乱れた流れが血管内皮に与える影響 — WSS 指標の生物学的な裏づけ
Effects of disturbed flow on vascular endothelium: pathophysiological basis and clinical perspectives
WSS の高低が病変につながるとされる生物学的な根拠は何か。数値でどこが境目か。
動脈の生理的な WSS は 10〜70 dyn/cm²、維持水準はおよそ 15〜20 dyn/cm²。対して病変好発部の乱れた流れは平均 0.5 dyn/cm² 前後で ±4 dyn/cm² 程度に振れる。この差が KLF-2・eNOS 系と NF-κB 系のどちらを優位にするかを決める。
当社の視点
WSS を指標として使う根拠を、内皮の分子機構まで遡って確認できる総説です。実務で効くのは数値の並びで、動脈 10〜70 dyn/cm²、静脈 1〜6 dyn/cm²、病変好発部の平均 0.5 dyn/cm² という桁の違いが把握できます。解析結果がこの範囲から大きく外れたら、まず単位と算出条件を疑う目安になります。ステント留置後の逆流域や吻合部の低ずり域が新生内膜過形成の場所を決めるという記述は、デバイス周りの解析を依頼されたときの論点整理にそのまま使えます。
扱う範囲
-
01
流れの定義と数値
乱れた流れは再循環渦を伴い、空間的な剥離・再付着と時間的な往復流で特徴づけられる。平均 0.5 dyn/cm² 前後、±4 dyn/cm² 程度で振れる。層流・拍動流は方向が定まり、動脈で 10〜70 dyn/cm²、静脈で 1〜6 dyn/cm²。
-
02
内皮の応答経路
層流は KLF-2 を介して ERK5・eNOS を上げ、SOD・HO-1 などの保護的遺伝子を誘導する。乱れた流れは NF-κB と ROS を上げ、MCP-1・ICAM-1・VCAM-1・E-selectin・MMP-9 などを誘導する。AMPK と Akt の均衡も流れで変わる。
-
03
病変の局在
分岐部、湾曲部、頸動脈分岐、大動脈弓の内彎、冠動脈分岐、大動脈弁の大動脈側、静脈弁洞が好発部位。下行胸部・腹部大動脈の直線部は免れる。分布の非ランダム性はヒトの自然経過でも成り立つ。
-
04
デバイスと術後への含意
バルーン血管形成術後の再狭窄は6か月で30〜40%、ベアメタルステントの再狭窄は20〜40%。ステント留置は段差を作って逆行流域を生む。吻合部の静脈カフを変えると低ずり域が移動し、新生内膜過形成の場所も移る。
壁面せん断応力の目安
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 動脈の生理的範囲 | 10〜70 dyn/cm² | 維持水準はおよそ 15〜20 dyn/cm² |
| 静脈の範囲 | 1〜6 dyn/cm² | — |
| 病変好発部(乱れた流れ) | 平均 約 0.5 dyn/cm² | ±4 dyn/cm² 程度で往復する |
| 血管形成術後の再狭窄 | 6か月で 30〜40% | 低ずりが内腔縮小を助長する |
| ベアメタルステントの再狭窄 | 20〜40% | 段差による逆行流域が関与 |
いずれもこの総説が挙げた値です。
実務チェック
- WSS の計算値が動脈で 10〜70 dyn/cm² の桁から大きく外れたら、単位と算出条件を先に確認する。
- デバイス周囲の解析では、低ずり域の位置が新生内膜の位置と対応するという前提で議論を組む。
- 静脈系は動脈と桁が違う。動脈の基準値を静脈に当てない。
総説が挙げた未解決点
- 分岐部病変の最適な治療戦略は、流れとプラーク分布と形状の複雑さゆえに定まっていません。
- 遺伝子発現の不均一性が動脈硬化の局在にどう寄与するかは十分に解明されていません。
- 往復流と拍動流で治癒応答が異なる正確な機序は不明とされています。
書誌情報
| 原題 | Effects of disturbed flow on vascular endothelium: pathophysiological basis and clinical perspectives |
|---|---|
| 著者 | Chiu JJ, Chien S |
| 掲載誌 | Physiological Reviews(2011) |
| DOI | 10.1152/physrev.00047.2009 |
| PMID | 21248169 |