原著(妥当性検証) BioMedical Engineering OnLine 2021 解析実務に直答 技術動向 原文精読済み

大動脈縮窄の乱流と WSS — MRI と CFD はなぜ桁で違うのか

Assessment of turbulent blood flow and wall shear stress in aortic coarctation using image-based simulations

Perinajová R, Juffermans JF, Mercado JL, Aben JP, Ledoux L, Westenberg JJM, Lamb HJ, Kenjereš S

問い

MRI と CFD の WSS が食い違う原因は分解能か、それとも乱流モデルか。

答え

分解能。ファントムで条件を完全に揃えても、CFD の平均 WSS は MRI の3.7倍、狭窄部のピークは8.3倍だった。CFD 側を MRI と同じ分解能に落とすと差が縮むことから、原因は MRI が壁近傍を解像できないことにある。正規化した WSS 分布なら両者はよく一致する。

当社の視点

「MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS が合わない」に対する決定的な検証です。ファントムで境界条件・形状・壁の条件をすべて揃えたうえで差が残り、CFD の解像度を MRI に合わせて落とすと差が縮む。原因が MRI の壁近傍分解能にあることを、消去法で示しています。実務上の結論も明快で、絶対値が要るなら CFD、局所の高低を見るなら MRI で足りる。両者を併用し、正規化した WSS で比較するという著者の推奨は、当社が案内している方針と一致します。

扱う範囲

  • 01

    検証の設計

    180度ベンドに狭窄を設けたファントムと、患者固有の大動脈縮窄の2段構え。ファントムで境界条件と形状を完全に揃え、標準 k-ε、SST k-ω、レイノルズ応力モデル(RSM)の3つを 4D Flow MRI と比較した。

  • 02

    乱流モデルの優劣

    断面平均速度で MRI との差は RSM が狭窄部15%以内・その他7%以内。SST は狭窄部で18%、k-ε は狭窄後方で最大45%ずれた。RSM は二次流れと断面積の急変への適応をよく捉える。計算コストは LES や DNS より 10²〜10³ 倍軽い。

  • 03

    WSS の絶対値が合わない

    ファントムで空間平均 WSS は CFD が MRI の3.7倍、狭窄部のピークは8.3倍。CFD を 0.2 mm³ に落とすと 2.5倍/3.9倍、0.7×0.7×1.5 mm³ に落とすと 1.4倍/1.83倍まで縮む。分解能を下げるほど MRI に近づく。

  • 04

    患者例では約7倍

    縮窄患者で MRI は狭窄部 7.73 Pa・平均 2.12 Pa、CFD は 48.95 Pa・15.06 Pa。表面を平滑化した CFD でも 45.87 Pa・14.00 Pa で、平滑化による低下は7.3%に留まる。桁の違いは平滑化では説明できない。

  • 05

    正規化すれば一致する

    各手法の空間平均 WSS で割って正規化すると、高低の分布は MRI と CFD でよく一致する。ただしピークの位置はずれ、ファントムで入口径の0.39倍、患者例で0.52倍の移動があった。ピーク位置が重要な場合は注意が要る。

MRI と CFD の WSS 比

項目補足
空間平均 WSS(ファントム) CFD が MRI の 3.7倍 MRI 0.18 Pa 対 CFD 0.68 Pa
狭窄部ピーク WSS(ファントム) CFD が MRI の 8.3倍 MRI 0.60 Pa 対 CFD 4.99 Pa
CFD を 0.2 mm³ に粗視化 2.5倍 / 3.9倍 平均/ピーク。分解能を下げると差が縮む
CFD を 0.7×0.7×1.5 mm³ に粗視化 1.4倍 / 1.83倍 MRI の分解能に近づけた条件
患者例の狭窄部 WSS MRI 7.73 対 CFD 48.95 Pa 平均は 2.12 対 15.06 Pa
表面平滑化の効果 平均 WSS が 7.3% 低下 桁の違いは説明できない
ピーク位置のずれ 入口径の 0.39〜0.52倍 ファントム/患者例
速度の一致(RSM) 狭窄部 15% / その他 7% 以内 SST は 18%、k-ε は最大 45%
剛体壁の仮定 最大 30% の差 既報として引用されている

いずれもこの論文が報告した値です。

実務チェック

  • WSS の絶対値が要るなら CFD を使う。MRI 由来の絶対値は壁近傍の分解能で決まる。
  • 局所の高低だけを見るなら MRI で足りる。空間平均で正規化して比較する。
  • ピーク位置が重要な解析では、MRI と CFD で入口径の0.4〜0.5倍ほどずれることを前提にする。
  • 乱流域を扱うなら乱流モデルを明記する。狭窄後方で k-ε は45%外した。

この研究の限界

  • 患者例は1例のみです。
  • 剛体壁を仮定しており、既報では最大30%の差が生じるとされています。
  • 側枝を含めるかどうか、セグメンテーションのばらつきが結果に影響することを認めています。
  • 画像ベース CFD における「真値」は定義されていないと述べています。

書誌情報

原題Assessment of turbulent blood flow and wall shear stress in aortic coarctation using image-based simulations
著者Perinajová R, Juffermans JF, Mercado JL, Aben JP, Ledoux L, Westenberg JJM, Lamb HJ, Kenjereš S
掲載誌BioMedical Engineering OnLine(2021)
DOI10.1186/s12938-021-00921-4
PMID34419047

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