7-3 冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか
FFR で治療する病変を選ぶと、心事故は減るのか
FFR で虚血を起こす病変だけを治療すると、多枝病変ではステントが減り1年の心事故も減りました。虚血のある狭窄への PCI は緊急血行再建を減らしましたが、5年たっても死亡は減っていません。
FFR は、狭窄が虚血を起こしているかどうかを圧の比で判定する指標です。判定が正確であることと、その判定に従って治療すると患者の転帰が良くなることは、別に確かめる必要があります。FFR の場合、その確認は三つの段階の試験で行われました。
虚血の無い狭窄に PCI を行わない判断(DEFER)
最初の段階は、FFR が正常な狭窄を治療しなくてよいかという問いです。冠動脈生理評価の総説1が引く DEFER 試験では、FFR 0.75 以上の病変で PCI(経皮的冠動脈インターベンション)を見送った群と実施した群で、5年の無事故生存は80% と73%で差がありませんでした。心臓死と心筋梗塞は見送り群3.3%、実施群7.9%で、FFR が正常な病変の心臓死・心筋梗塞は年1%程度で、ステントを入れても減りませんでした。
多枝病変で治療する病変を FFR で選ぶ判断(FAME)
次の段階は、造影で狭窄と判断した病変を全部治療するか、FFR で選ぶかという問いです。多枝病変の1005例を割り付けた FAME 試験2では、術者が造影で治療が要ると判断した病変のうち、37%は FFR が 0.80 を超えていました。
FFR で選んだ群はステントの本数が1例あたり2.7本から1.9本に減り、1年の死亡・心筋梗塞・再血行再建は18.3%から13.2%に下がりました。手技時間は変わらず、造影剤と材料費は減りました。改善の機序について著者は、虚血を起こさない病変へのステント留置を避けたことで、ステント血栓症や再狭窄のリスクが減ったためと推測しています。
虚血のある狭窄に PCI を加える判断(FAME 2)
最後の段階は、FFR が虚血を示す狭窄に PCI を加えると、薬物治療だけより転帰が良くなるかという問いです。FAME 2 試験3は、少なくとも1本の狭窄が FFR 0.80 以下だった888例を、PCI+薬物治療と薬物治療だけに割り付けました。
死亡・心筋梗塞・緊急血行再建は PCI 群4.3%、薬物治療群12.7%で、差が大きいとして試験は早期に中止されました。差の中身は緊急血行再建(1.6% と11.1%)で、死亡と心筋梗塞には有意差がありませんでした。造影では治療が要るとされたのに、全狭窄の FFR が 0.80 を超えていた患者が約25%おり、薬物治療だけの事故率は3.0%と低いままでした。
FAME 2 の5年成績4でも、複合転帰は PCI 群13.9%、薬物治療群27.0%と差が続きました。ただし差は緊急血行再建(6.3% と21.1%)によるもので、死亡は5.1% と5.2%で同等でした。狭心症の軽減も3年までは PCI 群が優れていましたが、5年では差が消えています。同じ期間に薬物治療群の51%が PCI を受けており、割り付けどおりの解析では両群の差が薄まります。
FFR を使った試験の結果の範囲
三つの段階の試験を並べると、FFR が確かに示したことと、示していないことが分かれます。
| 試験 | 問い | 示されたこと | 示されなかったこと |
|---|---|---|---|
| DEFER | FFR 正常の病変を治療しなくてよいか | 見送っても事故率は低い | — |
| FAME | 造影で選ぶか FFR で選ぶか | ステントが減り1年の心事故が減る | 長期の死亡の減少 |
| FAME 2 | 虚血のある狭窄に PCI を加えるか | 緊急血行再建が減る | 死亡と心筋梗塞の有意な減少 |
| FAME 2(5年) | 利益は長期に続くか | 複合転帰の差が続く | 死亡の減少 |
FFR の最も確かな利益は、虚血を起こさない狭窄を治療しない判断を支えることです。造影で狭く見える病変の3割前後が、圧で測ると虚血を起こしていませんでした。一方、虚血のある狭窄を治療して命が救われるかという問いには、FAME 2 は答えていません。この問いに虚血の量から迫った試験を 7-4次の記事で扱います。
引用文献(4 本)
- 1
- 2
- 3
- 4
ここで答えていない問い
- 虚血の量が大きい患者を選べば、血行再建で死亡や心筋梗塞は減るのか。
第7章「冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか」より 最終更新 2026-10-02