異常な大動脈血流における粘性エネルギー損失
Viscous energy loss in the presence of abnormal aortic flow
大動脈の拡張や狭窄があるとき、粘性エネルギー損失はどれだけ増えるのか。
胸部大動脈で健常 2.3 mW に対し、拡張のみ 3.6 mW、拡張+狭窄 14.3 mW と約6倍に増えた。損失の71%は上行大動脈で生じる。圧較差との相関は r²=0.91 と強いが、狭窄がある群では大動脈径との相関は消える(r²=0.14)。
当社の視点
エネルギー損失を指標として採用するかを判断する材料です。狭窄があると値が桁で変わるため、群間差は明瞭に出ます。一方で注意すべき点が二つあります。ひとつは、損失の大半が上行大動脈に集中するため、計測範囲の取り方で値が大きく動くこと。もうひとつは、拡張だけの群では大動脈径と相関するのに、狭窄群では相関が消えることです。径だけを見て損失を推測することはできません。観察者間のセグメンテーション差だけで ±1.75 mW、値の7%が動く点も、施設間比較の前提として押さえておく必要があります。
扱う範囲
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01
対象
健常12名(37±10歳)、拡張のみ16名(52±8歳、径 4.0 cm 超)、拡張+狭窄14名(46±15歳)。拡張群の5名と狭窄群の7名が二尖弁。
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02
算出方法
4D Flow の速度場から Navier-Stokes 式の粘性散逸項を計算し、収縮期ピークでのエネルギー損失率としてボクセル体積で積分した。血液粘度は 3.2 cP を使用。
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03
群間の差
胸部大動脈で 2.3±0.9 / 3.6±1.3 / 14.3±8.2 mW(健常/拡張のみ/拡張+狭窄)。上行大動脈では 1.2±0.6 / 2.2±1.1 / 10.9±6.8 mW。上行大動脈が胸部全体の71%を占める。
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04
何と相関するか
経弁圧較差 TPGnet と r²=0.91(TPGmax では 0.86)。大動脈径とは健常+拡張群で r²=0.55 だが、狭窄群では r²=0.14(p=0.19)で相関しない。
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05
損失が生じる場所
剥離、ジェットの衝突、高速ジェット、らせん流、渦の形成部位とエネルギー損失の分布が一致した。
粘性エネルギー損失(収縮期ピーク)
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 胸部大動脈・健常 | 2.3 ± 0.9 mW | n=12 |
| 胸部大動脈・拡張のみ | 3.6 ± 1.3 mW | p = 0.024 |
| 胸部大動脈・拡張+狭窄 | 14.3 ± 8.2 mW | p < 0.001。健常の約6倍 |
| 上行大動脈の寄与 | 胸部全体の 71% | 計測範囲の取り方が値を左右する |
| 圧較差との相関 | r² = 0.91 | TPGnet。TPGmax では 0.86 |
| 大動脈径との相関 | r² = 0.55 / 0.14 | 健常+拡張群/狭窄群(後者は p=0.19 で有意でない) |
| 観察者間のばらつき | ± 1.75 mW | 値の約7%。セグメンテーションに起因 |
いずれもこの論文が報告した値です。
実務チェック
- 計測範囲を明記する。上行大動脈だけで全体の71%を占めるため、範囲が違えば値は比較できない。
- 大動脈径から損失を推測しない。狭窄がある症例では相関しない。
- 施設間で比べる前に、自施設の観察者間ばらつきを測る。この研究では値の7%が動いた。
この研究の限界
- 壁面での粘性散逸、乱流運動エネルギー、心周期全体にわたる損失は計算に含まれていません。
- 侵襲的な同時計測はなく、検証は数値解析との比較に留まります。
- 現行の時空間分解能では層流域の粘性損失を過小評価している可能性があると述べています。
- 狭窄群では三尖弁と二尖弁を分けずに解析しています。
書誌情報
| 原題 | Viscous energy loss in the presence of abnormal aortic flow |
|---|---|
| 著者 | Barker AJ, van Ooij P, Bandi K, Garcia J, Albaghdadi M, McCarthy P, Bonow RO, Carr J, Collins J, Malaisrie C, Markl M |
| 掲載誌 | Magnetic Resonance in Medicine(2014) |
| DOI | 10.1002/mrm.24962 |
| PMID | 24122967 |