原著 European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 2007 解析実務に直答 研究の着想 原文精読済み

全動脈グラフトのオフポンプ冠動脈バイパスで順行性血流を得るグラフト設計 — 1571本の術後造影

Graft design strategies with optimum antegrade bypass flow in total arterial off-pump coronary artery bypass

Nakajima H, Kobayashi J, Tagusari O, Niwaya K, Funatsu T, Brik A, Yagihara T, Kitamura S.

問い

動脈グラフトを順次・複合でつなぐ冠動脈バイパスで、競合血流と逆流をどう避けるか。開存していれば十分なのか。

答え

395例1571本のグラフトの術後2週造影で、開存率は98.6%でも順行性の血流は91.3%でした。両側内胸動脈の使用と、中等度狭窄の枝をグラフトの末端に置かない I 字複合グラフトの向きの選択で、機能するグラフトの割合が92.4%から95.8%に上がりました。自己冠動脈の狭窄が軽いほど順行流の割合は下がりました。

当社の視点

グラフトの評価を「開存しているか」ではなく「血流がどちら向きに流れているか」で行った臨床研究です。逆流のグラフトは開存していても灌流に寄与しないため、機能していないと数えています。順次・複合グラフトでは、グラフト内の圧が中枢から末端に向かって下がる勾配を保つことが順行流の条件であり、中等度狭窄の枝を末端に置くと逆流しやすいと著者は考察しています。グラフト設計の数値流体解析で圧の勾配と流れの向きを評価する理由を、臨床の側から裏づける材料です。

扱う範囲

  • 01

    流れの等級

    術後造影で、A は順行、B は競合(内胸動脈造影で標的血管がわずかに染まり、自己冠動脈造影で逆行性に満たされる)、C は逆流、O は閉塞としました。A と B を機能するグラフト、C と O を機能しないグラフトとしました。

  • 02

    グラフト配置の比較

    片側の内胸動脈を Y 字・K 字の複合グラフトにした群(181例)と、両側の内胸動脈を使った群(214例)を比べました。両側群は遠位吻合が多く(4.36 と 3.52か所)、順行流の割合も高くなりました(92.5% と 89.7%)。

  • 03

    I 字複合グラフトの向き

    2003年3月以降は、右内胸動脈と橈骨動脈の I 字グラフトを回旋枝と右冠動脈に時計回りか反時計回りでつなぎ、75%狭窄の右冠動脈がグラフトの末端に来ないよう向きを選びました。

  • 04

    自己冠動脈の狭窄度と順行流

    標的枝の狭窄が51〜75%では順行流86.0%・逆流8.4%、76〜90%では92.9%、91〜100%では98.8%でした。部位別では右冠動脈で順行流が87.8%と最も低くなりました。

  • 05

    グラフトの圧勾配

    順次・複合グラフトでは各区間で中枢側の圧が末端側より高いことが順行流の条件で、末端に中等度狭窄の枝を置くことは多くの場合不利としています。

術後2週造影によるグラフトの血流

標的の自己冠動脈の狭窄度ごとの、順行性の血流を示したグラフトの割合
数値で確かめる
項目値補足
対象 395例・1571本 全動脈グラフト、大動脈に触れないオフポンプ手術
開存率 98.6% 1549/1571
順行流(等級 A) 91.3% 全吻合
順行流(標的枝の狭窄51〜75%) 86.0% 逆流8.4%
順行流(標的枝の狭窄91〜100%) 98.8% 逆流0%
機能するグラフト(等級 A+B) 92.4% → 95.8% 向きを選ぶ方針の導入前 → 後

いずれもこの論文が報告した値です。

実務チェック

  • グラフトの評価では、開存の有無に加えて流れの向き(順行・競合・逆流)を記録します。
  • 順次・複合グラフトを解析するときは、各区間の圧の勾配が中枢から末端に向かって下がっているかを確認します。
  • 標的枝の狭窄が中等度の場合は、自己冠動脈との競合血流を前提に解析条件を組みます。

この研究が扱わない範囲

  • 無作為化していない単施設の観察研究で、時期によって術式の方針が変わっています。
  • 評価は術後2週の造影で、長期の開存は扱っていません。
  • 競合血流には、自己冠動脈の血流の強さと、障害心筋の微小循環抵抗の高さの両方が含まれうると著者は書いています。

書誌情報

原題Graft design strategies with optimum antegrade bypass flow in total arterial off-pump coronary artery bypass
著者Nakajima H, Kobayashi J, Tagusari O, Niwaya K, Funatsu T, Brik A, Yagihara T, Kitamura S.
掲載誌European Journal of Cardio-Thoracic Surgery(2007)
DOI10.1016/j.ejcts.2006.11.025
PMID17184997

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