原著(妥当性検証) Heart and Vessels 2017 解析実務に直答 技術動向 原文精読済み

4D Flow MRI による大動脈弓 CFD の妥当性検証 — CFD と MRI はどこでどれだけ食い違うか

Validation of numerical simulation methods in aortic arch using 4D Flow MRI

Miyazaki S, Itatani K, Furusawa T, Nishino T, Sugiyama M, Takehara Y, Yasukochi S

問い

同じ症例を CFD と 4D Flow MRI で解いたとき、どこが一致してどこが食い違うのか。

答え

流れの分布は一致するが、絶対値は一致しない。WSS は CFD が MRI の3〜5倍、エネルギー損失は2〜5倍。頸部分枝のような細い血管では MRI 側が流量を50〜60%過小評価する。乱流モデルは RNG k-ε が最も MRI と相関した。

当社の視点

「CFD と MRI で値が違う」という相談に対して、食い違いの向きと大きさを数字で示せる一報です。当社が受ける問い合わせの多くはこの一点に集約されます。重要なのは、分布パターンは一致するのに絶対値は数倍ずれるという構図で、これは壁近傍の速度勾配を MRI の分解能では解像できないことに起因します。したがって MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS を同じ土俵で比較することはできません。同一手法の中での相対比較に寄せるという当社の案内は、この結果を根拠にしています。筆頭著者は当社の宮崎です。

扱う範囲

  • 01

    検証の設計

    成人1例と重複大動脈弓の小児1例について、同一形状で 4D Flow MRI と CFD を実施し収縮期ピークで比較した。層流・LES(Smagorinsky–Lilly)・RNG k-ε の3つの乱流モデルを比べている。

  • 02

    速度場の相関

    RNG k-ε が最も MRI と相関した。大動脈弓では成人で 0.865/0.795/0.918(AP/RL/SI)、小児で 0.604/0.826/0.873。いずれも p<10⁻⁸。上行大動脈は相関が低く、左室のねじれによるらせん流を CFD が再現できていない。

  • 03

    WSS とエネルギー損失の乖離

    平均 WSS は CFD が MRI の3〜5倍。エネルギー損失は渦粘性を含めると CFD が2〜5倍。境界層を考慮しない条件では両者の EL は近づいた。分布パターンは両者でよく似ている。

  • 04

    細い血管での流量

    上行大動脈の流量は成人で 3%、小児で 1% の差に収まる一方、頸部分枝では MRI が CFD の約50〜60%しか示さない。血管が細いほど MRI 側が過小評価する。

  • 05

    境界条件の与え方

    大動脈弁での流量を 4D Flow MRI で実測し、時間軸にスプライン補間して CFD の入口速度に変換した。入口は平坦な速度分布、出口は末梢からの反射波の圧力条件、壁は剛体。

CFD と MRI の食い違い

項目補足
平均 WSS CFD が MRI の 3〜5倍 分布パターンは類似。成人例での値
エネルギー損失 CFD が MRI の 2〜5倍 渦粘性を含めた場合。境界層を考慮しなければ近づく
上行大動脈の流量差 1〜3% MRI と CFD でよく一致する
頸部分枝の流量 MRI が 50〜60% 過小 細い血管ほど MRI 側が低く出る
速度相関(大動脈弓・成人) 0.795〜0.918 RNG k-ε。p < 10⁻⁸
メッシュ 約108万 / 96万セル 成人/小児。最外プリズム層 30 µm

いずれもこの論文が報告した値です。

実務チェック

  • MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS を同じ土俵で比較しない。数倍ずれることが分かっている。
  • 細い血管の流量を MRI 値で評価しない。頸部分枝では50〜60%低く出た。
  • 分布の議論と絶対値の議論を分ける。パターンは一致するが値は一致しない。
  • 乱流モデルを明記する。同じ形状でもモデルによって MRI との相関が変わる。

この研究の限界

  • 対象は2例のみで、収縮期ピークの1位相だけを比較しています。
  • 血管壁を剛体としており、WSS への影響が指摘されています。
  • 上行大動脈のらせん流を CFD が再現できていません。左室収縮を考慮した入口条件が必要としています。
  • 拡張期は形状抽出ができず、比較の対象外です。

書誌情報

原題Validation of numerical simulation methods in aortic arch using 4D Flow MRI
著者Miyazaki S, Itatani K, Furusawa T, Nishino T, Sugiyama M, Takehara Y, Yasukochi S
掲載誌Heart and Vessels(2017)
DOI10.1007/s00380-017-0979-2
PMID28444501

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