7-5 冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか
薬で充血を起こさない iFR は、FFR と同じ病変を選ぶのか
iFR は拡張期のうち微小循環の抵抗が低く安定した区間の安静時圧比で、アデノシンを使いません。二つの大規模試験で1年の心事故は FFR と同等でしたが、虚血と判定する病変は FFR より少なく、分類は8割台しか一致しません。
FFR の測定には、アデノシンなどで最大充血を起こす手順が要ります。DEFINE-FLAIR 試験1では、FFR 群の30.8%が手技中に呼吸困難や胸痛などの症状を訴えました。薬の費用と副作用、手間が、FFR の普及を妨げる理由の一つとして挙げられてきました。
拡張期の一区間を切り出す iFR の考え方
iFR(instantaneous wave-free ratio)は、薬を使わずに安静時に測る圧の比です。iFR-SWEDEHEART 試験2の説明では、拡張期のうち微小循環の抵抗が低く安定している区間で、病変前後の安静時の圧比を求めます。
FFR は、薬で微小循環の抵抗を最小かつ一定にすることで、圧の比を流量の比に置き換えていました。iFR は同じ「抵抗が一定とみなせる条件で圧を測る」という発想を、薬ではなく時間の切り出しで実現しようとした指標です。閾値も異なり、FFR は0.80、iFR は0.89 以下を虚血とします。
1年の心事故を比べた二つの試験
二つの試験は、同じ年に同じ誌に掲載されました。
| DEFINE-FLAIR | iFR-SWEDEHEART | |
|---|---|---|
| 対象 | 19か国49施設の2492例 | スウェーデンなど15病院の2037例 |
| 設計 | 患者と追跡担当者に割り付けを伏せた | 全国登録の中で割り付け(非盲検) |
| 1年の死亡・心筋梗塞・予定外血行再建 | iFR 6.8%・FFR 7.0% | iFR 6.7%・FFR 6.1% |
| 虚血と判定された病変 | iFR 28.6%・FFR 34.6% | iFR 29.1%・FFR 36.8% |
| 手技中の症状 | iFR 3.1%・FFR 30.8% | 胸部不快感 iFR 3.0%・FFR 68.3% |
どちらの試験でも iFR の非劣性が示されました。ただし非劣性の限界は差で3.2〜3.4ポイント、ハザード比で1.40相当まで許す設計で、余裕のある基準だったことは著者自身が認めています。
iFR と FFR の分類の食い違い
二つの指標は、同じ病変を同じには分類しません。iFR-SWEDEHEART2が引く先行研究では、iFR の閾値を0.89としたときの FFR との分類の一致は80〜85%でした。食い違いの多くは、閾値付近の中間病変で起こります。
食い違いがあっても転帰が同じだった理由として、著者は、閾値付近の病変ではもともと死亡と心筋梗塞の発生率が低いことを挙げています。また、充血は冠血流が正常でも中間病変の圧を閾値以下に下げるため、FFR のほうが中間病変の重症度を過大に評価しやすいとする研究も引いています。DEFINE-FLAIR1の著者は、iFR が FFR より7-1冠血流予備能と強く結びつくことも、判定の差の理由に挙げています。
計算で求める指標が目標にすべき圧比
閾値付近の病変では、どの指標で測るかによって判定が入れ替わります。画像から圧の比を計算する解析では、最大充血を模した FFR を目標にしているのか、安静時の圧比を目標にしているのかを明示しなければ、結果を臨床の数値と比べられません。
急性冠症候群の前に撮られた CT の血流指標を調べた研究3では、最大充血を模した指標の代わりに安静時の Pd/Pa と壁面せん断応力を使っても、責任病変を見分ける能力が同じように上がりました。どちらの条件の計算かを書き分けることは、閾値を比べる前提になります。画像からの計算の前提は 7-6次の記事で扱います。
この記事で出てきた言葉
- 安静時指標(iFR など)
- 血管拡張薬を使わずに測る狭窄前後の圧の比。iFR は拡張期のうち微小循環の抵抗が低く安定している区間の圧比で、閾値は0.89。
引用文献(3 本)
- 1
- 2
- 3
ここで答えていない問い
- 圧ワイヤーを使わず、画像から計算した圧比でも同じ判断ができるのか。
第7章「冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか」より 最終更新 2026-10-02