低 WSS と高 OSI は炎症細胞を介して大きく厚い壁の瘤を、高 WSS と正の勾配は壁細胞を介して小さく薄い壁の瘤を作る。集めた症例の偏りで、研究の結論が入れ替わります。
前の二つの記事で、逆向きの結果が両方とも残っていることを確かめました。これを「どちらかの誤り」として処理せずに説明したのが、Meng らの統一仮説です。
主張は単純です。どちらも起きている。
低 WSS の経路
低い壁面せん断応力と高い OSI は、内皮の炎症性応答を起こします。第1章で見た NF-κB と活性酸素種の経路です。活性酸素種が産生され、白血球が浸潤し、マクロファージがマトリックス分解酵素を出して細胞外基質を分解する。
結果として、大きく、壁が厚い粥状硬化型の瘤ができます。時間をかけて育つ型です。
高 WSS の経路
一方、分岐部で流れが加速して生じる高い壁面せん断応力と、正の WSS 勾配は、別の細胞を刺激します。壁に常在する平滑筋細胞と線維芽細胞です。これらがマトリックス分解酵素を産生します。
しかも高 WSS の環境は白血球の浸潤を抑えます。炎症細胞が来ないので壁は厚くならず、小さく、薄く、半透明の壁の瘤が比較的速く形成される。
下の図で、二つの経路を並べて比べてください。入口の流れの条件が違うと、通る細胞も、出てくる瘤の形も違います。
統一仮説が示した二つの経路。内容は総説の要約で、この図が独自に主張しているものはない。総説は具体的な WSS の閾値を与えていないため、ここにも数値は置いていない。
二つの型を混ぜると平均は意味を失う
この二つは、動脈瘤の表現型として別物です。大きさが違い、壁の厚さが違い、病理像が違い、そこに至る機序が違う。
そうであれば、研究の結論は集めた症例がどちらの型に偏るかで入れ替わります。高 WSS で破裂と結論した研究は、小型の瘤を多く集めていた可能性がある。低 WSS で結論した研究は、大型の病変を扱っていた可能性がある。集団の構成が、結論を決めているということです。
前の記事で見た異質性——研究間のばらつきが偶然では説明できない大きさだったこと——は、この仮説のもとでは自然な結果になります。混ぜているものが違うのだから、ばらつくのが当たり前です。
実務にどう効くか
含意は明確です。瘤をひとまとめにした平均値は、機序の異なる二つの経路を混ぜた値なので、意味を持ちません。
症例をまとめて統計に載せるときは、サイズ・部位・表現型で層別してから載せる。単一の指標で危険度を語らない。他施設の結論と自分の結論が逆になったときは、解析条件を疑う前に集団の構成を比べる。
この論文が示していないことも押さえておきます。具体的な WSS の閾値は与えられていません。「ある閾値を超えたとき」という記述はありますが、数値はありません。また既存の動物モデルは初期形成しか再現できず、成長と破裂の機序は捉えられないと著者自身が述べています。根拠となる CFD 研究にも仮定と妥協の幅があります。
つまりこれは、既存の矛盾を整理する仮説であって、予測モデルではありません。