6-2 同じ症例を別の施設が解析したら、同じ値が出るのか
MRI と CFD で、WSS はなぜ桁が違うのか
CFD の WSS は MRI の3〜5倍になります。条件を完全に揃えたファントムでも3.7倍、狭窄部のピークは8.3倍です。原因は乱流モデルではなく壁際の分解能です。
6-1前の記事で、境界条件を揃えれば CFD どうしの結果は揃う1ことを見ました。では、CFD と MRI のあいだはどうでしょうか。
WSS 分布の一致と絶対値の不一致
大動脈弓での CFD と 4D Flow の妥当性検証2の結果は、構図がはっきりしています。
流れの分布は一致します。 どこが速くどこが遅いか、どこで渦ができるかは合います。
絶対値は一致しません。 壁面せん断応力は CFD が MRI の 3〜5倍、エネルギー損失は 2〜5倍 になります。頸部分枝のような細い血管では、MRI 側が流量を 50〜60% 過小評価します。
乱流モデルは RNG k-ε が最も MRI と相関した、という結果も示されています。なお、この論文の筆頭著者は当社の宮崎です。
乱流モデルと分解能の切り分け
3〜5倍という差を見ると、乱流モデルの選択が疑わしく思えます。この切り分けを行ったのが、大動脈縮窄のファントムを使った研究です。
この研究3は、境界条件も形状も壁の条件もすべて揃えました。同じ物体を、同じ流量で、MRI で撮り CFD で解いています。それでも CFD の平均 WSS は MRI の3.7倍、狭窄部のピークは8.3倍でした。
決定的なのは次の観察です。CFD 側の解像度を MRI と同じ程度に落とすと、差が縮みます。
つまり原因は乱流モデルではなく、MRI が壁近傍を解像できないことです。4-4第4章の図で確かめた構図がそのまま出ています。勾配層より大きなボクセルで壁際の傾きを推定すれば、傾きは緩く出ます。乱流モデルをどう変えても、この分だけは縮みません。
MRI と CFD の使い分け
この二つの研究から、使い分けが決まります。
| 見たいもの | 使う手法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 壁面せん断応力の絶対値 | CFD | 壁近傍の分解能を最も高く設定できる。ただし真値ではなく、粘度・境界条件・壁モデル・形状に依存する |
| 局所の高低・分布 | MRI で足りる | 分布は両者で一致する |
| MRI と CFD の突き合わせ | 正規化した分布 | 絶対値は3〜5倍ずれる |
MRI 由来 WSS と CFD 由来 WSS を並べて「値が違う」と議論すること自体が成立しない、ということです。同一手法の中での相対比較に寄せる、というのが当社の案内の根拠になっています。
同名の指標が指す実体の違い
5-5第5章で「エネルギー損失」について同じことを書きました。3-4第3章では後処理ソフト間で値が違うことを見ました。ここでは測定手法そのものが違います。
同じ「壁面せん断応力」という名前で呼ばれる量が、実際には測り方を含んだ別々の量になっています。この構図が、この分野の値を読むときの基本です。
引用文献(3 本)
- 1
- 2
- 3
ここで答えていない問い
- 分解能を揃えたとして、入力条件のばらつきはどの量に効くのか。
第6章「同じ症例を別の施設が解析したら、同じ値が出るのか」より 最終更新 2026-09-07