前の記事で読んだ単施設研究は、低 WSS 領域の広さに差を見いだしませんでした。一方、複数の研究を統合するとどうなるか。
統合すると関連は残る
低 WSS と破裂のメタ解析は、22研究1257例を統合しました。結果は、低 WSS(0〜1.5 Pa)と破裂の関連がオッズ比 2.17(95% CI 1.73–2.62)。平均 WSS は破裂群 0.64 Pa、非破裂群 1.4 Pa(p = 0.037)です。
低ずり説を引用するとき、単施設の報告ではなくこの統合結果を挙げられる。それがこの論文の使い道です。
ところが閾値を広げると消える
同じ解析の中に、注意すべき記述があります。低 WSS の範囲を 0〜2.0 Pa に広げると、オッズ比の信頼区間が 1 をまたぎ(0.89–5.06)、有意性が消える。
1.5 Pa で切れば有意、2.0 Pa で切れば非有意。データは同じです。動いたのは「低い」の定義だけです。
なぜこうなるのか。下の図で閾値を動かしてみてください。分布は模擬コホートで文献のデータではありませんが、機序の一つを再現しています。
上段は破裂群・非破裂群の WSS 分布(各群90例の模擬コホート。破裂群だけが「本当に低い」成分を持つという仮説をそのまま形にしたもの)。下段はその閾値で計算したオッズ比と95%信頼区間。文献のデータではなく、閾値の位置で 2×2 表とオッズ比が動く機序を見るための図。
境界を左に寄せると、「低い」に入るのは本当に低い症例だけになります。その集団は破裂群に偏っているので、オッズ比は大きく出ます。
境界を右に広げていくと、二つのことが同時に起こります。平均的な症例まで「低い」に入ってきて群の差が薄まり、同時に「高い」側の症例数が減って 2×2 表が偏ります。表が偏れば信頼区間は広がる。この二つが重なると、点推定値がさほど変わらなくても信頼区間が 1 をまたぎます。
なお、メタ解析で 2.0 Pa のときに有意性が消えた背景には、この機序に加えて研究間の異質性もあります。この図はその一因を切り出したものです。
これが閾値依存です。第1章で、平均の取り方が結論を変えることを見ました。今度は、境界値の取り方が結論を変えています。どちらも、指標そのものではなく指標の使い方が結論を作っているという同じ構図です。
統合したことで見えたもう一つのこと
このメタ解析は、OSI についても統合を試みています。結果は、統合しても有意にならない。第1章で TAWSS と OSI が独立な情報を持つことを見ましたが、破裂との関連という点では、少なくとも現在の報告を統合した限りでは OSI 側に一貫した信号がありません。
さらに、異質性と出版バイアスも検出されています。研究間のばらつきが偶然では説明できない大きさで、有意な結果が出た研究のほうが発表されやすい傾向がある。統合結果の解釈には、この二つを差し引いて考える必要があります。
二つの報告を並べて置く
ここまでで、次の状態になりました。
210瘤の単施設研究は、低 WSS 領域の広さに差を見いださず、流入の集中と最大 WSS の高さに差を見いだした。22研究1257例の統合解析は、低 WSS(1.5 Pa 未満)と破裂の関連を検出したが、閾値を広げると消え、OSI では検出できず、異質性と出版バイアスもある。
この二つは、どちらかが誤りなのでしょうか。次の記事が、そうではないという説明を与えます。