冠動脈バイパスの末梢側吻合を長くするとエネルギー損失は減るか — 手縫い吻合模型の CFD
Longer coronary anastomosis provides lower energy loss in coronary artery bypass grafting
冠動脈バイパスの末梢側吻合で、冠動脈の切開長を標準の4 mm より長くすると、吻合部の血流は良くなるのか。
訓練用模型に外科医が手縫いした吻合を micro-CT で撮像して CFD で解くと、10 mm の吻合は4 mm より吻合部の断面積が大きく(28.67 と 8.89 mm²)、吻合角が小さく(10.2° と 20.6°)、エネルギー損失は 34.78 μW と 77.10 μW で半分以下でした。4 mm の吻合では流れの向きが2回急に変わり、つま先側で剥離が起きました。
当社の視点
理想化した吻合形状ではなく、熟練外科医が実際に手縫いした吻合を 37 μm の分解能で撮像して解析に使った点が、ほかのグラフト設計研究にない特徴です。手縫いの吻合は真円にならず、4 mm の吻合では10本中2本が漏れや狭窄で解析に使えなかったという事実も、形状の個体差が血流に響くことを示しています。エネルギー損失は断面積の拡大よりも流れの向きの急な変化に強く依存したと著者は考察しています。共著者2名は訓練用模型の製造企業に所属しています。
扱う範囲
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01
吻合模型
内径 2 mm のシリコン製冠動脈とグラフトの訓練用模型に、1名の外科医が7-0 ポリプロピレン糸の連続縫合で端側吻合を作りました。切開長4 mm と10 mm を各10組用意しました。
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02
形状の取得
造影剤を 80 mmHg で満たして micro-CT(37 μm 等方)で撮像し、閾値で内腔を抽出して約10万要素の格子を作りました。
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03
計算条件
OpenFOAM で定常流を解きました。血液は密度 1050 kg/m³・粘度 0.004 Pa·s のニュートン流体、壁は剛体です。入口 100 mmHg、出口 50 mL/分の一様流とし、冠動脈の中枢側は完全閉塞としてバイパスだけが血流を担う条件にしました。
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04
エネルギー損失の定義
解析領域の入口と出口の圧力と流量の積の差として求めました。流量は保存されるので、流量と圧力差の積になります。
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05
形状と損失の相関
吻合角とエネルギー損失の相関係数は0.635、吻合部断面積とは −0.9 でした。7° を超える急拡大で剥離とエネルギー損失が生じるという管路の基礎知識を引いています。
4 mm 吻合と10 mm 吻合の比較
数値で確かめる
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 吻合部の最小断面積 | 8.89 と 28.67 mm² | 4 mm と 10 mm、P<0.0001 |
| 吻合角 | 20.6° と 10.2° | P<0.0001 |
| エネルギー損失 | 77.10 と 34.78 μW | P<0.0001 |
| 技術的に失敗した吻合 | 4 mm で2/10・10 mm で0/10 | 漏れと狭窄。解析前に差し替えた |
いずれもこの論文の模型実験と計算の値で、生体の実測値ではありません。
実務チェック
- 吻合部を解析するときは、理想化形状か実際の縫合形状かを明記します。
- エネルギー損失を比べるときは、拍動の有無と、自己冠動脈との競合血流を含めたかを条件として記録します。
- 流量を固定した比較か圧力を固定した比較かを書き、同じ圧力なら抵抗の低い吻合で流量が増えることを踏まえて解釈します。
この研究が扱わない範囲
- 定常流で、拍動の影響は含みません。壁は剛体です。
- 中枢側の冠動脈を完全閉塞とし、自己冠動脈との競合血流は扱っていません。
- 手縫いのため吻合の出来は模型ごとに異なります。
- 計算結果とグラフト開存の対応は検証していません。
書誌情報
| 原題 | Longer coronary anastomosis provides lower energy loss in coronary artery bypass grafting |
|---|---|
| 著者 | Tsukui H, Shinke M, Park YK, Yamazaki K. |
| 掲載誌 | Heart and Vessels(2017) |
| DOI | 10.1007/s00380-016-0880-4 |
| PMID | 27484320 |