Pulmonary Circulation
2026
解析実務に直答
研究の着想
肺高血圧の検出と血行動態の評価に用いる非侵襲の指標としての 4D Flow 由来の壁せん断応力
4D-Flow MRI-Derived Wall Shear Stress as a Non-Invasive Biomarker for the Detection and Hemodynamic Characterization of Pulmonary Hypertension
主肺動脈と左右肺動脈の3断面で収縮期の最大 WSS を測り、3断面の平均をとる方法が最も強く平均肺動脈圧(r = −0.75)と肺血管抵抗(r = −0.76)に相関しました。この平均値 0.3 Pa 未満を肺高血圧の判別に使うと、別に集めた群で感度90%・特異度100%でした。閾値は1.5 T の1施設・1種類のシーケンスでの値で、他施設へそのまま持ち込めません。
肺動脈の WSS を臨床指標として使いたいという相談に、測り方と閾値の両方を示せる文献です。注目点は2つあります。1つは、1断面の値より3断面の平均のほうが侵襲的な計測値とよく相関し、2人の解析者の間の級内相関係数も0.98だった点で、断面の置き方による差を平均で抑える考え方は他の血管にも応用できます。もう1つは、16例で患者固有の CFD を行い、CFD の WSS と平均肺動脈圧の相関(r = −0.63)が 4D Flow の値と同じだった点です。絶対値は分解能で過小評価されると著者自身が書いており、相関の向きと強さは保たれても、閾値の数値は撮像条件と解析ソフトに結びついています。対照の多くが健常ボランティアで、平均肺動脈圧の平均が44 mmHg と進んだ患者が中心のため、判別成績は実臨床より高く出ると著者が明記しています。
Bioengineering (Basel)
2026
解析実務に直答
技術動向
形状から分流比へ — 微小血管の血行力学を解釈するための物理モデルの枠組み
From Geometry to Flow Allocation: A Physics-Based Framework for Interpretable Microvascular Hemodynamics
出口の圧力をそろえて計算すると、形状を変えるたびに分枝へ流れる流量の割合(分流比)も変わり、WSS の差には形状の効果と分流比の効果が重なって出ます。この2次元模型では、角度30°から120°で分流比が0.356から0.151に変わり、受血側の最小 WSS の角度による幅は平均の92.1%でした。分流比を約0.25にそろえると幅は16.1%に縮みました。形状の比較では、分流比を報告し、そろえた条件でも結論が残るかを確かめる必要があります。
吻合やバイパスの形状を変えた計算結果を比べる相談で、出口の境界条件の置き方を説明する根拠になります。出口の圧力をそろえる設定は手軽ですが、形状を変えると流量の配分も変わるため、WSS の違いを形状だけのせいにできません。この論文は、分流比をそろえると最小 WSS の角度差の大半が縮む一方、ヒール直下と吻合口直下の WSS は角度差が残るか広がることを示しています。どの指標が分流比で説明でき、どの指標が形状に結びつくかは、条件をそろえて比べるまで分かりません。ただし対象は直径 2.5 mm の微小血管を2次元・定常で近似した模型で、絶対値は格子の細かさで6〜23%動きます。臨床の3次元の血管にそのまま数値を移すことはできず、比較の手順の参考として読むのが妥当です。
Life (Basel)
2026
研究の着想
解析実務に直答
腹部大動脈瘤の進行予測 — FDG による大動脈壁の集積と血流の役割
Predicting Abdominal Aortic Aneurysm Progression: The Role of 18F-Fluorodeoxyglucose Aortic Wall Uptake and Flow Dynamics
腹部大動脈瘤32例を PET/MRI で撮像し、平均2年追跡した研究では、時間平均壁せん断応力(TAWSS)・OSI・相対滞留時間はいずれも瘤の拡大速度と相関しませんでした。拡大速度と関連したのは回転流の指標で、渦度は単変量で相関し(rs=0.453)、径で補正するとヘリシティ密度が残りました。ヘリシティ密度が負(反時計回り)の瘤は正の瘤より速く拡大しています。ただし著者自身が探索的な結果と位置づけており、壁せん断応力を外して回転流を主指標にする根拠としてはまだ足りません。
「腹部大動脈瘤の研究で 4D Flow から何を出せばよいか」という相談で、壁せん断応力と OSI だけを主指標に置く計画に対して、回転流の指標を並べて取るよう勧める根拠になります。読むときの注意が3つあります。1つ目は、流れの指標を収縮期最大の1時相で、28区画の中央値として取っていることです。2つ目は、4D Flow を撮れなかった5例の流れの指標を全体の中央値で補っていることです。32例のうち5例が補完値で、多変量の結果はこの補完に左右されます。3つ目は、ヘリシティの正負がどちら向きから見た回転かが本文に書かれていないことです。ヘリシティは速度の空間微分を含む指標で、分解能の影響も受けます。他の解析で同じ符号の判定をするときは、軸の向きの定義から合わせる必要があります。
European Heart Journal. Imaging Methods and Practice
2026
解析実務に直答
研究の着想
単心室循環における大静脈の血流と壁せん断応力の変化 — フェルモキシトール造影 4D Flow MRI による検討
Altered caval flow and wall shear stress in single ventricle circulation: insights from ferumoxytol-enhanced 4D flow MRI
18歳以下の387例(単心室126例、二心室261例)を同じ造影 4D Flow の手順で測った研究です。体表面積あたりの上大静脈の流量は単心室で 1.11 L/min/m²、二心室で 1.50 L/min/m²、上大静脈の壁せん断応力は 16.0 cPa と 22.7 cPa で、単心室が低くなりました。上大静脈が大静脈還流に占める割合は年齢と体表面積が大きいほど下がり、年齢・体表面積・全身麻酔で補正したあとも単心室で低いままでした。壁せん断応力は解析ソフト固有の算出方式による数値で、他のソフトや CFD の数値とは絶対値で比べられません。
先天性心疾患の相談で多い「Fontan の上大静脈の流量や壁せん断応力を、何と比べて読めばよいか」に、数百例規模の群別の数値で答える材料になります。読み方の要点は2つあります。1つ目は、上大静脈の流量比は成長とともに下がるため、年齢や体表面積が違う患者を並べるだけでは病態の差と成長の差を分けられないことです。著者も、流量比の低下を病状の進行と決めつけず年齢と体格に照らして読むよう書いています。2つ目は、壁せん断応力の絶対値が算出方式に強く依存することです。同じ論文の中でも二心室の上行大動脈で 25.8 cPa、下行大動脈で 100.2 cPa と4倍の開きがあり、当社の解析結果と数値を直接並べる使い方はできません。群間の大小関係と、補正すべき因子の一覧として使うのが妥当です。
Quantitative Imaging in Medicine and Surgery
2026
解析実務に直答
研究の着想
妊娠高血圧における頸動脈リモデリング — RF 信号による血管硬度解析とベクトルフローイメージングでの特徴づけ
