原著(画像と組織の対応) Journal of the American College of Cardiology 2015 研究の着想 解析実務に直答 原文精読済み

二尖弁大動脈症は弁由来の血流が作る — WSS マッピングと壁組織の対応

Valve-Related Hemodynamics Mediate Human Bicuspid Aortopathy: Insights From Wall Shear Stress Mapping

Guzzardi DG, Barker AJ, van Ooij P, Malaisrie SC, Puthumana JJ, Belke DD, Mewhort HEM, Svystonyuk DA, Kang S, Verma S, Collins J, Carr J, Bonow RO, Markl M, Thomas JD, McCarthy PM, Fedak PWM

問い

WSS が高い領域では、実際に大動脈壁の組織が変わっているのか。

答え

同一患者の高 WSS 領域と正常 WSS 領域から採った壁組織を比べると、高 WSS 側でエラスチンが減り(36.6% 対 49.1%)、線維が細く(2.72 対 3.25 µm)、線維間距離が広がっていた。TGFβ-1 と MMP-1/3、TIMP-1 の発現も高い。

当社の視点

WSS を画像上の数値ではなく、壁の実体と結びつけた研究です。同じ患者の中で高 WSS 部と正常 WSS 部を対にして採取している点が要で、患者間のばらつきを排除できています。当社にとっての意味は、WSS マッピングが「見た目の指標」ではなく組織学的な裏づけを持つという点にあります。ただし絶対値は示されておらず、対照群の95%信頼区間から外れるかどうかで高低を判定しています。分解能による過小評価は認めつつ、相対的な高低は被験者間で保たれるという立場です。

扱う範囲

  • 01

    研究の設計

    上行大動脈手術を受けた二尖弁患者20名(平均48±15歳、90%が男性)と、年齢を合わせた三尖弁の対照10名。4D Flow で WSS を写像し、高 WSS 領域と正常 WSS 領域から同一患者内で対にした壁組織を採取した。

  • 02

    高低の判定方法

    対照群から求めた健常の95%信頼区間の外側にある領域を異常と分類した。絶対値ではなく対照との相対で定義している。分解能による WSS の過小評価は起こりうるが、高低の相対関係は被験者間で保たれるとしている。

  • 03

    エラスチンの変化

    高 WSS 側で総エラスチン量が減少(36.61±16.87% 対 49.12±16.53%、p=0.04)。線維は細く(2.72±0.40 対 3.25±0.27 µm、p=0.00002)、線維間距離は広がった(中央値 28.34 対 20.39 µm、p=0.01)。

  • 04

    分子レベルの変化

    高 WSS 側で TGFβ-1(p=0.04)、MMP-1(p=0.03)、MMP-3(p=0.02)、TIMP-1(p=0.04)の発現が高い。MMP-2 は傾向に留まった(p=0.06)が、大動脈で最も発現量が多い MMP だった。

  • 05

    著者の主張

    弁に由来する血流が大動脈症の発症に寄与している。高 WSS が TGFβ シグナルと MMP の活性化を介して組織のリモデリングを引き起こす。ただし遺伝的に脆弱な大動脈を血流が悪化させるという枠組みで述べており、血流だけが原因とはしていない。

高 WSS 領域 対 正常 WSS 領域(同一患者内)

項目補足
対象 二尖弁20名 / 対照10名 平均48±15歳、90%が男性
総エラスチン量 36.61 ± 16.87% 対 49.12 ± 16.53% p = 0.04
エラスチン線維の太さ 2.72 ± 0.40 対 3.25 ± 0.27 µm p = 0.00002
線維間の距離 中央値 28.34 対 20.39 µm p = 0.01
TGFβ-1 / MMP-1 / MMP-3 / TIMP-1 いずれも高 WSS 側で高い p = 0.04 / 0.03 / 0.02 / 0.04
組織の処理 切除後15分以内に凍結 組織染色と蛋白解析に分割

いずれもこの論文が報告した値です。WSS の絶対値は示されていません。

実務チェック

  • WSS の高低を判定するとき、絶対値ではなく対照群の分布からの逸脱で定義する方法がある。
  • 同一患者内で対にして比較すると、患者間のばらつきを排除できる。
  • 二尖弁症例では周方向の WSS 分布を確認する。壁の変化と対応する。

この研究の限界

  • 分解能による WSS の過小評価が起こることを著者が認めており、絶対値の精度は不確かです。
  • 対象の大動脈拡張は比較的軽度(多くが 5.0 cm 未満)で、進行例には外挿できません。
  • 三尖弁で拡張し高 WSS 領域を持つ患者との比較が必要としています。
  • 疾患進行の予測に使えるかは今後の検証課題と述べています。

書誌情報

原題Valve-Related Hemodynamics Mediate Human Bicuspid Aortopathy: Insights From Wall Shear Stress Mapping
著者Guzzardi DG, Barker AJ, van Ooij P, Malaisrie SC, Puthumana JJ, Belke DD, Mewhort HEM, Svystonyuk DA, Kang S, Verma S, Collins J, Carr J, Bonow RO, Markl M, Thomas JD, McCarthy PM, Fedak PWM
掲載誌Journal of the American College of Cardiology(2015)
DOI10.1016/j.jacc.2015.06.1310
PMID26293758

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