冠動脈の流れの計算で側枝を省くと WSS はどれだけ変わるか — 右冠動脈17例の比較
Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches
冠動脈の WSS を計算するとき、側枝を省いて主幹だけで解いてよいのか。拍動流で解く必要はあるのか。
右冠動脈17例を側枝ありと側枝なしで解き比べると、側枝なしでは主幹の流量が側枝の分だけ減らないため、WSS の中央値が 2.54 Pa から 4.37 Pa に上がり、同じ点の差は最大 12.0 Pa に達しました。差は分岐部だけでなく狭窄部と強い湾曲部にも及びました。一方、定常計算と拍動計算の時間平均 WSS の差は平均7%未満で、分布の相関は0.97を超えました。
当社の視点
冠動脈の解析で側枝を省くと、主幹の流量を過大に与えることになり、WSS が系統的に高く出ます。冠動脈では側枝による主幹の流量の減少が健常者で36.8%、冠動脈疾患で62.6%(中央値)に達し、無視できる大きさではありません。IVUS だけで再構成すると側枝が入らないため、造影との融合で側枝を加える必要がある、という Gijsen らの推奨の根拠の一つです。逆に、時間平均の WSS の分布を見るだけなら定常計算で足りるという結果は、計算費用を説明するときに使えます。ただし OSI のような時間成分の指標は拍動計算でしか得られません。
扱う範囲
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01
対象
1990〜1994年の2方向造影から、健常7例・冠動脈疾患5例・動脈瘤性冠動脈疾患5例の右冠動脈を3次元に再構成しました。断面は2方向の半径の幾何平均を半径とする円で近似しています。
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02
計算条件
剛体壁・定常流で、血液はヘマトクリット依存の一般化べき乗則の非ニュートン模型としました。入口流速は冠動脈内ドップラーの実測値(健常 0.17 m/s など)、分岐の流量配分は径の2.6乗に比例させました。格子は壁近傍を細かくし、WSS の誤差を5%未満に抑えています。
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03
側枝の有無の比較
同じ点の WSS の差の平均は健常 0.64 Pa、冠動脈疾患 4.03 Pa、動脈瘤性 0.38 Pa でした。側枝を省くと 0.4 Pa 以下の低い WSS の面積が有意に過小評価されました。
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04
定常と拍動の比較
各群の代表例で拍動計算を行い、時間平均 WSS と定常計算の WSS の点ごとの差は平均7%未満、ヒストグラムの相互相関は0.975を超えました。冠動脈は径が小さくウォマスリー数が小さいためと説明しています。
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05
時間成分の指標
OSI と WSS の時間勾配は、分岐部・狭窄部・強い湾曲部で異常値を示し、拍動計算でも側枝を省けないとしています。
側枝の有無と計算条件の影響
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| WSS の中央値(17例) | 側枝あり 2.54 Pa・なし 4.37 Pa | P=0.001 |
| 同じ点の差の最大 | 12.0 Pa | — |
| 側枝による主幹の流量の減少(中央値) | 健常36.8%・冠動脈疾患62.6% | 動脈瘤性43.1%、最大78.7% |
| 定常と拍動の差 | < 7% | 時間平均 WSS、点ごとの平均 |
| レイノルズ数 | 105〜252 | 群平均 |
いずれもこの論文が報告した値です。
実務チェック
- 冠動脈の WSS 解析では、側枝を再構成に含めたか、含めない場合に主幹の流量をどう補正したかを記録します。
- 時間平均の WSS だけを議論するなら定常計算でよいが、OSI など時間成分の指標には拍動計算が要ることを区別します。
- 分岐の流量配分に使ったべき乗則の指数を明記します。
この研究が扱わない範囲
- 右冠動脈だけの検討で、左冠動脈にも同じ影響が出ると著者は推測しています。
- 断面を円で近似し、軸方向の分解能を下げる簡略化をしています。
- 心臓の運動による冠動脈の変形は扱っていません。
書誌情報
| 原題 | Flow simulation studies in coronary arteries--impact of side-branches |
|---|---|
| 著者 | Wellnhofer E, Osman J, Kertzscher U, Affeld K, Fleck E, Goubergrits L. |
| 掲載誌 | Atherosclerosis(2010) |
| DOI | 10.1016/j.atherosclerosis.2010.09.007 |
| PMID | 20934704 |