きを入れた理想的な模型でなくても転帰の予測には足りる可能性を示唆しています。一方、症例29例の事後解析で、閾値 4.71 Pa はこの計算手順と集団に固有の値です。
The New England Journal of Medicine
2017
解析実務に直答
技術動向
充血を使わない iFR は FFR の代わりになるか — DEFINE-FLAIR 試験
Use of the Instantaneous Wave-free Ratio or Fractional Flow Reserve in PCI
中間病変の2492例を iFR(閾値0.89)と FFR(閾値0.80)に割り付け、1年の死亡・心筋梗塞・予定外血行再建は6.8% と7.0%で、iFR の非劣性が示されました。手技中の症状・徴候は3.1% と30.8%、手技時間の中央値は40.5分と45.0分で、iFR のほうが少なく短くなりました。
FFR は「最大充血で微小循環の抵抗を最小かつ一定にする」ことで圧の比を流量の比に置き換える指標でした。iFR は薬で充血を起こさず、拡張期のうち微小循環の抵抗が低く安定している区間の安静時圧比を使います。同じ「抵抗を一定とみなせる条件で圧を測る」という発想を、薬ではなく時間の切り出しで実現した指標といえます。iFR 群では虚血と判定された病変が28.6%で、FFR 群の34.6%より少なく、二つの指標は同じ病変を同じには分類しません。計算で FFR や iFR を推定する解析では、どちらの指標を目標にしているかを明示する必要があります。
The New England Journal of Medicine
2017
解析実務に直答
技術動向
安定狭心症と急性冠症候群で iFR と FFR のどちらで治療を決めるか — iFR-SWEDEHEART 試験
Instantaneous Wave-free Ratio versus Fractional Flow Reserve to Guide PCI
2037例の登録研究基盤の無作為化試験で、1年の死亡・心筋梗塞・予定外血行再建は iFR 群6.7%、FFR 群6.1%で、iFR の非劣性が示されました。虚血と判定された病変は iFR 群29.1%、FFR 群36.8%で、指標によって分類が異なっても転帰に差は出ませんでした。手技中の胸部不快感は3.0% と68.3%でした。
二つの指標の分類が食い違う病変の多くは閾値付近の中間病変で、そこでは死亡と心筋梗塞の発生率がもともと低いため、分類の違いが転帰に響きにくいという説明が示されています。著者は、充血が正常な冠血流のままでも圧を閾値以下に下げるため、FFR は中間病変の重症度を過大に評価しやすいという研究も引いています。連続量の指標を閾値で二分すると情報を失うという限界を、著者自身が書いている点も、解析結果を報告する立場から参考になります。
Heart and Vessels
2017
研究の着想
冠動脈バイパスの末梢側吻合を長くするとエネルギー損失は減るか — 手縫い吻合模型の CFD
Longer coronary anastomosis provides lower energy loss in coronary artery bypass grafting
訓練用模型に外科医が手縫いした吻合を micro-CT で撮像して CFD で解くと、10 mm の吻合は4 mm より吻合部の断面積が大きく(28.67 と 8.89 mm²)、吻合角が小さく(10.2° と 20.6°)、エネルギー損失は 34.78 μW と 77.10 μW で半分以下でした。4 mm の吻合では流れの向きが2回急に変わり、つま先側で剥離が起きました。
理想化した吻合形状ではなく、熟練外科医が実際に手縫いした吻合を 37 μm の分解能で撮像して解析に使った点が、ほかのグラフト設計研究にない特徴です。手縫いの吻合は真円にならず、4 mm の吻合では10本中2本が漏れや狭窄で解析に使えなかったという事実も、形状の個体差が血流に響くことを示しています。エネルギー損失は断面積の拡大よりも流れの向きの急な変化に強く依存したと著者は考察しています。共著者2名は訓練用模型の製造企業に所属しています。
Heart and Vessels
2016
研究の着想
技術動向
冠動脈バイパスの中枢側吻合の向きがグラフト内の血流に与える影響 — 理想化模型による CFD
Impact of top end anastomosis design on patency and flow stability in coronary artery bypass grafting
