7-2 冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか

FFR は、圧の比でなぜ流量の比を表せるのか

FFR は最大充血下で狭窄の遠位圧を大動脈圧で割った比です。微小循環の抵抗が最小かつ一定になるという前提で、圧の比が流量の比に置き換わります。前提が崩れる病態では狭窄を過小評価します。

冠動脈造影で径狭窄50%の病変が見つかったとき、その病変が心筋の虚血を起こしているかどうかは、造影の画像だけでは決まりません。カテーテル検査室での冠動脈生理評価の総説1が引くメタ解析では、定量的冠動脈造影の狭窄度で FFR の虚血判定を当てると、感度78%・特異度51%にとどまりました。

造影の狭窄度が虚血を示さない理由

同じ総説は、造影の狭窄度が虚血と一致しない理由をいくつか挙げています。造影は3次元の内腔を2次元の影絵として写すため、偏心した病変は撮影の向きによって狭窄度が変わります。びまん性の病変では、比べる基準となる正常部が決められません。さらに、長い中等度狭窄は、短い高度狭窄と同等以上に流れを妨げることがあります。

狭窄部で失われる圧は、内腔の細さだけでなく、狭窄の長さと流量にも依存します。総説の図は、狭窄前後の圧力低下を、粘性による摩擦と、流れの5-2剥離による損失の和として表しています。摩擦の項は流量に比例し、剥離の項は流量の2乗に比例します。剥離で失われた圧は狭窄の先で戻らない5-1非可逆圧力損失であり、冠動脈ではこの損失が心筋への灌流圧を下げます。

最大充血で圧の比が流量の比に置き換わる理由

FFR(fractional flow reserve、冠血流予備量比)は、狭窄がある血管の最大血流を、同じ血管に狭窄がなかった場合の理論上の最大血流で割った比として定義されます。

流量は、圧の差を抵抗で割った値です。微小循環の抵抗が最小で、しかも狭窄の有無によらず一定であれば、流量の比は微小循環の入口にかかる圧の比に等しくなります。狭窄がない場合の入口の圧は大動脈圧に等しいので、FFR は狭窄の遠位圧 Pd を大動脈圧 Pa で割った値になります。

この「抵抗が最小かつ一定」の状態を作るために、アデノシンなどの血管拡張薬で微小循環を最大まで広げます。この状態を最大充血と呼びます。FFR の臨床的有用性を示した原典2は、FFR が全身の血圧や心拍数、安静時の血流を変える条件に影響されにくく、正常値が誰でも1になることを、指標としての利点に挙げています。

狭窄と微小循環を直列の抵抗とした理想化模型。大動脈圧 90 mmHg、基準径 3.5 mm、安静時の微小循環抵抗は流量 1 mL/s になる値とし、最大充血では抵抗を「拡張の倍率」で割る。健常な冠動脈の拡張は4.5倍とした。狭窄の圧力低下は粘性摩擦(流量に比例)と剥離による損失(流量の2乗に比例)の和で、狭窄長は Taylor らの理想化例(径狭窄60%で FFR 約0.8)に合わせた値。実際の病変の値ではなく、図の数値はすべて模型の計算結果である。

図の点線は安静時の Pd/Pa です。安静時には微小循環の抵抗が大きく流量が少ないため、径狭窄60%でも Pd/Pa は0.98にとどまります。最大充血にすると流量が増え、流量の2乗で効く剥離の損失が急に大きくなり、同じ狭窄で FFR は約0.80まで下がります。CT から FFR を計算する方式の原理の総説3が示した理想化例でも、径狭窄60%の模型で安静時0.97、充血時0.79でした。

FFR 0.75 と 0.80 の閾値

原典の研究2は、造影で中等度の狭窄がある45例で、FFR 0.75 未満の21例が全員、少なくとも1つの負荷試験で可逆性の虚血を示し、血行再建の後に陰性化したと報告しています。FFR 0.75 以上の24例は血行再建をせずに14か月間事象がありませんでした。感度は88%、特異度は100%、正診率は93%で、造影の狭窄度は二つの群で差がありませんでした。

その後の検証研究を集めた総説1は、0.75 未満を虚血、0.80 超を非虚血とし、あいだの0.75〜0.80を臨床判断の要る移行帯としています。大規模な無作為化試験の多くは、虚血の取りこぼしを減らすために移行帯の上限の0.80を採用しました。

閾値 根拠
原典(Pijls 1996) 0.75 複数の負荷試験の組み合わせとの対応
移行帯 0.75〜0.80 単一の負荷試験との比較で生じる不一致
FAME・FAME 2 0.80 虚血の取りこぼしを減らすため上限を採用

最大充血の前提が崩れる病態

図の「微小循環の拡張の倍率」を下げると、同じ狭窄でも FFR が高く出ることが分かります。微小循環が十分に広がらないと充血時の流量が増えず、狭窄部の圧力低下も小さくなるためです。

原典2は、小血管病変、びまん性の冠動脈病変、左室肥大では、薬による充血で血流の増加が制限され、狭窄の重症度を過小評価すると書いています。総説1は、急性心筋梗塞の責任血管では微小循環の抵抗が一様でも一定でもないため、急性期には FFR の前提が成り立たないとしています。

計算で FFR を求める場合も、同じ前提が境界条件として入ります。CT-FFR の原理の総説3は、微小循環障害のある患者では充血による拡張を過大に見込み、計算値が実測の FFR より低く出ると書いています。実測では過小評価、計算では過大評価と向きは逆ですが、どちらも「微小循環が健常どおりに広がる」という仮定が外れたときに起こる誤差です。

この記事で出てきた言葉

最大充血
アデノシンなどの血管拡張薬で微小循環を最大まで広げ、抵抗を最小かつほぼ一定にした状態。FFR はこの状態で測ることを前提にしている。
冠血流予備量比(FFR)
最大充血下で、狭窄の遠位の平均圧を大動脈の平均圧で割った比。狭窄がある場合の最大血流と、狭窄がない場合の理論上の最大血流の比を表す。正常値は1。

引用文献(3 本)

  1. 1

    Kern MJ, Samady H. Current concepts of integrated coronary physiology in the catheterization laboratory. Journal of the American College of Cardiology. 2010.↩

    造影の狭窄度は虚血を示さず FFR 0.80 超の病変を見送ると心臓死・梗塞は年1%

  2. 2

    Pijls NH, De Bruyne B, Peels K ほか. Measurement of fractional flow reserve to assess the functional severity of coronary-artery stenoses. The New England Journal of Medicine. 1996.↩

    中等度狭窄45例、FFR 0.75 未満は全例で虚血を確認 正診率93%、0.75 以上は14か月無事故

  3. 3

    Taylor CA, Fonte TA, Min JK. Computational fluid dynamics applied to cardiac computed tomography for noninvasive quantification of fractional flow reserve: scientific basis. Journal of the American College of Cardiology. 2013.↩

    CT の形状だけで FFR を計算する仕組み 心筋量で総流量、血管径で末梢抵抗、充血は抵抗0.24倍

ここで答えていない問い

  • FFR で治療する病変を選ぶと、患者の転帰は実際に良くなるのか。

第7章「冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか」より 最終更新 2026-10-02