Characterization of carotid remodeling in gestational hypertension using radiofrequency data-based vessel stiffness analysis and vector flow imaging
Mindray Resona R9S で妊婦347人の右総頸動脈を測った研究です。平均の壁せん断応力は、正常血圧の対照で 1.30±0.38 Pa、妊娠高血圧で内中膜厚が正常な群で 0.89±0.32 Pa、内中膜が肥厚した群で 0.65±0.27 Pa と段階的に下がりました。ただし内中膜の肥厚を判別する力は血管硬度の指標のほうが高く、壁せん断応力は補完的な位置づけです。算出方法と「平均」の定義は本文に書かれていないため、他の装置や MRI、CFD の値と絶対値で比べることはできません。
エコー由来の壁せん断応力について、数百人規模で群ごとの実測値と再現性をまとめて示した報告です。相談で多い「エコーで出す壁せん断応力はどの程度の値になるのか」「群間差は出るのか」に、装置名つきで答える材料になります。同時に、限界も読み取れます。内中膜の肥厚を判別する曲線下面積は、硬度係数 0.909、脈波伝播速度 0.885 に対し、平均の壁せん断応力は 0.837 でした。壁せん断応力だけを主指標に立てる研究計画には、硬度の指標を並べるよう勧める根拠になります。既掲載の俯瞰調査で、頸動脈のベクトル流速の研究は Mindray の装置に偏っていると指摘されており、この研究も同じ装置です。
Quantitative Imaging in Medicine and Surgery
2026
解析実務に直答
研究の着想
前交通動脈瘤の壁造影を左右する血行力学因子としての局所圧 — 面要素単位の CFD と血管壁 MRI の解析
Local pressure as a dominant hemodynamic driver of wall enhancement in anterior communicating artery aneurysms: a facet-level computational fluid dynamics and vessel wall imaging analysis
前交通動脈瘤25個(24例)で、CFD と 3T の血管壁 MRI を瘤表面の面要素ごとに重ねた研究です。同じ瘤の中で比べると、造影部は収縮期ピークの局所圧が平均 35.25 Pa、ピークの壁せん断応力が 3.97 Pa 低く、多変量の解析では局所圧が最も強い因子として残りました。ただし瘤の造影の有無を扱う解析での有意性は境界上(p = 0.0499)で、造影の閾値を下げると圧の差は消えます。局所圧も並べて見る価値を示す仮説段階の報告と読むのが妥当です。
脳動脈瘤の相談では「低 WSS の領域が壁の炎症と一致するか」がよく問われます。この研究は、壁せん断応力に加えて局所圧も同じ面要素で並べる設計を示しており、解析の組み立ての参考になります。読むときの注意は3点です。第一に、35 Pa は 1 mmHg(約 133 Pa)に満たない差です。境界条件は集団平均の波形で、著者自身が、絶対値には 20〜30% の不確かさがあると述べています。同じ瘤の中の相対的な分布として読む必要があります。第二に、造影の閾値で結論が変わります。第三に、患者をまたいだ予測は成立しておらず、個々の瘤のリスク判定には使えません。
JACC: Cardiovascular Imaging
2019
解析実務に直答
技術動向
急性冠症候群の前に撮られた冠動脈 CT の血流指標で、責任病変を見分けられるか — EMERALD 研究
Identification of High-Risk Plaques Destined to Cause Acute Coronary Syndrome Using Coronary Computed Tomographic Angiography and Computational Fluid Dynamics
急性冠症候群の1か月〜2年前に CT を撮っていた72例の216病変で、責任病変は非責任病変より CT-FFR が低く、病変前後の CT-FFR の差(ΔFFRCT)、WSS、軸方向のプラーク応力が高い値でした。狭窄度・病変長・プラーク性状のモデルに血流指標を加えると識別能が上がり(c 指数0.747→0.789)、単独で最も情報量が多かったのは ΔFFRCT でした。
血流の指標を組み合わせると、形態とプラーク性状だけのモデルより将来の責任病変を見分けやすくなることを示した研究です。冠動脈の WSS の総説では「CT 由来の WSS が狭窄度や高リスクプラークより心筋梗塞をよく予測した」と要約されていますが、原文では WSS は4つの血流指標の1つで、単独で最も情報量が多かったのは病変前後の圧の差(ΔFFRCT)でした。WSS も単独で識別能を上げていますが、閾値 15.47 Pa は最大充血を模した定常計算の値で、安静時の WSS とは桁が異なります。CT-FFR の計算で同時に得られる量なので追加の計算負担がないことも、実用上の利点として書かれています。
European Heart Journal
2019
解析実務に直答
技術動向
ヒト冠動脈の壁面せん断応力の評価に関する専門家推奨 — 再構成・境界条件・格子・臨床応用
Expert recommendations on the assessment of wall shear stress in human coronary arteries: existing methodologies, technical considerations, and clinical applications
冠動脈口から関心領域までを再構成し、関心領域の直前の分岐を含めます。格子は細分化で WSS の変化が3%以内になるまで収束を確かめ、血液は剪断減粘性の模型で扱うよう推奨しています。プラークの進展を調べるなら IVUS と造影または CT の融合、被膜の微細構造やステントなら OCT の融合を勧め、MRI は冠動脈の形状に精度が足りないとしています。
冠動脈の WSS 研究の第一人者29名が、計算手順と臨床の根拠を一つにまとめた文書です。冠動脈 WSS の総説(JAHA 2024)が引く 1 Pa 未満・1〜7 Pa・7 Pa 超の区分の出典はこの文書の表で、その数値の多くは培養内皮の実験条件と少数の生体計測から来ています。つまり施設をまたいで使える診断閾値として検証された値ではありません。当社が冠動脈の WSS 解析を受けるとき、形状の取得方法・分岐の扱い・格子の収束・血液の模型・入口付近の値の除外を、この推奨に沿って説明し記録する土台になります。現在の WSS は臨床事象を予測するのに十分な感度・特異度を持たないと文書自身が書いている点も、過大な説明を避けるために押さえておくべき記述です。
Journal of the American College of Cardiology
2018
解析実務に直答
技術動向
FFR 陽性の安定冠動脈疾患で、病変近位部の高い WSS は心筋梗塞を予測するか — FAME 2 の事後解析
High Coronary Shear Stress in Patients With Coronary Artery Disease Predicts Myocardial Infarction
FAME 2 の薬物治療群441例のうち3年以内に責任血管の心筋梗塞を起こした29例と、背景を揃えた対照29例を比べると、病変近位1/3の WSS が 3 Pa 上がるごとに心筋梗塞のハザードが23%増えました。最適な閾値は 4.71 Pa で、FFR の予測モデルに加えると再分類が改善しました。病変の上流・中部・遠位・下流の WSS や、低い WSS は心筋梗塞と関連しませんでした。