理想化模型で比べると、大動脈の長軸に直角で最短経路をとる吻合は、長軸に平行で心尖部へ向ける吻合より、グラフトが3.6 cm 短く血流が5%多くなりました。平行な吻合では収縮早期に吻合部で流れの剥離が起き、最小 WSS 0.53 Pa・OSI 0.46 でしたが、直角な吻合では剥離がなく 4.09 Pa・0.04 でした。
当社の宮崎が共著者として参加した研究です。冠動脈の血流は拡張期が主体なので心尖部へ向ける吻合が有利という直観に対し、計算は最短経路の直角吻合を支持しました。冠動脈への血流源が収縮期には上行大動脈の順行流、拡張期には大動脈弓からの逆行流であり、大動脈の軸に直角な吻合ではどちらの時相でも流入が安定するという説明です。著者はグラフト流量よりも、長期開存に関わると考えられる WSS と OSI を重く見ていますが、OSI と静脈グラフトの長期開存の因果は証明されていないことを限界として明記しています。術式の比較に WSS と OSI を使う研究の書き方の手本になります。
European Heart Journal
2015
解析実務に直答
CT-FFR を検査の流れに組み込むと、不要な心臓カテーテル検査は減るか — PLATFORM 研究
Clinical outcomes of fractional flow reserve by computed tomographic angiography-guided diagnostic strategies vs. usual care in patients with suspected coronary artery disease: the prospective longitudinal trial of FFR(CT): outcome and resource impacts study
欧州11施設584例で、カテーテル検査を予定していた群では、検査で有意な狭窄が見つからなかった割合が通常診療73.3%、CT-FFR 群12.4%でした。CT-FFR の結果を見てカテーテル検査の61%が中止され、中止した患者に90日以内の事象はありませんでした。非侵襲検査を予定していた群では差がありませんでした。
計算で求めた血流の指標が、診療の流れそのものを変えうることを示した研究です。結果の多くは、通常診療のカテーテル検査の73%(施設の目視判定では57%)が有意狭窄なしだったという、現状の非効率の大きさに由来します。一方、カテーテル検査に進んだ患者で血流の情報を持っていた割合は通常診療44.4%、CT-FFR 群97.4%で、血行再建の判断に血流の根拠を添えられた点も評価されています。無作為化ではなく、通常診療の群を先に登録してから CT-FFR の群を登録する逐次コホートの設計で、90日の追跡では臨床転帰の差を論じる検出力はありません。
Interactive Cardiovascular and Thoracic Surgery
2014
研究の着想
技術動向
多枝病変の左前下行枝・対角枝領域に最適なバイパスグラフトの配置 — 理想化模型による CFD
Optimal bypass graft design for left anterior descending and diagonal territory in multivessel coronary disease
理想化した左冠動脈の模型で3種類の配置を比べると、対角枝の狭窄が軽いとき、独立した静脈グラフトでは収縮期に対角枝から左前下行枝への逆流が生じ、内胸動脈グラフトの血流が減りました。対角枝の狭窄が重いとき、Y 字の複合動脈グラフトは血流が対角枝に分かれ、左前下行枝の血流が他の配置より約10%低くなりました。
当社の宮崎が共著者として参加した研究です。グラフトと自己冠動脈の競合血流は長期の開存と結びつくとされながら、造影でも PET でも各枝の血流を同時に定量できないという問題に、数値流体解析で答えようとしています。境界条件には、圧と流速を同時に測るワイヤーで実測した冠動脈の圧と流量の比(インピーダンス)を使い、最大拡張時は安静時の0.13倍の抵抗としました。集中定数模型で微小循環を表す CT-FFR の方式と異なり、拍動の位相まで実測波形に合わせている点が特徴です。患者固有の形状ではなく、平均形状から一般則を引き出す目的で作った模型である点も、結果の使い方として明示されています。
Journal of the American College of Cardiology
2014
解析実務に直答
技術動向
改良した CT-FFR の診断成績と、撮像品質の影響 — NXT 試験
Diagnostic performance of noninvasive fractional flow reserve derived from coronary computed tomography angiography in suspected coronary artery disease: the NXT trial (Analysis of Coronary Blood Flow Using CT Angiography: Next Steps)
