7-6 冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか
CT や造影から計算する FFR は、何を仮定しているのか
CT-FFR は心筋量・血管径・健常者の充血反応という集団の法則で境界条件を決め、QFR は造影剤の流れる速さから流量を推定します。どちらも中間病変で実測 FFR との判定が入れ替わりやすく、入力画像の品質が精度を左右します。
圧ワイヤーで測る FFR は、カテーテル検査の中でしか得られません。冠動脈 CT や侵襲的造影の画像から FFR を計算できれば、ワイヤーも薬も使わずに狭窄の機能的な重症度を推定できます。計算で求める FFR には、大きく分けて二つの方式があります。
| CT-FFR(FFRCT) | QFR | |
|---|---|---|
| 入力画像 | 冠動脈 CT | 侵襲的造影の2方向 |
| 流れの解き方 | 3次元の数値流体解析 | 3次元に再構成した内腔と流速から圧の低下を推定 |
| 流量の決め方 | 心筋量と相対成長則から総冠血流を推定 | 造影剤が血管を進むフレーム数から流速を推定 |
| 充血の扱い | 健常者の充血時の抵抗低下率を当てはめる | 充血薬を使わない |
| 計算時間(各研究の時点) | 1検査あたり1〜5時間 | 中央値5.0分 |
CT-FFR の境界条件を決める集団の法則
CT-FFR の原理を開発者が説明した総説1によると、CT-FFR の計算は、CT から抽出した大動脈基部と心外膜冠動脈の形状に、心臓・体循環・冠微小循環を表す集中定数模型をつないで解きます。集中定数模型は、計算領域の外にある血管網を、電気回路の抵抗・容量に見立てた少数の要素で表す方法です。
問題は、患者ごとの冠血流を測っていないことです。そこで境界条件を、次の三つの法則で決めています。
- 総冠血流は心筋量に比例します。 心筋量は CT の心筋体積から求めます。
- 各出口の抵抗は血管径に反比例します。 血管は内皮が感じる壁面せん断応力を一定に保つように径を調整するので、流量は径のべき乗に比例するという関係(Murray 則)を使います。
- 充血時の総冠抵抗は安静時の0.24倍に下がります。 冠血流予備能が正常な血管で測られた値を全員に当てはめます。
拍動を解く場合は、心筋内圧を含む出口の回路模型を示した研究2の方式で、左右の心室圧を心筋内圧として与えます。7-1冠動脈の血流の基礎の記事で扱った、収縮期に血流が絞られる性質を表すための条件です。
どの法則も集団の平均的な関係であり、目の前の患者に当てはまる保証はありません。総説は、微小循環障害のある患者では充血の拡張を過大に見込み、計算値が実測より低く出ると書いています。
CT-FFR と実測 FFR の一致の度合い
CT-FFR の最初の前向き多施設研究3では、159血管で血管単位の正診率が CT-FFR 84.3%、CT の狭窄度58.5%でした。差の中身は特異度で、CT の狭窄度の39.6%に対して CT-FFR は82.2%でした。CT で狭く見える病変の多くが虚血を起こしていないことを、計算した圧の比が見分けたことになります。
一方で、CT-FFR と実測 FFR の差は平均 −0.022、標準偏差0.116でした。閾値0.80 の付近では、個々の血管の判定が入れ替わりうる幅です。
改良した方式を検証した NXT 試験4では、患者単位の特異度が79%に上がりました(CT の狭窄度は34%)。著者は理由として、微小循環抵抗の模型の改良と、心拍数の管理や硝酸薬の投与を含む撮像ガイドラインの厳守を挙げています。同じ試験で、動き・ノイズ・石灰化のにじみ・造影不足のため13%の患者が画質基準を満たさず解析から外れました。計算の精度は、計算模型だけでなく入力画像の品質でも決まります。
QFR の速さと操作者への依存
QFR をカテーテル検査室でその場で計算した FAVOR II Europe-Japan 研究5では、317病変で QFR の感度86.5%・特異度86.9%が、2次元の定量造影の44.2%・76.5%を上回りました。FFR との差は平均0.01、標準偏差0.06で、計算時間の中央値は5.0分と FFR の測定より短くなりました。
著者は、集団の法則で境界条件を決める CFD 方式の「全員に同じ条件を当てる」限界と計算時間の長さを、QFR が避けた点として挙げています。その代わり、フレームの選択・内腔の輪郭・造影剤の追跡に人の操作が入るため、カテーテル検査室での計算と中核検査室の再計算の間に平均 −0.03 の偏りが出ました。
閾値付近で下がる正診率
どの方式でも、判定が入れ替わりやすいのは閾値付近の病変です。
| FFR の区分 | QFR の正診率(FAVOR II E-J) |
|---|---|
| 0.55〜0.64 | 100% |
| 0.65〜0.74 | 92.7% |
| 0.75〜0.84 | 71.3% |
| 0.85 以上 | 93.9% |
DISCOVER-FLOW3でも、CT で中等度狭窄の血管のうち CT-FFR が見逃した4血管は、いずれも実測 FFR が0.75〜0.80でした。計算した FFR を報告するときは、平均の一致度だけでなく、閾値付近で判定がどれだけ揺れるかを併記する必要があります。
FAVOR II E-J の著者は、QFR が0.77 以下なら治療、0.87 以上なら見送りとし、そのあいだだけ圧ワイヤーで測る併用方式を提案しています。計算の不確かさが大きい範囲を、実測で補う設計です。
この記事で出てきた言葉
- 計算で求める FFR(CT-FFR・QFR)
- 冠動脈 CT や侵襲的造影から内腔の形状を再構成し、流れを計算して FFR を推定したもの。微小循環の抵抗は集団の法則などから仮定して与える。
- 集中定数模型
- 計算領域の外にある血管網を、電気回路の抵抗・容量・インダクタンスに見立てた少数の要素で表す模型。数値流体解析の出口や入口の境界条件に使う。
引用文献(5 本)
- 1
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3
Koo BK, Erglis A, Doh JH ほか. Diagnosis of ischemia-causing coronary stenoses by noninvasive fractional flow reserve computed from coronary computed tomographic angiograms. Results from the prospective multicenter DISCOVER-FLOW study. Journal of the American College of Cardiology. 2011.↩
CT から計算した FFR、血管単位の正診率84.3% CT の狭窄度だけでは58.5%
-
4
Nørgaard BL, Leipsic J, Gaur S ほか. Diagnostic performance of noninvasive fractional flow reserve derived from coronary computed tomography angiography in suspected coronary artery disease: the NXT trial (Analysis of Coronary Blood Flow Using CT Angiography: Next Steps). Journal of the American College of Cardiology. 2014.↩
CT-FFR の患者単位特異度79%、CT 狭窄度は34% ただし13%は画質不良で解析対象外
-
5
Westra J, Andersen BK, Campo G ほか. Diagnostic Performance of In-Procedure Angiography-Derived Quantitative Flow Reserve Compared to Pressure-Derived Fractional Flow Reserve: The FAVOR II Europe-Japan Study. Journal of the American Heart Association. 2018.↩
造影から計算する QFR、FFR との差は平均0.01±0.06 閾値付近0.75〜0.84では正診率71%
ここで答えていない問い
- 計算した FFR を診療の流れに組み込むと、検査と治療の判断はどう変わるのか。
第7章「冠動脈の狭窄は、血流で測って治療を決められるのか」より 最終更新 2026-10-02