第7章 / 全8章

冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか

冠動脈の狭窄を治療するかどうかを、造影で見た細さではなく、圧と流量で決める指標と臨床試験を扱います。計算で求める FFR の前提、冠動脈バイパスの競合血流、狭窄の無い虚血までを含みます。

この章が答える問い

冠動脈の狭窄を治療するかどうかを、血流の指標で決めると何が変わるのか。計算で求めた指標はどこまで使えるのか。

第1章から第6章では、壁面せん断応力・圧力損失・エネルギー損失といった指標の意味と、その数値が計測と解析の条件にどれだけ左右されるかを扱いました。第7章と第8章は、その読み方を冠動脈に当てはめる応用編です。

冠動脈は、血流の指標が臨床判断に最も深く入り込んだ血管です。造影で狭く見える病変を全部治療する代わりに、狭窄の前後の圧の比で治療する病変を選んだ無作為化試験1が、ステントを減らして心事故も減らしました。一方で、中等度以上の虚血がある患者に侵襲的な治療を先行させても死亡は減らなかった試験2もあります。

第7章の記事は、冠循環の流れ方から始めて、7-2FFR の定義と前提、7-3FFR で治療を決めた試験、7-6CT や造影から計算する FFR、7-9冠動脈バイパスのグラフトの血流、7-10狭窄の無い虚血へと進みます。プラークそのものに血流が及ぼす作用は、第8章第8章で扱います。

引用文献(2 本)

  1. 1

    Tonino PA, De Bruyne B, Pijls NH ほか. Fractional flow reserve versus angiography for guiding percutaneous coronary intervention. The New England Journal of Medicine. 2009.↩

    多枝病変の PCI を FFR で選別、ステント2.7本→1.9本 1年の心事故18.3%→13.2%

  2. 2

    Maron DJ, Hochman JS, Reynolds HR ほか. Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease. The New England Journal of Medicine. 2020.↩

    中等度以上の虚血でも侵襲的治療の先行で死亡減らず 5年の複合転帰16.4% 対 18.2%

この章のセクション(11 記事)

  1. 7-1 冠動脈の血流は、なぜ拡張期に流れるのか 冠動脈の血流は心臓の収縮そのものに絞られ、左冠動脈では拡張期に多く流れます。流量の大部分は造影に写らない微小循環の抵抗で決まり、計算ではその抵抗を境界条件として仮定して与えます。 文献 4 本
  2. 7-2 FFR は、圧の比でなぜ流量の比を表せるのか FFR は最大充血下で狭窄の遠位圧を大動脈圧で割った比です。微小循環の抵抗が最小かつ一定になるという前提で、圧の比が流量の比に置き換わります。前提が崩れる病態では狭窄を過小評価します。 動く図 1 点 / 文献 3 本
  3. 7-3 FFR で治療する病変を選ぶと、心事故は減るのか FFR で虚血を起こす病変だけを治療すると、多枝病変ではステントが減り1年の心事故も減りました。虚血のある狭窄への PCI は緊急血行再建を減らしましたが、5年たっても死亡は減っていません。 文献 4 本
  4. 7-4 中等度以上の虚血があれば、血行再建で予後は良くなるのか 負荷試験で中等度以上の虚血がある安定冠動脈疾患でも、侵襲的治療を先行させて死亡や心筋梗塞は減りませんでした。指標が虚血をよく当てることと、治療すれば予後が良くなることは別の問いです。 文献 3 本
  5. 7-5 薬で充血を起こさない iFR は、FFR と同じ病変を選ぶのか iFR は拡張期のうち微小循環の抵抗が低く安定した区間の安静時圧比で、アデノシンを使いません。二つの大規模試験で1年の心事故は FFR と同等でしたが、虚血と判定する病変は FFR より少なく、分類は8割台しか一致しません。 文献 3 本
  6. 7-6 CT や造影から計算する FFR は、何を仮定しているのか CT-FFR は心筋量・血管径・健常者の充血反応という集団の法則で境界条件を決め、QFR は造影剤の流れる速さから流量を推定します。どちらも中間病変で実測 FFR との判定が入れ替わりやすく、入力画像の品質が精度を左右します。 文献 5 本
  7. 7-7 CT-FFR を検査の流れに組み込むと、心臓カテーテル検査は減るのか カテーテル検査を予定していた胸痛患者で CT-FFR を先に行うと、検査の61%が中止され、狭窄の無い検査は73%から12%に減りました。実臨床の登録では治療方針の3分の2が変わり、医師は数値の大きさで判断していました。 文献 3 本
  8. 7-8 3枝病変で、FFR で病変を選んだ PCI は冠動脈バイパスに並ぶのか 3枝病変では、FFR で病変を選んだ PCI も1年の心事故で冠動脈バイパスに非劣性を示せませんでした。バイパスの吻合先を FFR で選ぶと吻合は減りましたが、グラフトの開存は変わらず、外科側の血流評価はまだ定まっていません。 文献 4 本
  9. 7-9 冠動脈バイパスのグラフトは、なぜ自己冠動脈と血流を奪い合うのか 自己冠動脈の狭窄が軽いと、グラフトと自己冠動脈が同じ領域へ血流を奪い合い、グラフトに逆流が生じます。グラフトの配置、中枢側吻合の向き、末梢側吻合の長さが局所の血流と壁面せん断応力を変えることが、数値流体解析で示されています。 文献 4 本
  10. 7-10 冠動脈に狭窄が無いのに、なぜ心筋の虚血が起こるのか 狭心症で造影を受ける患者の最大70%には閉塞性の狭窄がありません。多くは造影に写らない微小循環の障害か冠動脈の攣縮で、冠血流予備能・微小循環抵抗・アセチルコリン負荷で診断します。心外膜の形状からの計算では扱えない病態です。 文献 2 本
  11. 7-11 冠動脈の血流指標で言えること、言えないこと FFR は虚血を起こさない狭窄を治療しない判断を支え、計算で求める FFR は不要なカテーテル検査を減らしました。一方、虚血のある狭窄の治療で死亡が減ることは示されておらず、計算は微小循環の仮定に依存します。 文献 16 本

最終更新 2026-10-02