圧の比である FFR と、壁に沿う力である WSS は、同じ狭窄から計算しても互いに独立した情報を持つことを示した研究です。病変近位部の WSS と FFR の相関はほぼありませんでした(ρ=−0.152)。計算は造影の2方向からの3次元再構成、造影剤の速度から求めた患者ごとの入口流速、Murray 則による分流、定常流と、日常の造影で実行できる条件です。著者は、拍動・壁の運動・心臓の動きを入れた理想的な模型でなくても転帰の予測には足りる可能性を示唆しています。一方、症例29例の事後解析で、閾値 4.71 Pa はこの計算手順と集団に固有の値です。
Heart and Vessels
2016
研究の着想
技術動向
冠動脈バイパスの中枢側吻合の向きがグラフト内の血流に与える影響 — 理想化模型による CFD
Impact of top end anastomosis design on patency and flow stability in coronary artery bypass grafting
理想化模型で比べると、大動脈の長軸に直角で最短経路をとる吻合は、長軸に平行で心尖部へ向ける吻合より、グラフトが3.6 cm 短く血流が5%多くなりました。平行な吻合では収縮早期に吻合部で流れの剥離が起き、最小 WSS 0.53 Pa・OSI 0.46 でしたが、直角な吻合では剥離がなく 4.09 Pa・0.04 でした。
当社の宮崎が共著者として参加した研究です。冠動脈の血流は拡張期が主体なので心尖部へ向ける吻合が有利という直観に対し、計算は最短経路の直角吻合を支持しました。冠動脈への血流源が収縮期には上行大動脈の順行流、拡張期には大動脈弓からの逆行流であり、大動脈の軸に直角な吻合ではどちらの時相でも流入が安定するという説明です。著者はグラフト流量よりも、長期開存に関わると考えられる WSS と OSI を重く見ていますが、OSI と静脈グラフトの長期開存の因果は証明されていないことを限界として明記しています。術式の比較に WSS と OSI を使う研究の書き方の手本になります。
Circulation
2012
解析実務に直答
技術動向
内皮せん断応力とプラーク量で冠動脈病変の進行を予測できるか — 日本の506例による PREDICTION 研究
Prediction of progression of coronary artery disease and clinical outcomes using vascular profiling of endothelial shear stress and arterial plaque characteristics: the PREDICTION Study
日本の17施設506例の3枝を IVUS と造影で再構成して ESS を求め、374例を6〜10か月後に再評価しました。内腔面積の減少は大きなプラーク量と低い ESS がそれぞれ独立に予測しました。両者を併せ持つ狭窄が1年以内に PCI を要した割合は41%、どちらも無ければ92%が進行しませんでした。ただし両者を併せ持つ患者は6%で、症状のある臨床事象は少なく統計的に扱えませんでした。
計算した ESS が、形態の指標(プラーク量)に上乗せして予後情報を持つことを、数百例の規模で示した研究です。日本では急性冠症候群の PCI 後6か月に追跡造影と IVUS を行う慣行があったため、日本の施設で実施されています。一方で、主要評価項目のプラーク面積の増加は ESS では予測できず、高い ESS と病変進行の関連も見られませんでした。ESS の区分は3分位(低 1 Pa 未満、中 1〜1.7 Pa、高 1.7 Pa 超)で、症状のある事象は14例と少数です。計算した ESS の予後的価値を説明するときに、陽性的中率41%という上限と、対象の6%にしか当てはまらないという範囲の両方を示す材料になります。
Circulation
2011
技術動向
研究の着想
冠動脈の WSS はプラークの進展と組成の変化に関わるか — 低 WSS と高 WSS の6か月の追跡
Coronary artery wall shear stress is associated with progression and transformation of atherosclerotic plaque and arterial remodeling in patients with coronary artery disease
20例の左前下行枝で、WSS を低(1.0 Pa 未満)・中(1.0〜2.5 Pa)・高(2.5 Pa 超)に分けて6か月追跡すると、低 WSS の区間はプラーク面積と壊死性コアが増え、血管が内向きに縮む傾向でした。高 WSS の区間はプラーク面積は増えず、壊死性コアと高密度石灰が増え、線維・線維脂肪成分が減り、血管が外向きに過剰に広がる傾向でした。破綻しやすい組成への変化を示唆する結果です。
低い WSS は悪く高い WSS は安全、という単純な図式を崩した研究です。高い WSS の区間ではプラークの量は増えないかわりに組成が不安定な方向に変わり、のちの高 WSS と心筋梗塞の研究につながりました。計算条件では、入口と出口にドップラーワイヤーで実測した流速を与え、側枝も再構成に含めて拍動流で解いています。一方、低い WSS の区間で血管が縮む傾向は、同じ IVUS と CFD の方法で外向きの拡大を報告した Stone 2003 と逆で、リモデリングの向きは研究間で一致していません。プラークの組成は高周波 IVUS(VH-IVUS)の推定で、組織学との対応には異論があります。
Atherosclerosis
2010
技術動向
冠動脈の流れの計算で側枝を省くと WSS はどれだけ変わるか — 右冠動脈17例の比較
Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches
右冠動脈17例を側枝ありと側枝なしで解き比べると、側枝なしでは主幹の流量が側枝の分だけ減らないため、WSS の中央値が 2.54 Pa から 4.37 Pa に上がり、同じ点の差は最大 12.0 Pa に達しました。差は分岐部だけでなく狭窄部と強い湾曲部にも及びました。一方、定常計算と拍動計算の時間平均 WSS の差は平均7%未満で、分布の相関は0.97を超えました。
冠動脈の解析で側枝を省くと、主幹の流量を過大に与えることになり、WSS が系統的に高く出ます。冠動脈では側枝による主幹の流量の減少が健常者で36.8%、冠動脈疾患で62.6%(中央値)に達し、無視できる大きさではありません。IVUS だけで再構成すると側枝が入らないため、造影との融合で側枝を加える必要がある、という Gijsen らの推奨の根拠の一つです。逆に、時間平均の WSS の分布を見るだけなら定常計算で足りるという結果は、計算費用を説明するときに使えます。ただし OSI のような時間成分の指標は拍動計算でしか得られません。
Journal of the American College of Cardiology
2008
技術動向
研究の着想
冠動脈プラークの破裂部位と局所的に高い壁面せん断応力の一致 — 3次元 IVUS と CFD による解析
Localized elevation of shear stress is related to coronary plaque rupture: a 3-dimensional intravascular ultrasound study with in-vivo color mapping of shear stress distribution
