渦度・ヘリシティ・エネルギー損失・WSS は分解能に弱く、4D Flow ではエネルギー損失が最大80%過小評価されます。TKE は空間微分を使わないため分解能に強い。
前の記事で、研究段階に置かれた理由として「空間分解能への依存」が挙がっていました。では、どの指標がどれだけ依存するのか。
判断の軸は一つです。その指標が空間微分を含むかどうか。
二種類の指標
数式の定義から整理した総説によれば、指標は次の二つに分かれます。
空間微分を含む指標:渦度、ヘリシティ、エネルギー損失、そして壁面せん断応力。これらは隣り合うボクセルの速度の差から作られます。差を取る操作はノイズを増幅し、しかも差を取る間隔(=ボクセルの大きさ)が変わると値そのものが変わります。4D Flow で計算したエネルギー損失は、最大で約80%の過小評価になりえます。
空間微分を含まない指標:乱流運動エネルギー(TKE)。これはボクセル内の速度のばらつきから求まり、隣のボクセルを参照しません。したがって分解能が低くても、理論上は精度を保ちます。
エネルギー損失については、VENC を 1.5〜2.0 m/s に固定するという具体的な推奨も示されています。
なお、この総説は当社の共同研究者による論文で、宮崎も著者に加わっています。
なぜ必ず過小評価になるのか
過大評価ではなく過小評価になるのは、偶然ではありません。壁際で何が起きているかを見てください。
壁からの距離に対する流速。青が真のプロファイル、赤がボクセル中心から推定した傾き。勾配が立っている層の厚さ δ よりボクセルが大きいと、推定した傾きは必ず緩くなる。理想化した1次元の模型。
拍動流では、速度が立ち上がる層の厚さはミリメートルの桁になることがあります。ボクセルが 2.5 mm でこの層が 1 mm なら、最初のボクセルの中心は既に層の外にあります。壁(速度ゼロ)と、そのボクセルの値を直線で結べば、傾きは真の値より緩くなります。
傾きを緩く推定する方向にしか誤差が出ない、というのがこの構図です。スライダでボクセルの一辺を大きくしていくと、「真 / 推定」の倍率が上がっていくのが見えます。逆に、勾配層を厚くすると倍率は1に近づきます。
これが壁際の分解能の問題です。この図で 2.5 mm と 1 mm の組み合わせを試すと、倍率が2〜3倍の桁になります。第6章で扱う「CFD の WSS が MRI の3〜5倍」という報告の値と、桁が合います。
指標選択を逆算する
この原理が分かると、実務での順序が逆になります。「この指標を出したいから、こういう条件で撮る」ではなく、「この装置でこの分解能なら、提案できる指標はここまで」と逆算できます。
分解能が確保できないなら、空間微分を含む指標は相対比較に限定する。TKE のように微分を含まない指標に寄せる。あるいは数値解析側で解像度を確保する。
判断が原理から出るので、症例ごとに迷わなくなります。