7-4 冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか

中等度以上の虚血があれば、血行再建で予後は良くなるのか

負荷試験で中等度以上の虚血がある安定冠動脈疾患でも、侵襲的治療を先行させて死亡や心筋梗塞は減りませんでした。指標が虚血をよく当てることと、治療すれば予後が良くなることは別の問いです。

FFR で治療する病変を選んだ試験は、虚血を起こさない狭窄を治療しない判断を強く支持しました。一方で、FAME 2 の5年成績1では、虚血のある狭窄に PCI を加えても死亡は5.1% と5.2%で同等でした。虚血の量が大きい患者を選べば違う結果になるのではないか、という問いが残りました。

虚血の量で患者を選んだ ISCHEMIA 試験の設計

ISCHEMIA 試験2は、負荷画像検査で中等度以上の可逆性虚血がある安定冠動脈疾患の5179例を、37か国の320施設で割り付けました。多くの患者では盲検化した冠動脈 CT で左主幹部病変を除外してから割り付けています。

侵襲群は30日以内に造影を受け、可能なら全虚血領域の完全血行再建を目指しました(PCI 74%、冠動脈バイパス26%)。可能な場合は FFR を使うことが推奨されています。保存群は薬物治療だけを続け、薬物治療が無効なときに造影を行いました。

FAME 2 ISCHEMIA
患者の選び方 造影で狭窄を確認し、FFR 0.80 以下の狭窄がある 負荷試験で中等度以上の虚血がある
割り付けの時点 造影と FFR の測定の後 造影の前(CT で左主幹部を除外)
比べた治療 PCI+薬物治療 対 薬物治療 侵襲的治療の先行 対 薬物治療の先行
主要評価項目 死亡・心筋梗塞・緊急血行再建 心血管死・心筋梗塞・不安定狭心症などの入院・蘇生された心停止
死亡 差なし(5年) 差なし(追跡中央値3.2年)

早期と後期で逆向きに動いた心筋梗塞

追跡期間の中央値は3.2年でした。主要評価項目の累積発生率は、6か月では侵襲群5.3%、保存群3.4%と侵襲群が多く、5年では16.4% と18.2%と逆転しました。死亡は145例と144例で同じでした。

侵襲群では手技に伴う心筋梗塞が早期に増え、手技と無関係の心筋梗塞が後期に減りました。この二つが打ち消し合い、期間全体では差が出ませんでした。結果は心筋梗塞の定義にも左右され、手技に伴う梗塞を広く数える定義では、5年を通じて侵襲群が上回りました。

もう一つの重要な結果は、虚血の程度による治療効果の違いが見つからなかったことです。虚血が大きい患者ほど侵襲的治療の利益が大きい、という前提そのものが支持されませんでした。

診断精度と治療効果の区別

ISCHEMIA と FAME 2 の結果から引き出せるのは、指標が虚血をよく当てることと、その指標に従って治療すると予後が良くなることは別の命題であるという区別です。

この区別は、計算で求める指標にもそのまま当てはまります。冠動脈の壁面せん断応力の計算評価の総説3は、CT-FFR と QFR が侵襲的な FFR と同等の診断精度を示す一方で、CT-FFR を使った戦略の試験では血行再建が増えたのに症状の改善も心事故の減少も示されなかったと書いています。3-3第3章の冠動脈の閾値の記事でも、同じ総説からこの区別を取り上げました。

血流解析の結果を臨床の文脈で説明するときは、次の二つを分けて書く必要があります。

問い 根拠の種類 冠動脈での現状
指標は虚血や病変を正しく当てるか 診断精度の研究(参照基準との一致) FFR、iFR、CT-FFR、QFR で多くの検証がある
指標に従って治療すると転帰は良くなるか 治療戦略の無作為化試験 FFR で治療しない病変を選ぶ利益は示された。死亡の減少は示されていない

ISCHEMIA の結果は、急性冠症候群、左主幹部の50%以上の狭窄、駆出率35%未満、薬物治療でも症状が強い患者には当てはまりません。また、生活の質の結果は別の報告で扱われています。血行再建の意義が無いという結論ではなく、安定した患者で虚血があることだけを理由に先行して治療しても、死亡や心筋梗塞は減らないという結論です。

この記事で出てきた言葉

診断精度と治療効果の区別
指標が虚血や病変をよく当てること(診断精度)と、その指標に基づいて治療すると患者の転帰が良くなること(治療効果)は別の命題である、という区別。

引用文献(3 本)

  1. 1

    Xaplanteris P, Fournier S, Pijls NHJ ほか. Five-Year Outcomes with PCI Guided by Fractional Flow Reserve. The New England Journal of Medicine. 2018.↩

    FFR 陽性狭窄の PCI、5年でも複合転帰13.9% 対 27.0% 死亡率は5.1% と5.2%で同等

  2. 2

    Maron DJ, Hochman JS, Reynolds HR ほか. Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease. The New England Journal of Medicine. 2020.↩

    中等度以上の虚血でも侵襲的治療の先行で死亡減らず 5年の複合転帰16.4% 対 18.2%

  3. 3

    Ekmejian AA, Carpenter HJ, Ciofani JL ほか. Advances in the Computational Assessment of Disturbed Coronary Flow and Wall Shear Stress: A Contemporary Review. Journal of the American Heart Association. 2024.↩

    CT 由来 WSS、心筋梗塞の予測で狭窄度を上回る ただし無作為化試験はいまだなし

ここで答えていない問い

  • 薬で充血を起こさずに測る指標でも、FFR と同じように治療する病変を選べるのか。

第7章「冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか」より 最終更新 2026-10-02