第8章 / 全8章
冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか
冠動脈で計算した壁面せん断応力と、プラークの進展・組成の変化・破裂・心筋梗塞との関係を、連続観察の研究と予後研究から扱います。低い値と高い値の両方が別々の経路で関わり、計算手順の合意も整いつつあります。
冠動脈で計算した壁面せん断応力は、プラークの進展と破裂、心筋梗塞をどこまで予測できるのか。
第7章第7章では、狭窄が血流を妨げて心筋の虚血を起こすかどうかを、圧の比で判定する指標を扱いました。しかし急性心筋梗塞の多くは、高度な狭窄ではなく、プラークの破綻と血栓で起こります。プラークがどこにでき、どこで育ち、どこで壊れるかには、壁面せん断応力が関わると考えられてきました。
3-3第3章の冠動脈の記事では、冠動脈の壁面せん断応力に 1 Pa 未満・1〜7 Pa・7 Pa 超の区分があることを総説から紹介しました。第8章は、その区分の背後にある一次研究に戻ります。同じ患者の冠動脈を6か月後に再評価した最初の研究1から始めて、日本の506例の前向き研究2、FFR 陽性の患者で心筋梗塞を予測した研究3、そして計算手順の専門家推奨4までを扱います。
引用文献(4 本)
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2
Stone PH, Saito S, Takahashi S ほか. Prediction of progression of coronary artery disease and clinical outcomes using vascular profiling of endothelial shear stress and arterial plaque characteristics: the PREDICTION Study. Circulation. 2012.↩
大きなプラークに低い内皮せん断応力が重なると1年で41%に PCI どちらも無ければ92%が進行せず
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4
Gijsen F, Katagiri Y, Barlis P ほか. Expert recommendations on the assessment of wall shear stress in human coronary arteries: existing methodologies, technical considerations, and clinical applications. European Heart Journal. 2019.↩
冠動脈 WSS の計算手順を29名が推奨 入口は冠動脈口から、格子は収束3%以内、MRI は形状に不適
この章のセクション(6 記事)
- 8-1 低い内皮せん断応力は、冠動脈のプラークをどう育てるのか 時間平均の内皮せん断応力が低い部位で初期プラークができ、血管が外向きに広がって応力が正常に戻れば安定し、過剰に広がって低い応力が続けば破れやすいプラークに育つという枠組みです。ヒトの連続観察でも低い部位でプラークが厚くなりました。 文献 2 本
- 8-2 低い WSS は、冠動脈病変の進行をどこまで予測するのか 日本の506例の研究では、大きなプラーク量に低い WSS が重なった狭窄の41%が1年以内に PCI を要しました。ただし該当する患者は6%で、主要評価項目は予測できず、低い WSS の部位で血管が広がるか縮むかは研究間で逆の結果です。 文献 4 本
- 8-3 高い WSS は、冠動脈のプラークを守るのか壊すのか 高い WSS の部位ではプラークの量は増えない一方で、壊死性コアと石灰化が増え線維成分が減りました。破裂したプラークでは、局所的に WSS が高い位置と破裂の位置が一致しています。ただし空間的な一致は因果を示しません。 文献 6 本
- 8-4 WSS は、FFR に加えて将来の心筋梗塞を予測するのか FFR 陽性で薬物治療を受けた患者では、病変近位部の WSS が高いほど3年の心筋梗塞が増え、FFR に上乗せの予測情報を持ちました。CT の研究でも血流指標が責任病変の識別を上げましたが、閾値は計算条件ごとに桁が違います。 文献 4 本
- 8-5 冠動脈の WSS は、どう計算すれば再現できるのか 冠動脈の WSS は形状の取得方法、分岐の扱い、入口流量、格子、血液の模型で変わります。側枝を省くと WSS の中央値は 2.54 Pa から 4.37 Pa に上がりました。専門家推奨は再構成と格子収束の手順を示しています。 文献 8 本
- 8-6 冠動脈の壁面せん断応力は、臨床判断にどこまで使えるのか 低い WSS はプラークの進展と、高い WSS はプラークの不安定化と心筋梗塞と関連し、形態や FFR に上乗せの情報を持ちます。一方、単独での予測精度は十分でなく、WSS を標的にした治療の転帰を検証した試験はありません。 文献 8 本
最終更新 2026-10-02