原著 Atherosclerosis 2010 技術動向 原文精読済み

冠動脈の流れの計算で側枝を省くと WSS はどれだけ変わるか — 右冠動脈17例の比較

Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches

Wellnhofer E, Osman J, Kertzscher U, Affeld K, Fleck E, Goubergrits L.

問い

冠動脈の WSS を計算するとき、側枝を省いて主幹だけで解いてよいのか。拍動流で解く必要はあるのか。

答え

右冠動脈17例を側枝ありと側枝なしで解き比べると、側枝なしでは主幹の流量が側枝の分だけ減らないため、WSS の中央値が 2.54 Pa から 4.37 Pa に上がり、同じ点の差は最大 12.0 Pa に達しました。差は分岐部だけでなく狭窄部と強い湾曲部にも及びました。一方、定常計算と拍動計算の時間平均 WSS の差は平均7%未満で、分布の相関は0.97を超えました。

当社の視点

冠動脈の解析で側枝を省くと、主幹の流量を過大に与えることになり、WSS が系統的に高く出ます。冠動脈では側枝による主幹の流量の減少が健常者で36.8%、冠動脈疾患で62.6%(中央値)に達し、無視できる大きさではありません。IVUS だけで再構成すると側枝が入らないため、造影との融合で側枝を加える必要がある、という Gijsen らの推奨の根拠の一つです。逆に、時間平均の WSS の分布を見るだけなら定常計算で足りるという結果は、計算費用を説明するときに使えます。ただし OSI のような時間成分の指標は拍動計算でしか得られません。

扱う範囲

  • 01

    対象

    1990〜1994年の2方向造影から、健常7例・冠動脈疾患5例・動脈瘤性冠動脈疾患5例の右冠動脈を3次元に再構成しました。断面は2方向の半径の幾何平均を半径とする円で近似しています。

  • 02

    計算条件

    剛体壁・定常流で、血液はヘマトクリット依存の一般化べき乗則の非ニュートン模型としました。入口流速は冠動脈内ドップラーの実測値(健常 0.17 m/s など)、分岐の流量配分は径の2.6乗に比例させました。格子は壁近傍を細かくし、WSS の誤差を5%未満に抑えています。

  • 03

    側枝の有無の比較

    同じ点の WSS の差の平均は健常 0.64 Pa、冠動脈疾患 4.03 Pa、動脈瘤性 0.38 Pa でした。側枝を省くと 0.4 Pa 以下の低い WSS の面積が有意に過小評価されました。

  • 04

    定常と拍動の比較

    各群の代表例で拍動計算を行い、時間平均 WSS と定常計算の WSS の点ごとの差は平均7%未満、ヒストグラムの相互相関は0.975を超えました。冠動脈は径が小さくウォマスリー数が小さいためと説明しています。

  • 05

    時間成分の指標

    OSI と WSS の時間勾配は、分岐部・狭窄部・強い湾曲部で異常値を示し、拍動計算でも側枝を省けないとしています。

側枝の有無と計算条件の影響

項目値補足
WSS の中央値(17例) 側枝あり 2.54 Pa・なし 4.37 Pa P=0.001
同じ点の差の最大 12.0 Pa —
側枝による主幹の流量の減少(中央値) 健常36.8%・冠動脈疾患62.6% 動脈瘤性43.1%、最大78.7%
定常と拍動の差 < 7% 時間平均 WSS、点ごとの平均
レイノルズ数 105〜252 群平均

いずれもこの論文が報告した値です。

実務チェック

  • 冠動脈の WSS 解析では、側枝を再構成に含めたか、含めない場合に主幹の流量をどう補正したかを記録します。
  • 時間平均の WSS だけを議論するなら定常計算でよいが、OSI など時間成分の指標には拍動計算が要ることを区別します。
  • 分岐の流量配分に使ったべき乗則の指数を明記します。

この研究が扱わない範囲

  • 右冠動脈だけの検討で、左冠動脈にも同じ影響が出ると著者は推測しています。
  • 断面を円で近似し、軸方向の分解能を下げる簡略化をしています。
  • 心臓の運動による冠動脈の変形は扱っていません。

書誌情報

原題Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches
著者Wellnhofer E, Osman J, Kertzscher U, Affeld K, Fleck E, Goubergrits L.
掲載誌Atherosclerosis(2010)
DOI10.1016/j.atherosclerosis.2010.09.007
PMID20934704

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