10施設254例484血管で、患者単位の感度・特異度は CT-FFR 86%・79%、CT の50%超狭窄94%・34%、侵襲的造影の50%超狭窄64%・83%でした。曲線下面積は CT-FFR 0.90、CT 0.81 でした。先行試験より特異度が上がった理由として、微小循環抵抗の模型の改良と撮像ガイドラインの厳守が挙げられています。
計算値の精度が、計算模型だけでなく入力画像の品質で決まることを示した試験です。先行する DeFACTO 試験で特異度54%にとどまった同じ方式が、微小循環抵抗の模型の改良と、心拍数の管理と硝酸薬の投与(99%超、DeFACTO は75%)を必須にした撮像で79%に上がりました。一方で、動き・ノイズ・石灰化のにじみ・造影の不足のため13%の患者が画質基準で解析対象から外れています。血流解析を受託する立場から、入力画像の品質基準を先に決めることの根拠として引用できます。
Journal of the American College of Cardiology
2013
解析実務に直答
技術動向
冠動脈 CT に数値流体解析を当てて FFR を求める原理 — FFRCT の科学的基盤
Computational fluid dynamics applied to cardiac computed tomography for noninvasive quantification of fractional flow reserve: scientific basis
CT から内腔の形状を抽出し、心臓・体循環・冠微小循環を集中定数模型で境界条件にして流れを解きます。安静時の総冠血流は心筋量から、各出口の抵抗は血管径から決め、最大充血は総抵抗を安静時の0.24倍に下げて表します。微小循環障害があると血管拡張を過大に見込み、計算値が実測 FFR より低く出ます。
CT-FFR の境界条件の決め方を、開発者自身が説明した文書です。患者ごとの流量の実測値を使わず、心筋量と総冠血流の比例関係、血管径と流量の関係(Murray 則)、健常者の充血時の抵抗低下率という集団の法則で境界条件を決めている点が要点です。計算の精度は形状だけでなく、こうした法則が目の前の患者に当てはまるかに依存します。当社が冠動脈の解析で境界条件を説明するとき、形状が同じでも境界条件の決め方で値が変わることを示す一次資料として使えます。著者2名は FFRCT を提供する企業の社員で株主です。
The New England Journal of Medicine
2012
解析実務に直答
技術動向
安定冠動脈疾患で FFR 陽性の狭窄に PCI を加えるか、薬物治療だけにするか — FAME 2 試験
Fractional flow reserve-guided PCI versus medical therapy in stable coronary disease
FFR 0.80 以下の狭窄がある888例で、PCI を加えた群の死亡・心筋梗塞・緊急血行再建は4.3%、薬物治療だけの群は12.7%で、試験は早期に中止されました。差は緊急血行再建(1.6% と11.1%)によるもので、死亡と心筋梗塞には有意差がありませんでした。全狭窄が FFR 0.80 超だった群は薬物治療だけで3.0%でした。
造影で治療が要ると判断された患者の25%は、測ってみると虚血を起こす狭窄が1本も無かったという数値が、血流で評価する意義を最も短く示しています。この群は無作為化せずに薬物治療で追跡され、事故率は PCI 群と同程度に低いままでした。一方で、試験が示した利益は緊急血行再建の減少で、死亡と心筋梗塞の減少は示していません。顧客に FFR の意義を説明するとき、「虚血の無い狭窄を治療しない根拠」としては強く、「治療すれば命が救われる根拠」としては弱い、という区別を保って引用します。
Circulation
2012
解析実務に直答
技術動向
内皮せん断応力とプラーク量で冠動脈病変の進行を予測できるか — 日本の506例による PREDICTION 研究
Prediction of progression of coronary artery disease and clinical outcomes using vascular profiling of endothelial shear stress and arterial plaque characteristics: the PREDICTION Study
