急性冠症候群の前に撮られた冠動脈 CT の血流指標で、責任病変を見分けられるか — EMERALD 研究
Identification of High-Risk Plaques Destined to Cause Acute Coronary Syndrome Using Coronary Computed Tomographic Angiography and Computational Fluid Dynamics
急性冠症候群を起こす前に撮られた冠動脈 CT から計算した血流指標は、狭窄度とプラークの性状に加えて、将来の責任病変を見分ける情報になるのか。
急性冠症候群の1か月〜2年前に CT を撮っていた72例の216病変で、責任病変は非責任病変より CT-FFR が低く、病変前後の CT-FFR の差(ΔFFRCT)、WSS、軸方向のプラーク応力が高い値でした。狭窄度・病変長・プラーク性状のモデルに血流指標を加えると識別能が上がり(c 指数0.747→0.789)、単独で最も情報量が多かったのは ΔFFRCT でした。
当社の視点
血流の指標を組み合わせると、形態とプラーク性状だけのモデルより将来の責任病変を見分けやすくなることを示した研究です。冠動脈の WSS の総説では「CT 由来の WSS が狭窄度や高リスクプラークより心筋梗塞をよく予測した」と要約されていますが、原文では WSS は4つの血流指標の1つで、単独で最も情報量が多かったのは病変前後の圧の差(ΔFFRCT)でした。WSS も単独で識別能を上げていますが、閾値 15.47 Pa は最大充血を模した定常計算の値で、安静時の WSS とは桁が異なります。CT-FFR の計算で同時に得られる量なので追加の計算負担がないことも、実用上の利点として書かれています。
扱う範囲
-
01
設計
5か国11施設で、急性心筋梗塞か破裂所見のある不安定狭心症の1か月〜2年前に CT を撮っていた患者を後ろ向きに集めました。同じ患者の責任病変と非責任病変を比べる症例対照の設計です。
-
02
4つの血流指標
CT-FFR、病変の近位と遠位の CT-FFR の差(ΔFFRCT)、WSS(表面力の接線成分を病変表面で平均)、軸方向のプラーク応力(表面力の中心線方向の成分)を、CT-FFR と同じ計算(剛体壁・ニュートン流体・最大充血の境界条件)から求めました。
-
03
責任病変の特徴
責任病変は径狭窄55.5%(非責任43.1%)、低吸収プラーク・外向きリモデリング・ナプキンリング徴候・点状石灰化が多く、WSS は平均 22.2 Pa(非責任 14.6 Pa)でした。
-
04
モデルの比較
狭窄度と病変長のモデル(c 指数0.709)にプラーク性状を加えると0.747、さらに血流指標を加えると0.789になりました。プラーク性状と血流指標の両方が不良な病変は、どちらもない病変より責任病変になるハザードが11.75倍でした。
-
05
安静時の指標
安静時の Pd/Pa、その差、WSS、軸方向応力を使っても、モデルの識別能は有意に上がりました。
EMERALD の主な結果
数値で確かめる
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 対象 | 72例・216病変 | 責任66・非責任150。CT から事象まで中央値338日 |
| WSS(平均) | 責任 22.2 Pa・非責任 14.6 Pa | 221.8 と 145.5 dyn/cm² |
| ΔFFRCT(平均) | 責任0.17・非責任0.06 | P<0.001 |
| 不良な血流指標の閾値 | WSS ≥ 15.47 Pa・ΔFFRCT ≥ 0.06 | CT-FFR ≤0.80、軸方向応力 ≥ 160.7 Pa |
| c 指数 | 0.709 → 0.747 → 0.789 | 形態 → +プラーク性状 → +血流指標 |
| 両方不良な病変のハザード比 | 11.75 | プラーク性状・血流指標ともに不良でない病変との比較 |
いずれもこの論文が報告した値です。血流指標は最大充血を模した定常計算の値です。
実務チェック
- EMERALD を引用するときは、単独で最も情報量が多かったのは ΔFFRCT で、WSS は4つの血流指標の1つだったことを正確に書きます。
- 最大充血を模した計算の WSS と安静時の WSS を混同せず、閾値をどちらの条件で求めたかを明記します。
- 同じ患者の責任病変と非責任病変の比較であり、事象のない患者との比較ではないことを書き添えます。
この研究が扱わない範囲
- 後ろ向きで症例数が少なく、確定には約1000例が必要と著者は見込んでいます。
- 定常の充血計算で、拍動・心臓の運動・プラーク内の応力は扱っていません。
- CT から事象までの期間が長く、その間の治療の変化を考慮できていません。
- 資金提供と CFD 解析は HeartFlow 社が担っています。
書誌情報
| 原題 | Identification of High-Risk Plaques Destined to Cause Acute Coronary Syndrome Using Coronary Computed Tomographic Angiography and Computational Fluid Dynamics |
|---|---|
| 著者 | Lee JM, Choi G, Koo BK, Hwang D, Park J, Zhang J, Kim KJ, Tong Y, Kim HJ, Grady L, Doh JH, Nam CW, Shin ES, Cho YS, Choi SY, Chun EJ, Choi JH, Nørgaard BL, Christiansen EH, Niemen K, Otake H, Penicka M, de Bruyne B, Kubo T, Akasaka T, Narula J, Douglas PS, Taylor CA, Kim HS. |
| 掲載誌 | JACC: Cardiovascular Imaging(2019) |
| DOI | 10.1016/j.jcmg.2018.01.023 |
| PMID | 29550316 |