冠動脈バイパスの中枢側吻合の向きがグラフト内の血流に与える影響 — 理想化模型による CFD
Impact of top end anastomosis design on patency and flow stability in coronary artery bypass grafting
遊離グラフトを上行大動脈に吻合するとき、心尖部へ向けて大動脈の長軸に沿わせるか、最短経路で直角に出すか。
理想化模型で比べると、大動脈の長軸に直角で最短経路をとる吻合は、長軸に平行で心尖部へ向ける吻合より、グラフトが3.6 cm 短く血流が5%多くなりました。平行な吻合では収縮早期に吻合部で流れの剥離が起き、最小 WSS 0.53 Pa・OSI 0.46 でしたが、直角な吻合では剥離がなく 4.09 Pa・0.04 でした。
当社の視点
当社の宮崎が共著者として参加した研究です。冠動脈の血流は拡張期が主体なので心尖部へ向ける吻合が有利という直観に対し、計算は最短経路の直角吻合を支持しました。冠動脈への血流源が収縮期には上行大動脈の順行流、拡張期には大動脈弓からの逆行流であり、大動脈の軸に直角な吻合ではどちらの時相でも流入が安定するという説明です。著者はグラフト流量よりも、長期開存に関わると考えられる WSS と OSI を重く見ていますが、OSI と静脈グラフトの長期開存の因果は証明されていないことを限界として明記しています。術式の比較に WSS と OSI を使う研究の書き方の手本になります。
扱う範囲
-
01
2種類の吻合
Model A は中枢側吻合を上行大動脈の長軸に平行にし、グラフトが右室流出路の前を通って心尖部へ向かう配置です。Model B は大動脈の長軸にほぼ直角に出して最短経路をとる配置です。鈍縁枝と後側壁枝にそれぞれ75%狭窄を置き、順次吻合で血行再建しました。
-
02
模型と計算条件
大動脈基部と冠動脈を CAD で作り、術後患者の造影 CT に重ねてグラフトの経路を決めました。グラフト径は 3 mm、入口に大動脈流量、冠動脈の出口に末梢インピーダンスを与え、最大拡張条件で解きました。
-
03
流れの剥離
Model A では収縮早期に中枢側吻合部で流れが剥離し、拡張期には剥離が弱まりました。Model B では1心拍を通じて流入の流線が同じ形を保ちました。
-
04
WSS と OSI の読み方
著者は、静脈グラフトの中枢側吻合部で WSS が低すぎることは内腔の動脈硬化に、OSI が高すぎることは内皮の線維化に関わると考え、OSI を長期開存の最も重要な予測因子とみなしています。
2種類の中枢側吻合の比較
数値で確かめる
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| グラフト長(中枢吻合〜第1遠位吻合) | 17.2 cm と 13.6 cm | Model A と Model B |
| グラフト流量(最大拡張時) | 197.3 と 207.3 mL/分 | Model B が5%多い |
| 中枢吻合部の最小 WSS | 0.53 Pa と 4.09 Pa | 拡張中期 |
| 中枢吻合部の OSI | 0.46 と 0.04 | 0 は一方向、0.5 は完全な往復 |
いずれもこの論文の理想化模型による計算値で、生体の実測値ではありません。
実務チェック
- グラフト設計を比べるときは、流量だけでなく吻合部の WSS と OSI の分布を併記します。
- OSI と静脈グラフトの長期開存の因果は未証明であることを、結果の解釈に書き添えます。
- 後下行枝へのバイパスでは最短経路が最適とは限らないと著者が書いている点を踏まえ、対象の血管を限定して引用します。
この研究が扱わない範囲
- 理想化模型で、壁は剛体、心筋の運動と静脈弁は含みません。
- 比べた吻合角度は2通りで、より良い角度が他にある可能性を著者は認めています。
- 計算結果と臨床のグラフト開存との対応は検証していません。
書誌情報
| 原題 | Impact of top end anastomosis design on patency and flow stability in coronary artery bypass grafting |
|---|---|
| 著者 | Koyama S, Kitamura T, Itatani K, Yamamoto T, Miyazaki S, Oka N, Nakashima K, Horai T, Ono M, Miyaji K. |
| 掲載誌 | Heart and Vessels(2016) |
| DOI | 10.1007/s00380-015-0680-2 |
| PMID | 25910614 |