日本の17施設506例の3枝を IVUS と造影で再構成して ESS を求め、374例を6〜10か月後に再評価しました。内腔面積の減少は大きなプラーク量と低い ESS がそれぞれ独立に予測しました。両者を併せ持つ狭窄が1年以内に PCI を要した割合は41%、どちらも無ければ92%が進行しませんでした。ただし両者を併せ持つ患者は6%で、症状のある臨床事象は少なく統計的に扱えませんでした。
計算した ESS が、形態の指標(プラーク量)に上乗せして予後情報を持つことを、数百例の規模で示した研究です。日本では急性冠症候群の PCI 後6か月に追跡造影と IVUS を行う慣行があったため、日本の施設で実施されています。一方で、主要評価項目のプラーク面積の増加は ESS では予測できず、高い ESS と病変進行の関連も見られませんでした。ESS の区分は3分位(低 1 Pa 未満、中 1〜1.7 Pa、高 1.7 Pa 超)で、症状のある事象は14例と少数です。計算した ESS の予後的価値を説明するときに、陽性的中率41%という上限と、対象の6%にしか当てはまらないという範囲の両方を示す材料になります。
Journal of the American College of Cardiology
2011
解析実務に直答
技術動向
冠動脈 CT から計算した FFR で虚血を起こす狭窄を診断できるか — DISCOVER-FLOW 試験
Diagnosis of ischemia-causing coronary stenoses by noninvasive fractional flow reserve computed from coronary computed tomographic angiograms. Results from the prospective multicenter DISCOVER-FLOW study
4施設103例159血管で、血管単位の正診率は FFRCT 84.3%、CT の50%以上狭窄58.5%でした。特異度が82.2% と39.6%で大きく違い、FFRCT は狭窄度だけによる偽陽性を減らしました。FFRCT と FFR の相関係数は0.717で、FFRCT は平均0.022低く出ました。
CT の形状から計算した圧の比を、同じ血管の圧ワイヤーの実測と突き合わせた最初の前向き多施設研究です。CT の狭窄度は感度が高い一方で特異度が低く、狭く見える病変の多くが虚血を起こしていないことを、計算した FFR が見分けた点が要点です。一方、一致の度合いを示す Bland-Altman の差の標準偏差は0.116で、閾値0.80の近くでは個々の血管の判定が入れ替わりうる幅です。解析は1検査あたり約5時間を要し、資金提供と FFRCT の計算は同じ企業が担っています。計算値を臨床判断に使う相談では、平均の一致だけでなく個々のばらつきの幅を示す材料になります。
Circulation
2011
技術動向
研究の着想
冠動脈の WSS はプラークの進展と組成の変化に関わるか — 低 WSS と高 WSS の6か月の追跡
Coronary artery wall shear stress is associated with progression and transformation of atherosclerotic plaque and arterial remodeling in patients with coronary artery disease
20例の左前下行枝で、WSS を低(1.0 Pa 未満)・中(1.0〜2.5 Pa)・高(2.5 Pa 超)に分けて6か月追跡すると、低 WSS の区間はプラーク面積と壊死性コアが増え、血管が内向きに縮む傾向でした。高 WSS の区間はプラーク面積は増えず、壊死性コアと高密度石灰が増え、線維・線維脂肪成分が減り、血管が外向きに過剰に広がる傾向でした。破綻しやすい組成への変化を示唆する結果です。
低い WSS は悪く高い WSS は安全、という単純な図式を崩した研究です。高い WSS の区間ではプラークの量は増えないかわりに組成が不安定な方向に変わり、のちの高 WSS と心筋梗塞の研究につながりました。計算条件では、入口と出口にドップラーワイヤーで実測した流速を与え、側枝も再構成に含めて拍動流で解いています。一方、低い WSS の区間で血管が縮む傾向は、同じ IVUS と CFD の方法で外向きの拡大を報告した Stone 2003 と逆で、リモデリングの向きは研究間で一致していません。プラークの組成は高周波 IVUS(VH-IVUS)の推定で、組織学との対応には異論があります。
Journal of the American College of Cardiology
2010
解析実務に直答
技術動向
カテーテル検査室における冠動脈生理評価の現在 — FFR・CFR・微小循環抵抗の総説
