エネルギー損失の成分分解による EVAR 後 I 型エンドリークの評価 — 予備的な実行可能性研究
Evaluation of Type I endoleak after endovascular aneurysm repair for abdominal aortic aneurysm using component quantification of energy loss: a preliminary feasibility study
ステント留置後の合併症を血行力学から見るとき、WSS 系の指標とエネルギー損失のどちらが群間の差を捉えるのか。
腹部大動脈瘤に EVAR を行った8例(I 型エンドリークあり4例・なし4例)を比べた研究です。壁面平均の時間平均せん断応力には群間差が出ず、エネルギー損失を平均流成分と乱流成分に分けて部位別に積算したときだけ差が出ました。左腸骨枝の乱流成分は 828 対 399(単位 10⁻⁶ W)です。ただし各群4例で、著者自身が仮説を立てる段階だと述べています。
当社の視点
エネルギー損失を1つの総和として出すのでなく、平均流成分と乱流成分に分け、さらにステント本体・左右の腸骨枝と部位ごとに区切って積算した解析です。同じ計算から出した壁面平均の TAWSS では群間差が出ず、成分に割ったエネルギー損失でだけ差が出たという対比は、どの指標を見るべきかを相談されたときの材料になります。実務で効くのは、平均を取る範囲の決め方です。血管全体で平均すると接合部で起きていることが薄まるため、区間を切って積算する必要があります。一方、各群4例という規模は小さく、入口の流量波形も個別計測でなく標準波形を当てているため、絶対値をそのまま他施設と比べる使い方はできません。
扱う範囲
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01
対象
腎動脈下の腹部大動脈瘤に EVAR を行った8例です。術後の造影 CT で I 型エンドリークが確認された4例と、確認されなかった4例に分け、術前と術後の形状をそれぞれ再構成しています。エンドリークの検出時期は術後2〜6か月です。
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02
エネルギー損失の分け方
総散逸率を、時間平均した速度勾配による平均流成分と、拍動中の変形にともなう乱流成分に分けています。瘤・ステント本体・左右の腸骨枝を別々に区切り、部位ごとに積算しています。
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03
計算条件
ANSYS Fluent による非定常計算です。RNG k-ε 乱流モデル、血液は密度 1055 kg/m³・粘度 3.5 mPa·s のニュートン流体、壁は剛体としています。入口は標準的な流量波形、出口は RCR の Windkessel 条件で、境界層を5層置いています。
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04
WSS 系の指標の結果
術後はステントの接合部が高 TAWSS・高 OSI の場所になり、その位置は臨床で記録されたエンドリークの発生部位と一致しました。ただし壁面平均で群間を比べると、TAWSS も OSI も有意差はありませんでした。
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05
エネルギー損失の結果
乱流成分・平均流成分ともエンドリーク群のほうが高く、ステント本体と左右の腸骨枝のすべてで有意差が出ました。効果量は左腸骨枝の乱流成分で Cohen's d = 3.04 です。
術後の部位別エネルギー損失(単位 10⁻⁶ W)
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 乱流成分・ステント本体 | 516 ± 183 / 263 ± 32 | 差 253(95% CI 25.7–480.3)、P<0.05 |
| 乱流成分・左腸骨枝 | 828 ± 195 / 399 ± 43 | 差 429(95% CI 184.7–673.3)、P<0.01 |
| 乱流成分・右腸骨枝 | 609 ± 193 / 349 ± 73 | 差 260(95% CI 7.5–512.5)、P<0.05 |
| 平均流成分・ステント本体 | 363 ± 125 / 174 ± 32 | 差 189(95% CI 31.1–346.9) |
| 平均流成分・左腸骨枝 | 631 ± 138 / 276 ± 99 | 差 355(95% CI 147.2–562.8) |
| 平均流成分・右腸骨枝 | 352 ± 162 / 253 ± 87 | 差 99(95% CI −125.9–323.9)で信頼区間が0をまたぎます |
| TAWSS の最大値 | 16.7 dyne/cm² | エンドリーク群の左腸骨枝ステント。壁面平均では群間差なし |
| OSI の最大値 | 0.176 | 同じくエンドリーク群の左腸骨枝ステント |
| 格子依存性 | 525万要素で誤差 1.5% | 938万要素で得た瘤の平均流成分を基準にした差。本計算は 312〜862万要素 |
| 計算の規模 | 1拍を100刻み、20拍 | 統計的に収束した10拍のあと、時間平均のためにさらに10拍。192コアで約10時間 |
いずれもこの研究が報告した値です。エンドリーク群4例とエンドリークなし群4例の平均±標準偏差を並べています。
実務チェック
- エネルギー損失を出すときは、総和だけでなく平均流成分と乱流成分に分けて見ます。
- 血管全体で平均せず、接合部や分岐など区間を切って部位ごとに積算します。
- 入口の流量波形が標準波形か個別計測かを記録し、絶対値を他施設と比べるときの前提にします。
- 乱流成分を出すときは採用した乱流モデルを明記し、比較する相手と揃えます。
この研究で分からないこと
- 各群4例で信頼区間が広く、著者自身が仮説を立てる段階の結果だと述べています。
- 入口の流量波形は全例で同じ標準波形を使っており、患者ごとの違いは反映されていません。
- 血管壁もステントも剛体としており、流体構造連成は扱っていません。
- エンドリークそのものは形状として再構成せず、発生前の状態を計算して発生部位と照合しています。
- エンドリークの解剖学的な診断は造影 CT が基準であり、この手法は置き換えでなく補助という位置づけです。
書誌情報
| 原題 | Evaluation of Type I endoleak after endovascular aneurysm repair for abdominal aortic aneurysm using component quantification of energy loss: a preliminary feasibility study |
|---|---|
| 著者 | Tao R, Liu Q, Guo W, Kong L, Wang W, Jiang X, Wu P, Qian Y. |
| 掲載誌 | Frontiers in Cardiovascular Medicine(2026) |
| DOI | 10.3389/fcvm.2026.1849668 |
| PMID | 42699098 |
| 本文の入手 | オープンアクセス(CC BY)。全文を読んで執筆しました。 |