急性冠症候群で明瞭な潰瘍のある20病変を3次元 IVUS で再構成し、破裂前の形を外挿して CFD で解くと、すべての破裂がプラークの近位側か頂部にあり、局所的に高い壁面せん断応力の位置と破裂の位置がよく一致しました(κ=0.79)。圧力の局所的な上昇は2病変だけでした。
壁面せん断応力の絶対値は線維性被膜を機械的に壊すには小さすぎるため、破裂の引き金としては長く重視されてきませんでした。この研究は、絶対値ではなく分布の偏り(局所的な集中)に注目し、日本の施設から破裂部位との空間的な一致を示しました。計算は定常流・入口 30 cm/秒の一様流・出口抵抗なし・剛体壁と大きく簡略化され、破裂後の形から破裂前の形を外挿しています。著者自身が、空間的な一致は因果の証拠ではないと書いています。簡略な計算でも分布の位置は議論できるが絶対値は議論できない、という使い分けの例として読めます。
Journal of the American College of Cardiology
2007
解析実務に直答
技術動向
冠動脈硬化の自然歴と血管リモデリングにおける内皮せん断応力の役割 — 分子・細胞・血管の総説
Role of endothelial shear stress in the natural history of coronary atherosclerosis and vascular remodeling: molecular, cellular, and vascular behavior
分岐部や湾曲の内側など、時間平均の内皮せん断応力(ESS)が低い部位で内皮が動脈硬化を起こしやすい性質に変わり、初期プラークができます。その後、血管が外向きに広がって ESS が正常に戻れば安定したプラークに、過剰に広がって低い ESS が続けば、炎症と基質の分解が進んで破裂しやすい薄い線維性被膜のプラークに育つという枠組みです。
ESS が単なる危険の印ではなく、プラークの成長と血管の形の変化を通じて自分自身を変えていく量として描かれている点が要点です。血管が外向きに広がると局所の流れが変わり、ESS が正常に戻るか低いまま続くかでプラークの行く先が分かれます。つまり ESS は一時点の値ではなく、形と流れの相互作用の履歴として見る必要があります。血流解析で1回の計算から将来を語るときの限界と、経時的に同じ部位を解析する意義を説明する材料になります。高い ESS が高度狭窄の頸部でびらんに関わりうるという記述も、のちの高 WSS 研究につながります。
Annals of Biomedical Engineering
2003
研究の着想
ステント留置で冠動脈の壁面せん断応力はどう変わるか — スロット管ステントの3次元 CFD
Three-dimensional computational fluid dynamics modeling of alterations in coronary wall shear stress produced by stent implantation
イヌの左前下行枝の実測流速と内径から、スロット管ステント(16 mm、ストラット突出 0.1 mm)を入れた3次元模型を作って定常流で解くと、ストラットの前後に低 WSS の淀みができ、ステントの出口側で低 WSS の範囲が広がりました。アデノシンで血流を増やした条件では、最小 WSS がステントのない血管より出口で77%、ステント内で66〜82%低くなりました。
ステントの再狭窄率がステントの種類で違う理由を、ストラットの形が作る局所の流れから説明しようとした初期の3次元計算です。ストラットの直上で WSS が高く、前後で低くなり、軸方向のストラットが近く周方向の間隔が広い部位に低 WSS が集まりました。血流が増えるほど出口の低 WSS の範囲が延びる結果も示しています。のちの Gijsen らの推奨が、ステント内ではストラットの高さを約10要素で分割する細かい格子を求める背景にある研究です。直線の剛体管・定常流・ニュートン流体と簡略化が大きく、資金の一部はステントの製造企業から出ています。
Circulation
2003
技術動向
研究の着想
ヒト冠動脈で内皮せん断応力から6か月後のプラーク進展を予測できるか — IVUS と CFD の連続観察
Effect of endothelial shear stress on the progression of coronary artery disease, vascular remodeling, and in-stent restenosis in humans: in vivo 6-month follow-up study
8例12本の冠動脈を IVUS と造影で3次元に再構成して CFD で ESS を求め、6か月後に同じ部位を再評価しました。自己冠動脈では ESS が低い領域でプラークが厚くなり、血管が外向きに広がって内腔は保たれました。生理的な ESS の領域はほぼ変化がなく、高い ESS の領域は外向きに広がって ESS が正常化しました。ステント内は ESS によらず内膜が厚くなりました。
患者固有の冠動脈形状から計算した ESS が、その後の血管壁の変化と対応するかを、同じ人の同じ部位で追った最初の研究です。計算条件は定常流・剛体壁・ニュートン流体と簡素で、流量は造影剤が区間を通過するフレーム数から求めています。著者は、平均流量で定常計算した ESS が拍動計算の時間平均 ESS とほぼ一致することを先行研究で確かめたとしています。8例という小規模な予備研究であり、ステント内の再狭窄に ESS が関わる程度は限られるという結果も含めて、計算した壁面せん断応力の使い道を見極める材料になります。
Diagnostics (Basel)
2026
解析実務に直答
技術動向
頸動脈狭窄の評価におけるベクトルフローイメージング — 俯瞰調査
Vector Flow Imaging for Carotid Artery Stenosis Assessment: A Scoping Review
2026年4月末までの文献を集めた俯瞰調査です。結果を集計できた42件のうち、壁せん断応力が25件、速度ベクトルが14件、乱流の指標が11件、振動せん断指数が8件を占めます。一方で診断能を報告したのは8件、閾値を事前に決めていた研究はなく、盲検化を明記したのは2件でした。著者は臨床的有用性は確立していないと述べています。
この文献が扱うのは超音波のベクトルフローイメージングで、心腔内を対象とする Vector Flow Mapping とは計測系が違います。それでも、ベクトル流速場から壁せん断応力を導いて臨床判断に使えるかという論点は共通します。使いどころは、どの指標が主流かと、同じ出典で何が足りていないかを一度に示せることです。装置別の内訳が出ているため、他施設の数値を自施設の数値とそのまま比べてよいかを判断する材料にもなります。診断能を扱った8件のうち7件が同一メーカーの装置で、装置をまたいだ比較可能性は検証されていません。
Annals of Thoracic and Cardiovascular Surgery
2026
解析実務に直答
技術動向
弓部大動脈手術における術後脳梗塞の術前リスク層別化 — アテローム量の定量評価と数値流体解析
Preoperative Risk Stratification of Cerebral Infarction in Aortic Arch Surgery Using Quantitative Atheroma Assessment with Computational Fluid Dynamics
