8-4 冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか

WSS は、FFR に加えて将来の心筋梗塞を予測するのか

FFR 陽性で薬物治療を受けた患者では、病変近位部の WSS が高いほど3年の心筋梗塞が増え、FFR に上乗せの予測情報を持ちました。CT の研究でも血流指標が責任病変の識別を上げましたが、閾値は計算条件ごとに桁が違います。

8-3高い WSS の記事では、破裂したプラークで WSS が高い位置と破裂の位置が一致することを見ました。臨床で役立つかどうかは、事故が起こる前の画像から計算した WSS が、将来の事故を予測するかで決まります。

FFR 陽性の患者で病変近位部の WSS が予測した心筋梗塞

Kumar らの研究1は、FAME 2 試験2で FFR 0.80 以下のため薬物治療だけに割り付けられた441例を使いました。3年以内に責任血管の心筋梗塞を起こした29例と、背景を揃えた対照29例の造影から冠動脈を3次元に再構成し、WSS を計算しています。

病変を近位・中部・遠位の3等分と、上流・下流の 5 mm の区間に分けると、心筋梗塞と関連したのは病変近位1/3の WSS だけでした。近位部の WSS が 3 Pa 上がるごとに心筋梗塞のハザードが23%増え、心筋梗塞を分ける最適な閾値は 4.71 Pa でした。

心筋梗塞群 対照群
病変近位部の WSS(中央値) 5.94 Pa 3.19 Pa
FFR(中央値) 0.66 0.76
径狭窄(中央値) 55.2% 45.3%

近位部の WSS と FFR の相関はほぼありませんでした(ρ=−0.152)。FFR の予測モデルに近位部の WSS を加えると、再分類の指標が有意に改善しました。著者は、圧が壁に垂直に、WSS が壁に沿って働く独立した力であることを、二つの指標が別の情報を持つ理由に挙げています。

計算は、造影の2方向からの再構成、造影剤の速度から求めた患者ごとの入口流速、Murray 則による分流、定常流という、日常の造影で実行できる条件でした。著者は、拍動・壁の運動・心臓の動きを入れた理想的な模型でなくても、転帰の予測には足りる可能性を示唆しています。

急性冠症候群の前の CT から計算した血流指標

EMERALD 研究3は、急性冠症候群の1か月〜2年前に冠動脈 CT を撮っていた72例の216病変で、のちの責任病変と非責任病変を比べました。CT-FFR と同じ計算から、CT-FFR、病変前後の CT-FFR の差(ΔFFRCT)、WSS、軸方向のプラーク応力の4つの血流指標を求めています。

狭窄度と病変長のモデル(c 指数0.709)に、CT で見た高リスクプラークの性状を加えると0.747、さらに血流指標を加えると0.789に上がりました。単独で最も情報量が多かったのは ΔFFRCT で、WSS も単独で識別を上げました。

冠動脈の WSS の計算評価の総説4は、EMERALD を「CT 由来の WSS が狭窄度や高リスクプラーク所見より心筋梗塞をよく予測した」と要約しています。原文の結果は、WSS を含む4つの血流指標の組み合わせが形態と性状に上乗せの情報を持ち、最も寄与したのは圧の差だったというものです。引用の際は、原文の結果に戻って区別する必要があります。

研究ごとに桁が違う WSS の閾値

予後と関連した WSS の閾値は、研究によって大きく異なります。

研究 計算の条件 閾値・区分
専門家推奨(Gijsen 2019) 培養実験と少数の生体計測 低 0〜1 Pa、正常〜高 1〜7 Pa、上昇 7 Pa 超
PREDICTION 2012 IVUS と造影、定常流、3 mm 区間の最小値 低 1 Pa 未満(3分位)、PCI の予測は 0.98 Pa 未満
Samady 2011 IVUS と造影、拍動流、断面の平均 高 2.5 Pa 超
Kumar 2018 造影の再構成、定常流、病変近位1/3の平均 4.71 Pa
EMERALD 2019 CT、最大充血を模した定常流、病変表面の平均 15.47 Pa 以上

最大充血を模した計算では流量が安静時の数倍になり、WSS も同じく数倍になります。EMERALD の閾値が他の研究より一桁大きいのはこのためです。さらに、区間の平均か最小値か、拍動の時間平均か定常計算かによっても数値は変わります。

3-4第3章の施設間比較の記事で扱ったとおり、壁面せん断応力の絶対値は計測と解析の条件を含んだ数値です。冠動脈の予後研究の閾値も、その研究の計算手順と集団の中でしか意味を持ちません。Kumar らの研究は症例29例の事後解析、EMERALD は72例の後ろ向き研究で、どちらも大規模な前向き研究による確認が必要だと著者自身が書いています。

引用文献(4 本)

  1. 1

    Kumar A, Thompson EW, Lefieux A ほか. High Coronary Shear Stress in Patients With Coronary Artery Disease Predicts Myocardial Infarction. Journal of the American College of Cardiology. 2018.↩

    病変近位部の WSS が 4.71 Pa を超えると3年の心筋梗塞が増加 FFR に上乗せの予測情報

  2. 2

    De Bruyne B, Pijls NH, Kalesan B ほか. Fractional flow reserve-guided PCI versus medical therapy in stable coronary disease. The New England Journal of Medicine. 2012.↩

    FFR 0.80 以下の狭窄、薬物治療だけでは緊急血行再建11.1% PCI 併用で1.6%

  3. 3

    Lee JM, Choi G, Koo BK ほか. Identification of High-Risk Plaques Destined to Cause Acute Coronary Syndrome Using Coronary Computed Tomographic Angiography and Computational Fluid Dynamics. JACC: Cardiovascular Imaging. 2019.↩

    急性冠症候群の前の CT、狭窄・プラーク性状に血流指標を加えると責任病変の識別が向上 最有力は病変前後の FFR 差

  4. 4

    Ekmejian AA, Carpenter HJ, Ciofani JL ほか. Advances in the Computational Assessment of Disturbed Coronary Flow and Wall Shear Stress: A Contemporary Review. Journal of the American Heart Association. 2024.↩

    CT 由来 WSS、心筋梗塞の予測で狭窄度を上回る ただし無作為化試験はいまだなし

ここで答えていない問い

  • 冠動脈の WSS を、施設をまたいで比べられる形で計算するには何を揃えればよいのか。

第8章「冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか」より 最終更新 2026-10-02