8-2 冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか
低い WSS は、冠動脈病変の進行をどこまで予測するのか
日本の506例の研究では、大きなプラーク量に低い WSS が重なった狭窄の41%が1年以内に PCI を要しました。ただし該当する患者は6%で、主要評価項目は予測できず、低い WSS の部位で血管が広がるか縮むかは研究間で逆の結果です。
8-1自然歴の記事では、低い内皮せん断応力の部位でプラークが厚くなることを、8例の連続観察で見ました。臨床で使えるかどうかは、多くの患者で、どれだけの確率で進行を予測できるかにかかっています。
大きなプラーク量に低い WSS が重なった狭窄の行く先
PREDICTION 研究1は、急性冠症候群で PCI を受けた日本の17施設506例の3枝を、IVUS と造影で再構成して WSS を計算し、374例を6〜10か月後に再評価しました。日本では PCI 後6か月に追跡造影と IVUS を撮る慣行があったため、日本の施設で実施されています。
動脈を3 mm の区間に分け、各区間の WSS を3分位で低(1 Pa 未満)・中(1〜1.7 Pa)・高(1.7 Pa 超)に分けました。IVUS の断面でプラーク面積を血管面積で割った割合をプラーク量と呼び、内腔の狭さとは別の指標として扱っています。
| 評価項目 | 独立した予測因子 | 低い WSS の関与 |
|---|---|---|
| プラーク面積の増加(主要評価項目) | 大きなプラーク量、内腔面積、過剰な外向きリモデリング | 関連しなかった |
| 内腔面積の減少 | 大きなプラーク量、低い WSS、過剰な外向きリモデリング、遠位の位置 | 独立に予測した |
| プラーク量の増加 | 低い WSS、過剰な外向きリモデリング、大きな内腔、近位の位置 | 独立に予測した |
| 1年以内の PCI を要した狭窄 | 大きなプラーク量(58%以上)、低い WSS(0.98 Pa 未満) | 独立に予測した |
1年以内に PCI を要した狭窄の割合(陽性的中率)は、大きなプラーク量だけなら22%、低い WSS が重なると41%でした。どちらも無ければ92%が進行しませんでした。ただし、両方を持つ狭窄がある患者は6.2%にとどまり、追跡中の PCI の多くは症状のない患者で追跡造影の結果から行われていました。症状のある臨床事象は少なく、WSS との関係は統計的に評価できませんでした。
低い WSS の部位で血管は広がるのか縮むのか
低い WSS の部位で血管がどちらへリモデリングするかについては、研究の結果が一致していません。
| Stone 2003 | Samady 2011 | |
|---|---|---|
| 対象 | 8例12本 | 20例の左前下行枝 |
| 低い WSS の定義 | 下位10%(0.91 Pa 未満を含む区分) | 1.0 Pa 未満 |
| 低い WSS の部位のプラーク | 厚くなる | 面積と壊死性コアが増える |
| 低い WSS の部位の血管 | 外向きに広がる | 縮む(収縮性リモデリング73%、有意差なし) |
| 流量の与え方 | 造影剤の通過時間、定常流 | ドップラーの実測流速、拍動流 |
Stone らの研究2は低い ESS の部位で外向きの拡大を、Samady らの研究3は収縮性のリモデリングの傾向を報告しました。Samady らは、無症候性のプラーク破綻の後の線維化や、WSS を生理的な範囲に戻す適応として縮む可能性を挙げています。
対象の病変の進み具合、WSS の区分の決め方、流量の与え方がそれぞれ違うため、二つの結果を直接比べることはできません。2-2第2章で扱った閾値依存と同じく、「低い」の境界をどこに置くかで、同じ現象でも見え方が変わります。
解剖学的な危険因子に低い WSS が加わる場合
冠動脈 WSS の専門家推奨4は、PROSPECT 研究の事後解析を紹介しています。非責任病変で、大きなプラーク量・小さな最小内腔面積・薄い線維性被膜のうち2つ以上を持ち、かつ WSS が低い病変では、3年の心事故が52.1%でした。2つ未満で WSS が低い病変は14.4%、WSS が生理的か高い病変は解剖学的な危険因子の個数によらず0%でした。
推奨文書は同時に、WSS が低い病変のすべてが事故を起こしたわけではなく、どの病変が事故に至るかはまだ分からないと注意しています。低い WSS は、形態の指標に上乗せして陽性的中率を上げる情報であり、単独で将来の事故を言い当てる指標ではありません。
この記事で出てきた言葉
- プラーク量(プラーク負荷)
- IVUS の断面で、プラーク面積を外弾性板で囲まれた血管面積で割った割合。内腔の狭さとは別に、プラークがどれだけ壁にたまっているかを表す。
引用文献(4 本)
-
1
Stone PH, Saito S, Takahashi S ほか. Prediction of progression of coronary artery disease and clinical outcomes using vascular profiling of endothelial shear stress and arterial plaque characteristics: the PREDICTION Study. Circulation. 2012.↩
大きなプラークに低い内皮せん断応力が重なると1年で41%に PCI どちらも無ければ92%が進行せず
- 2
- 3
-
4
Gijsen F, Katagiri Y, Barlis P ほか. Expert recommendations on the assessment of wall shear stress in human coronary arteries: existing methodologies, technical considerations, and clinical applications. European Heart Journal. 2019.↩
冠動脈 WSS の計算手順を29名が推奨 入口は冠動脈口から、格子は収束3%以内、MRI は形状に不適
ここで答えていない問い
- 高い WSS は、プラークにとって保護的なのか、破綻の引き金なのか。
第8章「冠動脈の壁面せん断応力は、将来のプラークと心筋梗塞を予測できるのか」より 最終更新 2026-10-02