国内単施設の72例を後ろ向きに調べた報告です。CT の断面から積み上げた上行大動脈のアテローム量は、術後に脳梗塞を起こした8例で有意に高く、曲線下面積 0.79、カットオフ 352.3 で感度 87.5%・特異度 82.8% でした。一方、壁の性状を目視で判定する定性的な評価は術後脳梗塞と関連しませんでした。
術前計画でどの指標を見るべきかという相談に、国内の外科施設のデータで答えられる報告です。要点は、同じ CT から得られる情報でも、目視による性状評価では術後脳梗塞を分けられず、断面ごとの面積を積み上げた定量値では分けられたという対比にあります。数値で示すことの意味を説明する裏づけになります。数値流体解析は脳梗塞8例のうち3例に対してのみ行われた補足的な位置づけで、右鎖骨下動脈の1本送血では上行大動脈に高い壁せん断応力の領域が現れ、左右送血にすると弱まることを示しています。壁せん断応力の実数は報告されていないため、桁感の参照には使えません。
Frontiers in Surgery
2026
解析実務に直答
研究の着想
無症候性の中等度頸動脈狭窄のリスク層別化 — 局所の流れと全身の臨床像を組み合わせる
Risk stratification in intermediate asymptomatic carotid artery disease: a multi-modal approach combining local flow dynamics and systemic clinical profiles
無症候性の頸動脈146枝を最長3年追跡し、狭窄が絶対 10% 超進んだかどうかを予測する機械学習モデルを組んだ研究です。狭窄度だけでは AUC 0.552、臨床危険因子だけでは 0.459 と偶然と変わらず、CFD 由来の血行力学量13項目を足したときだけ 0.814 になりました。最も効いたのは低 TAWSS 領域が内腔表面に占める割合です。
血行力学量を計算する意味を、前処理をそろえたまま特徴量を足し引きして示した研究です。狭窄度も危険因子もほぼ偶然と変わらない判別しかできず、CFD 由来の13項目を加えたときだけ判別が成立しました。計算に見合う情報が出るのかと問われたときに出せる一次データになります。もう1つ実務に効くのは、効いた特徴量が壁面せん断応力のピーク値でも平均値でもなく、低 TAWSS 領域が内腔表面に占める割合だった点です。危ない場所の強さでなく広さを見るという読み方は、当社が出す分布図をどう読むかの説明に直結します。ただし外部コホートでの検証はなく、感度は 0.609 にとどまります。単独の判定材料として扱える段階ではありません。
Frontiers in Cardiovascular Medicine
2026
解析実務に直答
研究の着想
エネルギー損失の成分分解による EVAR 後 I 型エンドリークの評価 — 予備的な実行可能性研究
Evaluation of Type I endoleak after endovascular aneurysm repair for abdominal aortic aneurysm using component quantification of energy loss: a preliminary feasibility study
腹部大動脈瘤に EVAR を行った8例(I 型エンドリークあり4例・なし4例)を比べた研究です。壁面平均の時間平均せん断応力には群間差が出ず、エネルギー損失を平均流成分と乱流成分に分けて部位別に積算したときだけ差が出ました。左腸骨枝の乱流成分は 828 対 399(単位 10⁻⁶ W)です。ただし各群4例で、著者自身が仮説を立てる段階だと述べています。
エネルギー損失を1つの総和として出すのでなく、平均流成分と乱流成分に分け、さらにステント本体・左右の腸骨枝と部位ごとに区切って積算した解析です。同じ計算から出した壁面平均の TAWSS では群間差が出ず、成分に割ったエネルギー損失でだけ差が出たという対比は、どの指標を見るべきかを相談されたときの材料になります。実務で効くのは、平均を取る範囲の決め方です。血管全体で平均すると接合部で起きていることが薄まるため、区間を切って積算する必要があります。一方、各群4例という規模は小さく、入口の流量波形も個別計測でなく標準波形を当てているため、絶対値をそのまま他施設と比べる使い方はできません。
The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
2009
研究の着想
解析実務に直答
Y字型 extracardiac Fontan グラフトの CFD 評価
Evaluation of a novel Y-shaped extracardiac Fontan baffle using computational fluid dynamics
良くなります。断面積を保つ12mm分枝の Y 字グラフトは、安静時も運動時も従来の T 字接続とオフセット型より効率が高く、安静から運動への効率低下を38%改善しました。上大静脈圧は運動時に最大5mmHg下がり、下大静脈血流も左右肺へより均等に配分されました。
術式の代替案を CFD で比べるときの、指標の立て方が参考になります。Fontan 圧・エネルギー効率・下大静脈血流の配分・壁面せん断応力の4つを並べ、単一指標では見えない副作用まで拾っています。実際、効率が最も高い12mm分枝は低ずり領域がやや広いという逆向きの結果も併記されており、こうした指標間のトレードオフを隠さないことが術式提案の説得力になります。分枝径を「既製品の9mm」と「断面積を保つ12mm」で振っている点も、実装可能性を意識した設計として学べます。
Journal of Biomechanical Engineering
2026
解析実務に直答
技術動向
冠動脈 CFD に不確かさ定量を組み込む — 入力のばらつきは WSS のどこに効くか
Integrating Uncertainty Quantification into Computational Fluid Dynamics Models of Coronary Arteries Under Steady Flow
定常流の患者個別冠動脈モデルで、粘度・速度・圧・密度のばらつきを確率分布として与えて伝播させると、WSS の空間中央値は 0.47〜1.33 Pa の幅で動きました。寄与は粘度が約 0.59、速度が約 0.40 で、この2つでほぼ全部。密度と圧はほぼ効きません。一方で高低の空間分布そのものは保たれました。絶対値の比較には慎重に、分布の比較には自信を持てる、ということです。
「文献の WSS 値と自分の結果が合わない」というご相談への、方法論側からの答えです。この文献は入力を1点の値ではなく確率分布として与え、多項式カオス展開で WSS のばらつきと寄与率を計算しています。実務的に効くのは、患者個別モデルで最大の寄与要因が血液粘度だったという点です。粘度は測定されることが稀で、たいてい文献の代表値が使われます。著者らはここに患者個別の測定を入れることが不確かさ低減の近道だと述べています。もう一つ重要なのは、WSS の値そのものは大きく振れるのに、高い場所と低い場所の空間パターンは保たれたことです。当社が指標の絶対値より分布・相対比較を勧める理由が、ここに数字で裏づけられています。
Biomechanics and Modeling in Mechanobiology
2026
解析実務に直答
技術動向
壁の伸展性は頸動脈分岐の局所血行動態をどこまで変えるか — FSI と剛体壁 CFD の対比較
Influence of wall distensibility on local hemodynamics at the normal carotid bifurcation: a fluid-structure interaction study