Current concepts of integrated coronary physiology in the catheterization laboratory
造影は3次元の内腔を2次元で写すため、径狭窄率30〜80%の病変では虚血の有無を正確に示しません。最大充血下で狭窄の遠位圧を大動脈圧で割った FFR が、血管ごとの虚血の指標になります。FFR 0.75 未満は虚血、0.80 超は非虚血と対応し、その間は臨床判断が要る移行帯です。
FFR の定義が「圧力の比で流量の比を代用する」ことに立っている点を、計算の側から読める総説です。代用が成り立つのは最大充血で微小循環の抵抗が最小かつ一定になるという前提があるときで、急性心筋梗塞の責任血管ではその前提が崩れると明記されています。CT や造影画像から FFR を計算する手法も、同じ前提を境界条件として模型に持ち込んでいます。狭窄部の圧力低下を、長さ・面積・流量と粘性摩擦・剥離の係数から計算する式が図に示されており、血流解析で扱う圧力損失と臨床指標が同じ物理でつながることを説明するときに使えます。
Annals of Biomedical Engineering
2010
技術動向
研究の着想
冠動脈の血流と圧力を患者固有に計算する境界条件 — 心筋内圧を含む集中定数模型の結合
Patient-specific modeling of blood flow and pressure in human coronary arteries
各冠動脈出口に、動脈抵抗・微小循環抵抗・静脈抵抗・コンプライアンスと心筋内圧からなる集中定数模型をつなぎ、心筋内圧を左右の心室圧で与えると、左冠動脈は拡張期優位、右冠動脈は収縮期優位という実際の波形が再現されました。最大拡張を想定した条件では、径狭窄75%で左前下行枝の流量が 3.7 から 1.8 mL/秒に減りました。
冠動脈の血流は、ほかの動脈と違って心臓の収縮そのものに絞られます。出口に一定の圧力や抵抗を置くだけの境界条件では、この性質が表せません。この論文は、心臓・体循環・肺循環を閉じた回路として解き、左冠動脈には左室圧、右冠動脈には右室圧を心筋内圧として与える方法を示しました。のちの CT-FFR の境界条件の土台になった研究で、冠動脈の解析で出口条件をどこまで作り込むかを決めるときの参照点になります。安静時は狭窄があっても流量を保つよう抵抗を下げ、運動時は最大拡張として正常時と同じ条件を与えるという、生理の仮定の置き方も具体的に書かれています。
Atherosclerosis
2010
技術動向
冠動脈の流れの計算で側枝を省くと WSS はどれだけ変わるか — 右冠動脈17例の比較
Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches
右冠動脈17例を側枝ありと側枝なしで解き比べると、側枝なしでは主幹の流量が側枝の分だけ減らないため、WSS の中央値が 2.54 Pa から 4.37 Pa に上がり、同じ点の差は最大 12.0 Pa に達しました。差は分岐部だけでなく狭窄部と強い湾曲部にも及びました。一方、定常計算と拍動計算の時間平均 WSS の差は平均7%未満で、分布の相関は0.97を超えました。
冠動脈の解析で側枝を省くと、主幹の流量を過大に与えることになり、WSS が系統的に高く出ます。冠動脈では側枝による主幹の流量の減少が健常者で36.8%、冠動脈疾患で62.6%(中央値)に達し、無視できる大きさではありません。IVUS だけで再構成すると側枝が入らないため、造影との融合で側枝を加える必要がある、という Gijsen らの推奨の根拠の一つです。逆に、時間平均の WSS の分布を見るだけなら定常計算で足りるという結果は、計算費用を説明するときに使えます。ただし OSI のような時間成分の指標は拍動計算でしか得られません。
The New England Journal of Medicine
2009
解析実務に直答
技術動向
多枝病変の PCI を FFR で決めるか造影で決めるか — FAME 試験
Fractional flow reserve versus angiography for guiding percutaneous coronary intervention
FFR 0.80 以下の病変だけにステントを置く方針は、造影で選んだ病変を全部治療する方針より、ステントの本数と造影剤を減らし、1年の死亡・心筋梗塞・再血行再建の複合を18.3%から13.2%に減らしました。造影で選んだ病変の37%は FFR が 0.80 を超えていました。
