原著 Interactive Cardiovascular and Thoracic Surgery 2014 研究の着想 技術動向 原文精読済み

多枝病変の左前下行枝・対角枝領域に最適なバイパスグラフトの配置 — 理想化模型による CFD

Optimal bypass graft design for left anterior descending and diagonal territory in multivessel coronary disease

Koyama S, Itatani K, Yamamoto T, Miyazaki S, Kitamura T, Taketani T, Ono M, Miyaji K.

問い

多枝病変の冠動脈バイパスで、左前下行枝と対角枝にどのグラフト配置を選ぶと、競合血流を避けて十分な血流を届けられるのか。

答え

理想化した左冠動脈の模型で3種類の配置を比べると、対角枝の狭窄が軽いとき、独立した静脈グラフトでは収縮期に対角枝から左前下行枝への逆流が生じ、内胸動脈グラフトの血流が減りました。対角枝の狭窄が重いとき、Y 字の複合動脈グラフトは血流が対角枝に分かれ、左前下行枝の血流が他の配置より約10%低くなりました。

当社の視点

当社の宮崎が共著者として参加した研究です。グラフトと自己冠動脈の競合血流は長期の開存と結びつくとされながら、造影でも PET でも各枝の血流を同時に定量できないという問題に、数値流体解析で答えようとしています。境界条件には、圧と流速を同時に測るワイヤーで実測した冠動脈の圧と流量の比(インピーダンス)を使い、最大拡張時は安静時の0.13倍の抵抗としました。集中定数模型で微小循環を表す CT-FFR の方式と異なり、拍動の位相まで実測波形に合わせている点が特徴です。患者固有の形状ではなく、平均形状から一般則を引き出す目的で作った模型である点も、結果の使い方として明示されています。

扱う範囲

  • 01

    模型の作り方

    正常冠動脈10例の造影から血管径と分岐角の平均値を取り、CAD で左冠動脈を作りました。左室は僧帽弁輪を底面とする円錐で近似し、狭窄は半円を打ち抜いて縁を滑らかにした偏心性病変(75%と90%)で表しました。

  • 02

    3種類のグラフト配置

    Independent は内胸動脈を左前下行枝に、静脈グラフトを対角枝と鈍縁枝に別々に吻合する配置です。Sequential は静脈グラフトを対角枝と鈍縁枝に順に吻合し、Composite は内胸動脈と橈骨動脈の Y 字グラフトを左前下行枝と対角枝に吻合しました。

  • 03

    計算条件

    有限体積法(ANSYS-CFX)で、血液を密度 1060 kg/m³・粘度 0.004 Pa·s のニュートン流体、壁を剛体とし、約120万要素の非構造格子で2心拍の拍動流を解きました。入口には大動脈と左鎖骨下動脈の実測圧波形を与えました。

  • 04

    収縮期と拡張期の血流

    内胸動脈から左前下行枝への血流は、収縮早期に大動脈圧の上昇とともに減り、収縮後期に冠動脈の抵抗が高まると再び減り、拡張期に保たれました。Sequential では拡張期の逆流が左前下行枝への追加血流として働きました。

  • 05

    結論の条件

    対角枝の狭窄が重くないなら独立した静脈グラフトは避け、重いなら Y 字の複合動脈グラフトは避ける、という対角枝の狭窄度による使い分けを示しました。

最大拡張時の枝ごとの平均血流(収縮期)

項目値補足
正常左冠動脈の総血流 567.6 mL/分 最大拡張条件
左前下行枝の血流(狭窄75/75/75%) 135.3 mL/分 正常時 205.0 mL/分
左前下行枝の血流(狭窄90/75/90%) 69.1 mL/分 左前下行枝・対角枝・回旋枝の順
術後の左前下行枝(90/75/90%) Independent 215.6・Sequential 219.0・Composite 189.1 mL/分 Composite は他の配置より約10%低い
最大拡張時の末梢抵抗 安静時の0.13倍 左前下行枝の血流が安静時の3〜5倍になるよう設定

いずれもこの論文の理想化模型による計算値で、生体の実測値ではありません。

実務チェック

  • 冠動脈バイパスの解析では、収縮期と拡張期で逆流と競合血流の向きが変わるため、時間平均だけでなく1心拍内の流量波形を報告します。
  • 末梢の境界条件を集中定数模型で与えたか実測インピーダンスで与えたかを明記します。
  • 理想化模型の結果を個々の患者の術式判断に直接当てはめず、一般則として扱います。

この研究が扱わない範囲

  • 患者固有の形状ではなく平均形状の模型で、グラフトの屈曲、静脈弁、動脈グラフトの攣縮は含みません。
  • 壁は剛体で、心筋の運動と切り離しています。側副血行と心筋の生存性も模型に入っていません。
  • グラフト配置は3通り、狭窄の組み合わせも3通りだけです。
  • 計算結果と臨床のグラフト開存との対応は検証していません。

書誌情報

原題Optimal bypass graft design for left anterior descending and diagonal territory in multivessel coronary disease
著者Koyama S, Itatani K, Yamamoto T, Miyazaki S, Kitamura T, Taketani T, Ono M, Miyaji K.
掲載誌Interactive Cardiovascular and Thoracic Surgery(2014)
DOI10.1093/icvts/ivu182
PMID24893870

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