肺高血圧の検出と血行動態の評価に用いる非侵襲の指標としての 4D Flow 由来の壁せん断応力
4D-Flow MRI-Derived Wall Shear Stress as a Non-Invasive Biomarker for the Detection and Hemodynamic Characterization of Pulmonary Hypertension
肺高血圧の患者で 4D Flow を撮るとき、肺動脈の WSS をどう測れば右心カテーテルの圧や抵抗と結びつく指標になるか。
主肺動脈と左右肺動脈の3断面で収縮期の最大 WSS を測り、3断面の平均をとる方法が最も強く平均肺動脈圧(r = −0.75)と肺血管抵抗(r = −0.76)に相関しました。この平均値 0.3 Pa 未満を肺高血圧の判別に使うと、別に集めた群で感度90%・特異度100%でした。閾値は1.5 T の1施設・1種類のシーケンスでの値で、他施設へそのまま持ち込めません。
当社の視点
肺動脈の WSS を臨床指標として使いたいという相談に、測り方と閾値の両方を示せる文献です。注目点は2つあります。1つは、1断面の値より3断面の平均のほうが侵襲的な計測値とよく相関し、2人の解析者の間の級内相関係数も0.98だった点で、断面の置き方による差を平均で抑える考え方は他の血管にも応用できます。もう1つは、16例で患者固有の CFD を行い、CFD の WSS と平均肺動脈圧の相関(r = −0.63)が 4D Flow の値と同じだった点です。絶対値は分解能で過小評価されると著者自身が書いており、相関の向きと強さは保たれても、閾値の数値は撮像条件と解析ソフトに結びついています。対照の多くが健常ボランティアで、平均肺動脈圧の平均が44 mmHg と進んだ患者が中心のため、判別成績は実臨床より高く出ると著者が明記しています。
扱う範囲
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01
対象
導出群は右心カテーテルで肺高血圧と確定した41例と、肺高血圧でない23例(健常ボランティア20例と、カテーテルで平均肺動脈圧が20 mmHg 未満だった3例)です。検証群は別に前向きに集めた患者と健常ボランティアです。診断は2022年の定義(平均肺動脈圧 > 20 mmHg かつ肺血管抵抗 > 2 Wood 単位)に従っています。
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02
撮像
1.5 T(Siemens MAGNETOM Aera)で、呼吸ナビゲータ付きの心電図同期 4D Flow を試作シーケンスで撮っています。右室流出路から主肺動脈、左右肺動脈の近位までを撮像範囲に入れ、VENC は事前の速度測定から決めています。
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03
WSS の測り方
解析は市販ソフト(cvi42)で、背景位相の補正と折り返し補正のあと、主肺動脈・右肺動脈・左肺動脈に手動で断面を置き、収縮期の最大 WSS と時間平均 WSS を測ります。3断面の算術平均を全体指標としています。主肺動脈では軸方向と周方向の成分に分け、壁を8区画に分けた比較もしています。
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04
CFD による確認
16例を無作為に選び、4D Flow から形状と肺動脈弁位の3次元の流入速度分布を作って Ansys CFX で計算しています。出口条件は、4D Flow で測った左右の分流比を1心周期で積分した割合で与えています。分岐ごとの波形を直接与えると、撮像の雑音で質量保存が崩れるためです。
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05
右室と肺動脈の連関
シネ MRI の右室長軸方向ストレイン(−15.3%)と、右室一回拍出量を収縮末期容積で割った比(1.0)を、連関が保たれているかの代替指標にしています。圧容積ループは使っていません。
この研究が報告した値
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 撮像条件 | 2 × 2 × 2 mm³・時間分解能 43 ms・25心時相 | VENC 100〜200 cm/s、撮像時間 8〜15分 |
| 3断面平均の最大 WSS(導出群) | 健常など 0.43 ± 0.10、肺高血圧 0.17 ± 0.06 | 時間平均 WSS は 0.15 ± 0.03 と 0.07 ± 0.02 |
| 侵襲的計測値との相関 | 平均肺動脈圧 r = −0.75、肺血管抵抗 r = −0.76 | 3断面平均の最大 WSS。肺動脈楔入圧とはどの WSS 指標も相関なし |
| 肺高血圧の判別 | 0.3 Pa 未満、AUC 0.98 | 導出群の ROC で決めた閾値。右肺動脈単独の最大 WSS は 0.29 Pa 未満で AUC 0.99 |
| 検証群での成績 | 感度90%・特異度100% | 偽陰性2例はいずれも 0.32 Pa で、平均肺動脈圧 26 と 27 mmHg の境界例 |
| 右室と肺動脈の連関不全 | 0.18 Pa 未満 | 検証群で、一回拍出量÷収縮末期容積 < 1 に対し感度83%・特異度93%、ストレインに対し感度78%・特異度84% |
| 解析者間の再現性 | 級内相関係数 0.98 | 20例を2人目の解析者が独立に解析。右室ストレインは0.71 |
| CFD との照合(16例) | 平均肺動脈圧との相関 r = −0.63 | CFD の WSS と 4D Flow の WSS で同じ値 |
いずれもこの論文の本文と表1〜3から転記しました。WSS の単位はすべて Pa です。
実務チェック
- WSS の閾値を引用するときは、磁場強度・ボクセルサイズ・解析ソフトをこの研究とそろえたかを確認します。
- 肺動脈の WSS は1断面で判断せず、主肺動脈と左右肺動脈の複数断面で測って平均をとります。
- 解析者を変えて同じ症例を測り、断面の置き方による差を自施設で確かめます。
- CFD で検証するなら、出口条件に分岐ごとの流量波形ではなく分流比を与えることを検討します。
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧のように左右差が出やすい病態では、3断面の平均に加えて各断面の値も見ます。
この研究で分からないこと
- 肺高血圧が疑われて紹介された患者の中で、肺高血圧かどうかを見分ける成績は未検証です。対照の多くが健常ボランティアで、著者は判別成績が実臨床より高く出ると書いています。
- 1施設・1.5 T・試作シーケンスでの結果です。他の装置や解析ソフトで同じ閾値が成り立つかは前向きの検証が必要です。
- 4D Flow の WSS は分解能のため絶対値が過小評価されます。CFD との照合は相関の一致を示したもので、絶対値の一致は示していません。
- 肺動脈性肺高血圧と慢性血栓塞栓性肺高血圧の間で WSS に差はありませんでしたが、各群の例数が少ないと著者自身が書いています。
- 検証群の内訳は、本文では患者23例と健常17例、表1では肺高血圧22例と非肺高血圧18例です。原文の数え方を確認してください。
書誌情報
| 原題 | 4D-Flow MRI-Derived Wall Shear Stress as a Non-Invasive Biomarker for the Detection and Hemodynamic Characterization of Pulmonary Hypertension |
|---|---|
| 著者 | Statton B, Armour C, Leong K, Sedlacik J, Berry A, Jin N, Giese D, Guidice FL, Howard L, Gopalan D. |
| 掲載誌 | Pulmonary Circulation(2026) |
| DOI | 10.1002/pul2.70426 |
| PMID | 42898806 |
| 本文の入手 | オープンアクセス(CC BY)。PMC13678861 の全文を読んで記載しています。 |