健常形態の頸動脈分岐10例で二方向連成 FSI と剛体壁 CFD を対で比較したところ、低 TAWSS・高 OSI・高 TSVI にさらされる面積の差は中央値で 4.1%・1.4%・2.3%、分布の重なりを表す類似度指数は 0.83・0.79・0.68 でした。臨床的に意味のある血行動態の特徴は剛体壁 CFD で捉えられます。FSI が要るのは壁応力そのものを見たいときです。
「壁を固定して計算していて本当に良いのか」は、当社が繰り返し受けるご相談です。この文献はそれに正面から答えたもので、同じ10形状に剛体壁 CFD と FSI を対で走らせ、差を数字で示しています。結論は「頸動脈分岐の範囲では剛体壁で足りる」。特筆すべきは、比較対象に TSVI(WSS 位相幾何の時間変動)やヘリシティといった、壁の動きに敏感と考えられていた新しい指標まで含めている点です。同時に著者らは、この結論が変形量に依存することも明記しています。肺動脈自家移植片のように大きく動く構造では剛体壁仮定が破綻した先行報告を引き、頸動脈で成立したことをそのまま他部位に持ち込まないよう注意を促しています。
Journal of the American Heart Association
2024
解析実務に直答
技術動向
冠動脈の乱れた血流と WSS の計算評価 — 現状の総説
Advances in the Computational Assessment of Disturbed Coronary Flow and Wall Shear Stress: A Contemporary Review
WSS の閾値は 1 Pa 未満を低、1〜7 Pa を正常〜高、7 Pa 超を高とする合意枠組みが示されています。EMERALD では CT 由来 WSS が狭窄度や高リスクプラーク所見より心筋梗塞をよく予測しました。ただし CFD の臨床効果を検証した無作為化試験はなく、計算コストと自動化が障壁として残ります。
冠動脈 CFD の現在地を数値付きで確認できる総説です。閾値の合意枠組み(1 Pa 未満/1〜7 Pa/7 Pa 超)が示されているため、自社の解析結果をどう表現するかの基準になります。もう一つ重要なのは、CT-FFR と QFR が侵襲 FFR と同等の診断精度を示す一方で、TARGET 試験では血行再建が増えても症状の改善も心事故の減少もなかったという記述です。診断精度と患者利益が同じではないことを示しており、顧客に技術の位置づけを説明するときに引ける材料になります。
BioMedical Engineering OnLine
2021
解析実務に直答
技術動向
大動脈縮窄の乱流と WSS — MRI と CFD はなぜ桁で違うのか
Assessment of turbulent blood flow and wall shear stress in aortic coarctation using image-based simulations
分解能。ファントムで条件を完全に揃えても、CFD の平均 WSS は MRI の3.7倍、狭窄部のピークは8.3倍でした。CFD 側を MRI と同じ分解能に落とすと差が縮むことから、原因は MRI が壁近傍を解像できないことにあります。正規化した WSS 分布なら両者はよく一致します。
「MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS が合わない」に対する決定的な検証です。ファントムで境界条件・形状・壁の条件をすべて揃えたうえで差が残り、CFD の解像度を MRI に合わせて落とすと差が縮みます。原因が MRI の壁近傍分解能にあることを、消去法で示しています。実務上の結論も明快で、壁近傍の分解能を高く取りたいなら CFD、局所の高低を見るなら MRI で足ります。ただし CFD の値も粘度・境界条件・壁モデル・形状に依存するため、絶対値の基準にはなりません。両者を併用し、正規化した WSS で比較するという著者の推奨は、当社が案内している方針と一致します。
Magnetic Resonance in Medical Sciences
2020
解析実務に直答
腹部大動脈拡張部では低 WSS・高 OSI になる — 4D Flow による実測値
Abnormal Flow Dynamics Result in Low Wall Shear Stress and High Oscillatory Shear Index in Abdominal Aortic Dilatation: Initial in vivo Assessment with 4D-flow MRI
収縮中期で WSS は拡張部 0.20 Pa 対 非拡張部 0.68 Pa(p<0.0001)、OSI は 0.093 対 0.041(p=0.013)。WSS は3分の1以下に下がり OSI は2倍以上に上がります。径比との相関は WSS 振幅のほうが強い(r=−0.694)。
腹部大動脈で WSS と OSI の実測値が対で示された数少ない報告です。値の桁を押さえておくと、自施設の解析結果が妥当な範囲にあるかの一次判定に使えます。同一被験者内で拡張部と上流の非拡張部を比べているため、被験者間のばらつきが入りません。ただし2 mm のパーティション厚では WSS が過小評価されうると著者自身が述べており、絶対値をそのまま他施設と比べることはできません。血液粘度に 0.00384 Pa·s を仮定している点も、比較の前に確認すべき条件です。
Heart and Vessels
2017
解析実務に直答
技術動向
4D Flow MRI による大動脈弓 CFD の妥当性検証 — CFD と MRI はどこでどれだけ食い違うか
Validation of numerical simulation methods in aortic arch using 4D Flow MRI
流れの分布は一致するが、絶対値は一致しません。WSS は CFD が MRI の3〜5倍、エネルギー損失は2〜5倍。頸部分枝のような細い血管では MRI 側が流量を50〜60%過小評価します。乱流モデルは RNG k-ε が最も MRI と相関しました。
「CFD と MRI で値が違う」という相談に対して、食い違いの向きと大きさを数字で示せる一報です。当社が受ける問い合わせの多くはこの一点に集約されます。重要なのは、分布パターンは一致するのに絶対値は数倍ずれるという構図で、これは壁近傍の速度勾配を MRI の分解能では解像できないことに起因します。したがって MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS を同じ土俵で比較することはできません。同一手法の中での相対比較に寄せるという当社の案内は、この結果を根拠にしています。筆頭著者は当社の宮崎です。
Scientific Reports
2017
解析実務に直答
WSS と動脈瘤破裂の関連 — 22研究1257例のメタ解析
Association of Wall Shear Stress with Intracranial Aneurysm Rupture: Systematic Review and Meta-analysis
22研究1257例を統合すると、低 WSS(0〜1.5 Pa)と破裂の関連はオッズ比 2.17(95% CI 1.73–2.62)で残ります。平均 WSS は破裂群 0.64 Pa、非破裂群 1.4 Pa(p=0.037)。ただし OSI は統合しても有意にならず、異質性と出版バイアスも検出されています。
