原著 Annals of Biomedical Engineering 2010 技術動向 研究の着想 原文精読済み

冠動脈の血流と圧力を患者固有に計算する境界条件 — 心筋内圧を含む集中定数模型の結合

Patient-specific modeling of blood flow and pressure in human coronary arteries

Kim HJ, Vignon-Clementel IE, Coogan JS, Figueroa CA, Jansen KE, Taylor CA.

問い

冠動脈の数値流体解析で、出口の境界条件に何を与えれば、心臓の収縮で血流が絞られる冠動脈特有の波形を再現できるのか。

答え

各冠動脈出口に、動脈抵抗・微小循環抵抗・静脈抵抗・コンプライアンスと心筋内圧からなる集中定数模型をつなぎ、心筋内圧を左右の心室圧で与えると、左冠動脈は拡張期優位、右冠動脈は収縮期優位という実際の波形が再現されました。最大拡張を想定した条件では、径狭窄75%で左前下行枝の流量が 3.7 から 1.8 mL/秒に減りました。

当社の視点

冠動脈の血流は、ほかの動脈と違って心臓の収縮そのものに絞られます。出口に一定の圧力や抵抗を置くだけの境界条件では、この性質が表せません。この論文は、心臓・体循環・肺循環を閉じた回路として解き、左冠動脈には左室圧、右冠動脈には右室圧を心筋内圧として与える方法を示しました。のちの CT-FFR の境界条件の土台になった研究で、冠動脈の解析で出口条件をどこまで作り込むかを決めるときの参照点になります。安静時は狭窄があっても流量を保つよう抵抗を下げ、運動時は最大拡張として正常時と同じ条件を与えるという、生理の仮定の置き方も具体的に書かれています。

扱う範囲

  • 01

    冠動脈出口の模型

    Mantero らの模型から冠静脈側の微小循環コンプライアンスを除き、冠動脈抵抗、冠動脈コンプライアンス、動脈側微小循環抵抗、心筋コンプライアンス、静脈側微小循環抵抗、静脈抵抗、心筋内圧で構成しました。3次元の有限要素模型と陰的に結合しています。

  • 02

    心筋内圧の与え方

    左右の心臓をそれぞれ集中定数模型にした閉回路を解き、左冠動脈の出口には左室圧、右冠動脈の出口には右室圧を心筋内圧として与えました。右室圧は最大でも平均大動脈圧の5分の1程度で、右冠動脈は収縮期にも血流が減りません。

  • 03

    パラメータの決め方

    平均冠血流を心拍出量の4.0%とし、形態データと文献値から各主要枝に配分しました。抵抗は平均流量・平均動脈圧・冠動脈インピーダンスの文献値から、容量は波形が生理的になるよう調整しています。

  • 04

    計算条件

    健常男性1名の心電図同期 CT から大動脈・頸部分枝・主要冠動脈を抽出しました。血液はニュートン流体、壁は線形弾性体として流体構造連成で解き、ヤング率は CT で測った大動脈壁の変形に合わせました。

  • 05

    狭窄の影響

    左前下行枝の径を40〜75%狭めると、安静時は流量を保ったまま遠位圧が 94 から 78 mmHg に下がり、運動時は流量も減りました。圧力低下は狭窄度に対して直線的でなく、Gould らのイヌの実験と同じ傾向でした。

狭窄度と左前下行枝の平均流量・平均圧

項目値補足
安静時の総冠血流 3.4 mL/秒 左前下行枝1.3・回旋枝1.5・右冠動脈0.6
正常(運動時) 3.7 mL/秒・85 mmHg 安静時は1.1 mL/秒・94 mmHg
径狭窄50%(運動時) 3.2 mL/秒・73 mmHg 安静時は 92 mmHg
径狭窄75%(運動時) 1.8 mL/秒・36 mmHg 安静時は 78 mmHg
平均冠血流の設定 心拍出量の4.0% 文献値による仮定

いずれもこの論文の計算値で、健常者1名の形状に狭窄を加えた模型によるものです。

実務チェック

  • 冠動脈の解析で出口に置いた境界条件が、心筋内圧による収縮期の血流低下を表しているかを確認します。
  • 左冠動脈と右冠動脈で心筋内圧の大きさが違うことを、出口条件に反映させたかを記録します。
  • 狭窄部の圧力低下を報告するときは、安静時か最大拡張時か、流量を固定したか抵抗を固定したかを明記します。

この研究が扱わない範囲

  • 心臓の運動は扱わず、冠動脈を心外膜面に固定しています。
  • 心筋内圧は左右の心室で一様とし、心筋内の位置による違いは扱っていません。
  • 血管壁のヤング率は全域で一様です。
  • 形状は健常者1名で、計算値を患者の実測と突き合わせてはいません。

書誌情報

原題Patient-specific modeling of blood flow and pressure in human coronary arteries
著者Kim HJ, Vignon-Clementel IE, Coogan JS, Figueroa CA, Jansen KE, Taylor CA.
掲載誌Annals of Biomedical Engineering(2010)
DOI10.1007/s10439-010-0083-6
PMID20559732

あわせて読む

解析でお困りですか

指標の選び方、撮像条件、解析手順のご相談は当社サポートまでお寄せください。

お問い合わせ