造影で「50%以上の狭窄で治療が必要」と術者が判断した病変のうち、37%は圧で測ると虚血を起こしていなかった、という数値が要点です。形態の評価と血流の評価が、同じ病変について別の答えを出すことを、無作為化試験の規模で示しています。血流解析の顧客に「形が狭いことと流れが妨げられていることは別」と説明するときの、最も引用される根拠です。改善の機序は、虚血を起こさない病変へのステント留置を避けて、ステント血栓症や再狭窄のリスクを減らしたことと推測されています。
Journal of the American College of Cardiology
2008
技術動向
研究の着想
冠動脈プラークの破裂部位と局所的に高い壁面せん断応力の一致 — 3次元 IVUS と CFD による解析
Localized elevation of shear stress is related to coronary plaque rupture: a 3-dimensional intravascular ultrasound study with in-vivo color mapping of shear stress distribution
急性冠症候群で明瞭な潰瘍のある20病変を3次元 IVUS で再構成し、破裂前の形を外挿して CFD で解くと、すべての破裂がプラークの近位側か頂部にあり、局所的に高い壁面せん断応力の位置と破裂の位置がよく一致しました(κ=0.79)。圧力の局所的な上昇は2病変だけでした。
壁面せん断応力の絶対値は線維性被膜を機械的に壊すには小さすぎるため、破裂の引き金としては長く重視されてきませんでした。この研究は、絶対値ではなく分布の偏り(局所的な集中)に注目し、日本の施設から破裂部位との空間的な一致を示しました。計算は定常流・入口 30 cm/秒の一様流・出口抵抗なし・剛体壁と大きく簡略化され、破裂後の形から破裂前の形を外挿しています。著者自身が、空間的な一致は因果の証拠ではないと書いています。簡略な計算でも分布の位置は議論できるが絶対値は議論できない、という使い分けの例として読めます。
Journal of the American College of Cardiology
2007
解析実務に直答
技術動向
冠動脈硬化の自然歴と血管リモデリングにおける内皮せん断応力の役割 — 分子・細胞・血管の総説
Role of endothelial shear stress in the natural history of coronary atherosclerosis and vascular remodeling: molecular, cellular, and vascular behavior
分岐部や湾曲の内側など、時間平均の内皮せん断応力(ESS)が低い部位で内皮が動脈硬化を起こしやすい性質に変わり、初期プラークができます。その後、血管が外向きに広がって ESS が正常に戻れば安定したプラークに、過剰に広がって低い ESS が続けば、炎症と基質の分解が進んで破裂しやすい薄い線維性被膜のプラークに育つという枠組みです。
ESS が単なる危険の印ではなく、プラークの成長と血管の形の変化を通じて自分自身を変えていく量として描かれている点が要点です。血管が外向きに広がると局所の流れが変わり、ESS が正常に戻るか低いまま続くかでプラークの行く先が分かれます。つまり ESS は一時点の値ではなく、形と流れの相互作用の履歴として見る必要があります。血流解析で1回の計算から将来を語るときの限界と、経時的に同じ部位を解析する意義を説明する材料になります。高い ESS が高度狭窄の頸部でびらんに関わりうるという記述も、のちの高 WSS 研究につながります。
European Journal of Cardio-Thoracic Surgery
2007
解析実務に直答
研究の着想
全動脈グラフトのオフポンプ冠動脈バイパスで順行性血流を得るグラフト設計 — 1571本の術後造影
Graft design strategies with optimum antegrade bypass flow in total arterial off-pump coronary artery bypass
395例1571本のグラフトの術後2週造影で、開存率は98.6%でも順行性の血流は91.3%でした。両側内胸動脈の使用と、中等度狭窄の枝をグラフトの末端に置かない I 字複合グラフトの向きの選択で、機能するグラフトの割合が92.4%から95.8%に上がりました。自己冠動脈の狭窄が軽いほど順行流の割合は下がりました。
グラフトの評価を「開存しているか」ではなく「血流がどちら向きに流れているか」で行った臨床研究です。逆流のグラフトは開存していても灌流に寄与しないため、機能していないと数えています。順次・複合グラフトでは、グラフト内の圧が中枢から末端に向かって下がる勾配を保つことが順行流の条件であり、中等度狭窄の枝を末端に置くと逆流しやすいと著者は考察しています。グラフト設計の数値流体解析で圧の勾配と流れの向きを評価する理由を、臨床の側から裏づける材料です。