低 WSS 説を引用するときに、単一施設の報告ではなく統合結果を挙げられる一報です。ただし読み方には注意が要ります。低 WSS の範囲を 0〜2.0 Pa に広げるとオッズ比の信頼区間が 1 をまたぎ(0.89–5.06)、有意性が消えます。つまり結論は閾値の切り方に依存しています。同じ疑問を210瘤の単施設研究に当てると逆向きの結果が出ており、両者は矛盾したまま併存しています。この不一致自体が、指標の定義と集団の構成を明記しないと比較が成立しないことの実例です。
AJNR American Journal of Neuroradiology
2015
解析実務に直答
研究の着想
CFD Rupture Challenge 2013 Phase I — 26グループは同じ形状から同じ答えを出せたか
The Computational Fluid Dynamics Rupture Challenge 2013—Phase I: prediction of rupture status in intracranial aneurysms
26グループが同一の2症例を盲検で解析。破裂側の判定は21/26が正解したが、破裂部位の予測は6箇所に散って一致しませんでした。ばらつきの主因は解析手法ではなく境界条件で、条件を指定した Phase II ではほぼ同一の流れ場が得られています。
「文献値と自分の結果が合わない」という相談に、最も直接的な根拠を与える一報です。参加グループが自由に選んだ流量は 0.9〜11.36 mL/s と13倍の開きがあり、実測値の 1.76 / 2.5 mL/s から大きく外れたものが含まれていました。入口流速 10 m/s や Reynolds 数 1 という明らかに非現実的な設定も提出されています。つまり結果の散らばりはソルバーの差ではなく、入力条件の差です。Phase II で条件を揃えるとほぼ同一の流れ場になったという事実が、この解釈を裏づけています。
Journal of the American College of Cardiology
2015
研究の着想
解析実務に直答
二尖弁大動脈症は弁由来の血流が作る — WSS マッピングと壁組織の対応
Valve-Related Hemodynamics Mediate Human Bicuspid Aortopathy: Insights From Wall Shear Stress Mapping
同一患者の高 WSS 領域と正常 WSS 領域から採った壁組織を比べると、高 WSS 側でエラスチンが減り(36.6% 対 49.1%)、線維が細く(2.72 対 3.25 µm)、線維間距離が広がっていました。TGFβ-1 と MMP-1/3、TIMP-1 の発現も高いです。
WSS を画像上の数値ではなく、壁の実体と結びつけた研究です。同じ患者の中で高 WSS 部と正常 WSS 部を対にして採取している点が要で、患者間のばらつきを排除できています。当社にとっての意味は、WSS マッピングが「見た目の指標」ではなく組織学的な裏づけを持つという点にあります。ただし絶対値は示されておらず、対照群の95%信頼区間から外れるかどうかで高低を判定しています。分解能による過小評価は認めつつ、相対的な高低は被験者間で保たれるという立場です。
AJNR American Journal of Neuroradiology
2014
解析実務に直答
研究の着想
高 WSS か低 WSS か — 動脈瘤の文献が割れる理由を説明する統一仮説
High WSS or Low WSS? Complex Interactions of Hemodynamics with Intracranial Aneurysm Initiation, Growth, and Rupture: Toward a Unifying Hypothesis
どちらも起きている、というのがこの論文の主張。低 WSS と高 OSI は炎症細胞を介した経路で大きく厚い壁の瘤を、高 WSS と正の WSS 勾配は壁細胞を介した経路で小さく薄い壁の瘤を作ります。集めた症例がどちらの表現型に偏るかで、研究の結論が入れ替わります。
「文献値と合わない」の一段上にある問題を扱った論文です。ここで割れているのは数値ではなく結論そのもので、原因は解析条件ではなく対象集団の構成にあります。実務上の含意は明確で、瘤をひとまとめにした平均値は二つの経路を混ぜた値になるため意味を持ちません。症例をまとめて解析するときは、サイズ・部位・表現型で層別してから統計に載せる必要があります。単一の指標で危険度を語れないという結論は、指標選択の相談に対する当社の回答の土台になっています。
Magnetic Resonance in Medicine
2014
解析実務に直答
異常な大動脈血流における粘性エネルギー損失
Viscous energy loss in the presence of abnormal aortic flow
胸部大動脈で健常 2.3 mW に対し、拡張のみ 3.6 mW、拡張+狭窄 14.3 mW と約6倍に増えました。損失の71%は上行大動脈で生じます。圧較差との相関は r²=0.91 と強いが、狭窄がある群では大動脈径との相関は消える(r²=0.14)。
エネルギー損失を指標として採用するかを判断する材料です。狭窄があると値が桁で変わるため、群間差は明瞭に出ます。一方で注意すべき点が二つあります。ひとつは、損失の大半が上行大動脈に集中するため、計測範囲の取り方で値が大きく動くことです。もうひとつは、拡張だけの群では大動脈径と相関するのに、狭窄群では相関が消えることです。径だけを見て損失を推測することはできません。観察者間のセグメンテーション差だけで ±1.75 mW、値の7%が動く点も、施設間比較の前提として押さえておく必要があります。
Cardiovascular Research
2013
解析実務に直答
技術動向
低ずり・振動ずりは動脈硬化の好発部位を説明するか — 27編の系統的レビュー
Does low and oscillatory wall shear stress correlate spatially with early atherosclerosis? A systematic review
406編から選んだ27編を精査した結果、著者は「通説ほど強固ではない」と結論しています。支持する報告は多数派だが、点対点で比較した5編は有意な関係を見いだしていません。周方向平均などのデータ処理の仕方、閾値の取り方、病変の評価法が結論を左右しています。
WSS・OSI を使う根拠そのものを検証したレビューです。実務上効くのは、データの縮約方法で結論が変わるという指摘です。点対点の比較では相関が出ず、軸方向・周方向に平均すると有意になります。つまり「低ずりと病変が一致する」という主張は、どう平均したかとセットでなければ意味を持ちません。自社の解析でも、面や領域をどう区切って平均したかを明記しないと同じ問題を抱えます。WSS を否定する論文ではなく、報告の書き方を規定する論文として読むのが妥当です。
AJNR American Journal of Neuroradiology
2011
解析実務に直答
研究の着想
破裂・未破裂脳動脈瘤の血行力学環境 — 210瘤・1050回の解析
Quantitative Characterization of the Hemodynamic Environment in Ruptured and Unruptured Brain Aneurysms
