三つ目の道は、エネルギーを経由せず、相対圧——2点間の圧力差そのもの——を流速場から再構成する方向です。カテーテルを入れずに圧較差を出したい、という要求に最も直接に応えます。
手法によって桁が変わる
仮想仕事エネルギー法(νWERP)は、補助的な仮想場を解いたうえで仕事エネルギー式を適用します。分岐があり内腔が狭い血管でも成り立つように設計された手法です。
先天性心疾患の思春期患者5例で、カテーテル圧との誤差は 16±13%、絶対値で 1 mmHg 未満でした。
比較のために、同じデータに他の手法を当てた結果が並んでいます。
| 手法 |
誤差 |
| 仮想仕事エネルギー法(νWERP) |
16±13% |
| 非定常ベルヌーイ |
67% |
| 簡易ベルヌーイ |
100% 超 |
| 従来の WERP |
300% 超 |
同じデータから、桁の違う値が出ています。
だから算出法を書く必要がある
ここから出る要求は明快です。どの手法で出した相対圧かを書かなければ、その値は比較できません。
「圧較差 12 mmHg」という記述だけでは、それが簡易ベルヌーイなのか νWERP なのかで、指している実体が違います。前の記事で「エネルギー損失」について書いたのと同じ構図が、圧力でも起きています。
この手法の限界
著者らは適用条件を明記しています。
内腔が 3〜4 ボクセルを切ると誤差が増えます。 第4章で見た分解能の問題です。細い血管には向きません。
乱流変動は現時点では扱えません。 つまり、乱れが支配的な狭窄部直後への適用には注意が要ります。皮肉なことに、簡易ベルヌーイが最も外す場面と重なります。
そして症例数は5例です。第4章で見た国際合意が相対圧を「臨床的妥当性が未確立」の研究段階に置いているのは、こうした水準を踏まえた判断です。使ってはいけないということではなく、その位置づけを踏まえて報告を書く必要があるということです。
三つの手法を並べる
第5章のここまでで、三つの道が出ました。
乱流運動エネルギー(TKE):ボクセル内の速度分散を使う。空間微分を含まないので分解能に強い。大動脈弁狭窄で非可逆圧力損失と R² = 0.91。ただし侵襲的検証は1例のみ。
粘性エネルギー損失:速度勾配からの散逸を積分する。圧較差と r² = 0.91。空間微分を含むので分解能と輪郭抽出に依存し、輪郭差だけで7%動く。侵襲的検証はない。
相対圧(νWERP):補助場を解いて圧力差を出す。カテーテル比較で誤差 16±13%。ただし5例で、細い内腔と乱流には適用できない。
いずれも「速度場が正しく取れている」ことを前提にしています。分解能が足りなければ速度勾配は過小評価され、散逸も過小になる。この前提の検証が第6章です。