8-3 冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか
高い WSS は、冠動脈のプラークを守るのか壊すのか
高い WSS の部位ではプラークの量は増えない一方で、壊死性コアと石灰化が増え線維成分が減りました。破裂したプラークでは、局所的に WSS が高い位置と破裂の位置が一致しています。ただし空間的な一致は因果を示しません。
生理的な範囲の高い WSS は内皮を静かな状態に保ち、動脈硬化から守ると考えられてきました。冠動脈の研究では、狭窄が進んだ後の高い WSS が、むしろプラークを壊れやすくする可能性が示されています。2-3第2章で扱った動脈瘤の二経路仮説と同じく、低い値と高い値が別々の経路で病変に関わるという構図です。
高い WSS の部位で変わるプラークの組成
Samady らの研究1は、20例の左前下行枝で WSS を低(1.0 Pa 未満)・中(1.0〜2.5 Pa)・高(2.5 Pa 超)に分け、高周波 IVUS(VH-IVUS)でプラークの組成を6か月追跡しました。
| WSS の区分 | プラーク量の変化 | 組成の変化 | リモデリング |
|---|---|---|---|
| 低い | 増える(+3.39%) | 壊死性コアが増える | 縮む傾向 |
| 中程度 | ほぼ変化なし | ほとんど変化なし | — |
| 高い | 減る(−1.34%) | 壊死性コアと高密度石灰が増え、線維・線維脂肪成分が減る | 過剰に広がる傾向 |
高い WSS の区間は、ベースラインのプラーク量が45.5%と大きく、流れを加速させて WSS を上げる一方で、血管全体の FFR は中央値0.90と流量を制限していませんでした。著者は、流量を制限しない大きなプラークが不安定化しやすいという考え方と整合するとしています。
組成の推定は VH-IVUS によるもので、ブタの研究では VH-IVUS の壊死性コアの大きさと組織学の相関が見られなかったことを、著者自身が限界に挙げています。
破裂の位置と局所的に高い WSS の一致
破裂したプラーク20例を3次元 IVUS で解析した研究2は、日本の施設から、破裂の位置とせん断応力の分布を比べました。破裂後の形から破裂前の形を外挿し、定常流で計算しています。
破裂はすべてプラークの近位側(13例)か頂部(7例)にあり、遠位側の破裂はありませんでした。局所的にせん断応力が高い位置も近位側12例・頂部8例で、破裂の位置との一致の度合いは κ=0.79 でした。圧力の局所的な上昇は2例だけでした。
狭窄に向かって血流が加速する近位側と頂部で、速度勾配が大きくなり WSS が高くなります。FFR 陽性の患者を調べた研究3は、組織学でもマクロファージとプラークの破裂が近位側に多いと書いています。
高い WSS がプラークを弱める機序の仮説
WSS は、血圧による壁の引っ張り応力より桁違いに小さく、線維性被膜を機械的に直接壊す大きさではありません。専門家推奨4は、WSS の作用は機械的な破壊ではなく、内皮の生物学的な信号を通じたものだと書いています。
研究が挙げている仮説は次のとおりです。
- 高い WSS が内皮にプラスミンを産生させ、プロテオグリカンの基質を分解する
- 一酸化窒素と TGF-β の産生が増え、平滑筋細胞の増殖を抑えてアポトーシスを起こし、線維性被膜を薄くする
- マクロファージのメタロプロテアーゼの産生を促し、血管の外向きの拡大に関わる
推奨文書の WSS の区分では、7 Pa を超える上昇した WSS は、進行病変でびらんとの関連が示唆されています。自然歴の総説5も、高度狭窄の頸部の高い ESS が内皮のびらんに関わる可能性を挙げています。
研究間で一致しない高い WSS の役割
高い WSS の役割は、研究によって見え方が異なります。PREDICTION 研究6では、高い WSS とプラークの進行や内腔の悪化の関連は見られませんでした。
| 研究 | 高い WSS について示されたこと | 示されなかったこと |
|---|---|---|
| Samady 2011 | 壊死性コア・石灰の増加、線維成分の減少 | 臨床事象との関係 |
| Fukumoto 2008 | 破裂の位置との空間的な一致 | 因果関係、破裂前の予測 |
| PREDICTION 2012 | — | プラーク進行・内腔悪化との関連 |
破裂の位置との一致は、破裂後に見つかった病変での後ろ向きの対応です。Fukumoto らも、空間的な一致は因果の証拠ではないと書いています。高い WSS が将来の事故を予測するかは、事故が起こる前の画像から計算して確かめる必要があります。その種類の研究を 8-4次の記事で扱います。
この記事で出てきた言葉
- 高リスクプラーク
- 破綻して急性冠症候群を起こしやすいとされるプラーク。薄い線維性被膜と大きな壊死性コア、外向きのリモデリング、CT では低吸収・点状石灰化・ナプキンリング徴候が特徴とされる。
引用文献(6 本)
- 1
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2
Fukumoto Y, Hiro T, Fujii T ほか. Localized elevation of shear stress is related to coronary plaque rupture: a 3-dimensional intravascular ultrasound study with in-vivo color mapping of shear stress distribution. Journal of the American College of Cardiology. 2008.↩
破裂したプラーク20例、局所的に高い壁面せん断応力の位置と破裂部位が一致(κ=0.79)
- 3
-
4
Gijsen F, Katagiri Y, Barlis P ほか. Expert recommendations on the assessment of wall shear stress in human coronary arteries: existing methodologies, technical considerations, and clinical applications. European Heart Journal. 2019.↩
冠動脈 WSS の計算手順を29名が推奨 入口は冠動脈口から、格子は収束3%以内、MRI は形状に不適
-
5
Chatzizisis YS, Coskun AU, Jonas M ほか. Role of endothelial shear stress in the natural history of coronary atherosclerosis and vascular remodeling: molecular, cellular, and vascular behavior. Journal of the American College of Cardiology. 2007.↩
低い内皮せん断応力と過剰な外向きリモデリングの悪循環 破裂しやすいプラークの成り立ち
-
6
Stone PH, Saito S, Takahashi S ほか. Prediction of progression of coronary artery disease and clinical outcomes using vascular profiling of endothelial shear stress and arterial plaque characteristics: the PREDICTION Study. Circulation. 2012.↩
大きなプラークに低い内皮せん断応力が重なると1年で41%に PCI どちらも無ければ92%が進行せず
ここで答えていない問い
- 高い WSS は、FFR とは別に将来の心筋梗塞を予測するのか。
第8章「冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか」より 最終更新 2026-10-02