128例210瘤で1050回の解析を行い、破裂群は流入の集中(ICI 1.012 対 0.66)と最大 WSS の高さ(384 対 277 dyne/cm²)で有意差を示しました。一方、低 WSS 領域の広さと低ずり指数には差がありませんでした。停滞ではなく速い流れの集中の側が破裂と相関しています。
低 WSS 説と正面から食い違う結果を、当時としては大きな症例数で示した研究です。統合解析では低 WSS が破裂と関連するとされる一方、この研究では低 WSS 領域の広さ(LSA)も低ずり指数(LSI)も有意差を示しませんでした。指標を7つ並べて比べているため、どれが効いてどれが効かなかったかを個別に確認できます。同じ問いに逆の答えが出る事実そのものが、指標選択と集団構成の重要性を示しています。統一仮説を読む前提として置いておく価値があります。
Physiological Reviews
2011
技術動向
研究の着想
擾乱流が血管内皮に与える影響 — WSS 指標の生物学的な裏づけ
Effects of disturbed flow on vascular endothelium: pathophysiological basis and clinical perspectives
生体で報告された動脈の生理的な WSS は 10〜70 dyn/cm²、維持水準はおよそ 15〜20 dyn/cm²。内皮細胞に擾乱流を与える in vitro の条件は平均 0.5 dyn/cm² 前後で ±4 dyn/cm² 程度に振れる設定です。この桁の違いが KLF-2・eNOS 系と NF-κB 系のどちらを優位にするかを決めます。
WSS を指標として使う根拠を、内皮の分子機構まで遡って確認できる総説です。実務で効くのは数値の並びで、動脈 10〜70 dyn/cm²、静脈 1〜6 dyn/cm²、病変好発部の平均 0.5 dyn/cm² という桁の違いが把握できます。解析結果がこの範囲から大きく外れたら、まず単位と算出条件を疑う目安になります。ステント留置後の逆流域や吻合部の低ずり域が新生内膜過形成の場所を決めるという記述は、デバイス周りの解析を依頼されたときの論点整理にそのまま使えます。
Journal of Magnetic Resonance Imaging
2025
解析実務に直答
研究の着想
Multi-VENC 4D Flow による頸動脈狭窄の TKE 評価
Quantitative Evaluation of Carotid Artery Stenosis by Multi-VENC 4D Flow MRI: Incorporating Turbulent Kinetic Energy for Clinical Validity
VENC 33/100/300 cm/s の3段構えで撮り、TKE は狭窄群 391.5 µJ 対 非狭窄群 254.4 µJ。ただし NASCET 狭窄率との相関は r=0.309 と弱く、内膜中膜厚(r=0.543)やピーク流速(r=0.462)のほうが強いです。狭窄率の代用にはなりません。
VENC 設定に迷う現場に対して、実際に使われた数値を示せる一報です。33/100/300 cm/s という3段の組み合わせと 1.0 mm³ 等方・撮像約10分という条件は、そのままプロトコル検討の出発点になります。もう一つ重要なのは、TKE と狭窄率の相関が r=0.309 と弱いことです。TKE は狭窄率を置き換えるものではなく、プラークの不安定性(視覚スケールと r=0.392)に寄る指標として位置づけるのが妥当です。単一 VENC との直接比較は示されていないため、多段化の利得は定量化されていません。
Reviews in Cardiovascular Medicine
2025
解析実務に直答
技術動向
大動脈疾患における 4D Flow 由来 WSS — 正常値がまだ定まっていない
The Role of 4D Flow MRI-derived Wall Shear Stress in Aortic Disease: A Comprehensive Review
ない。この総説は疾患ごとの WSS 値も正常範囲も示していません。理由は標準化されていないからで、装置メーカー間、1.5T と 3.0T の間、そして後処理ソフト間で値が有意に違います。使えるのは同一条件内での高低の比較に限られます。
WSS の絶対値を施設間で比較できない理由を、総説の立場から整理した一報です。当社にとって直接関係するのは、後処理ソフトによって WSS の値が有意に違うと明記されている点で、実名で挙げられた6種類の商用プラットフォームには当社の iTFlow も含まれています。つまり「他社ソフトで出した値と合わない」という問い合わせは、解析の誤りではなく、標準化されていない現状の反映です。この総説を引いて、値ではなく高低の分布で議論するよう案内できます。標準化された手順の確立が臨床応用の前提だと結論しています。
Magnetic Resonance in Medical Sciences
2022
解析実務に直答
技術動向
4D Flow MRI の血行力学パラメータ — 数式の定義と、分解能に効くもの効かないもの
Hemodynamic Parameters for Cardiovascular System in 4D Flow MRI: Mathematical Definition and Clinical Applications
空間微分を含む指標(渦度、ヘリシティ、エネルギー損失)は分解能に弱く、4D Flow では EL が最大で約80%過小評価されます。TKE は空間微分を使わないため微分量より有利ですが、時空間の平均化や層流の速度勾配がボクセル内分散に混入するため、分解能の影響を免れるわけではありません。指標の選択は装置の分解能から逆算できます。
指標選択の相談に対して、数式の構造から答えを出せる総説です。判断の軸は単純で、その指標が空間微分を含むかどうかです。含むもの(渦度・ヘリシティ・EL・WSS)は分解能とノイズに直接影響され、含まないもの(TKE)は影響されにくいです。EL については VENC を 1.5〜2.0 m/s に固定する具体的な推奨も示されています。当社の解析メニューの多くがこの表に載っており、どの指標をどの条件で提案すべきかの根拠になります。当社の共同研究者による論文で、宮崎も著者に加わっています。
Cardiovascular Engineering and Technology
2018
解析実務に直答
技術動向
2015 International Aneurysm CFD Challenge — 画像だけ渡すと WSS はどれだけ割れるか
Real-World Variability in the Prediction of Intracranial Aneurysm Wall Shear Stress: The 2015 International Aneurysm CFD Challenge
26チームに DICOM 画像だけを渡した結果、瘤内平均 WSS のばらつきは変動係数48%(症例によっては60%)。ところが母血管の WSS で正規化すると18%まで下がります。ばらつきの主因は形状抽出と流入条件で、経験年数は有意な予測因子ではありませんでした。
2013年のチャレンジが形状を配って条件だけ自由にしたのに対し、こちらは画像から任せています。現実の受託解析に最も近い設定で、当社が「同じ症例を別の会社に出したら値が違う」と言われたときに示せる根拠です。重要なのは処方箋まで示されている点で、母血管で正規化すると変動係数が48%から18%へ、2〜3分の1に下がります。粘度 3.7 cPoise・密度 1.06 g/cm³ への統一、内頸動脈まで含めた形状範囲、流量の妥当性確認という具体的な推奨は、そのまま社内標準に落とせます。