Annals of Biomedical Engineering
2003
研究の着想
ステント留置で冠動脈の壁面せん断応力はどう変わるか — スロット管ステントの3次元 CFD
Three-dimensional computational fluid dynamics modeling of alterations in coronary wall shear stress produced by stent implantation
イヌの左前下行枝の実測流速と内径から、スロット管ステント(16 mm、ストラット突出 0.1 mm)を入れた3次元模型を作って定常流で解くと、ストラットの前後に低 WSS の淀みができ、ステントの出口側で低 WSS の範囲が広がりました。アデノシンで血流を増やした条件では、最小 WSS がステントのない血管より出口で77%、ステント内で66〜82%低くなりました。
ステントの再狭窄率がステントの種類で違う理由を、ストラットの形が作る局所の流れから説明しようとした初期の3次元計算です。ストラットの直上で WSS が高く、前後で低くなり、軸方向のストラットが近く周方向の間隔が広い部位に低 WSS が集まりました。血流が増えるほど出口の低 WSS の範囲が延びる結果も示しています。のちの Gijsen らの推奨が、ステント内ではストラットの高さを約10要素で分割する細かい格子を求める背景にある研究です。直線の剛体管・定常流・ニュートン流体と簡略化が大きく、資金の一部はステントの製造企業から出ています。
Circulation
2003
技術動向
研究の着想
ヒト冠動脈で内皮せん断応力から6か月後のプラーク進展を予測できるか — IVUS と CFD の連続観察
Effect of endothelial shear stress on the progression of coronary artery disease, vascular remodeling, and in-stent restenosis in humans: in vivo 6-month follow-up study
8例12本の冠動脈を IVUS と造影で3次元に再構成して CFD で ESS を求め、6か月後に同じ部位を再評価しました。自己冠動脈では ESS が低い領域でプラークが厚くなり、血管が外向きに広がって内腔は保たれました。生理的な ESS の領域はほぼ変化がなく、高い ESS の領域は外向きに広がって ESS が正常化しました。ステント内は ESS によらず内膜が厚くなりました。
患者固有の冠動脈形状から計算した ESS が、その後の血管壁の変化と対応するかを、同じ人の同じ部位で追った最初の研究です。計算条件は定常流・剛体壁・ニュートン流体と簡素で、流量は造影剤が区間を通過するフレーム数から求めています。著者は、平均流量で定常計算した ESS が拍動計算の時間平均 ESS とほぼ一致することを先行研究で確かめたとしています。8例という小規模な予備研究であり、ステント内の再狭窄に ESS が関わる程度は限られるという結果も含めて、計算した壁面せん断応力の使い道を見極める材料になります。
The New England Journal of Medicine
1996
解析実務に直答
技術動向
冠血流予備量比(FFR)で中等度狭窄の機能的重症度を評価する — FFR の臨床検証
Measurement of fractional flow reserve to assess the functional severity of coronary-artery stenoses
中等度狭窄の45例で、FFR 0.75 未満の21例は全員が少なくとも1つの負荷試験で可逆性虚血を示し、血行再建後に陰性化しました。0.75 以上の24例のうち21例は全負荷試験が陰性で、血行再建をせずに14か月間事象はありませんでした。感度88%・特異度100%・正診率93%で、造影の狭窄度は両群で差がありませんでした。
FFR を臨床で使える指標として確立した原典です。最大充血下では狭窄遠位の圧と大動脈圧の比が、狭窄がある場合の最大血流と狭窄がない場合の理論上の最大血流の比に等しいという定義に立ち、全身の血圧や心拍数、安静時の血流を変える条件に影響されにくく、正常値が誰でも1になるという性質を挙げています。一方で、小血管病変・びまん性病変・左室肥大では薬による充血で血流が十分に増えず、狭窄の重症度を過小評価すると著者自身が書いています。計算で FFR を推定する解析も同じ前提に立つため、この限界はそのまま計算にも当てはまります。