原著(術式設計) The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 1996 技術動向 研究の着想 原文精読済み

外科術式の設計に CFD を使う — 大静脈肺動脈吻合の流れの競合

Use of computational fluid dynamics in the design of surgical procedures: application to the study of competitive flows in cavopulmonary connections

de Leval MR, Dubini G, Migliavacca F, Jalali H, Camporini G, Redington A, Pietrabissa R

問い

CFD を手術の術式そのものの設計に使えるか。使えるとしたら何が分かるか。

答え

使える、と示した最初の報告。上下大静脈の吻合をずらす量と形を変えて解析し、下大静脈側の吻合を右肺動脈側へ広げるとエネルギー損失が最小で左右肺の血流配分も最適になることを見いだし、術式として記述した。以後の Fontan 設計研究はここから始まる。

当社の視点

当社が手がける手術計画の原型にあたる論文です。実務上の意義は結論よりも枠組みにあります。形状のパラメータを振って、エネルギー損失と左右肺の血流配分という二つの指標で優劣をつけ、その結果を術式として書き下す。この手順が30年経ったいまも変わっていません。同時に、著者自身が「術後不全の原因は特定できなかった」と書いている点も重要で、CFD が示せるのは局所形状が流れに与える影響までだという線引きが最初から意識されています。

扱う範囲

  • 01

    扱った2つの臨床課題

    全大静脈肺動脈接続(TCPC)における上大静脈と下大静脈の流れの競合。もう一つは両方向性 Glenn 吻合の上大静脈血流と、狭窄した肺動脈からの前方血流との競合。いずれも術後不全の機序を理解する目的。

  • 02

    手法

    有限要素法(FIDAP)で非定常 Navier-Stokes 式を解く。血管撮影とカテーテルのデータから約30の計測値をもとに完全パラメトリックな3次元形状を構築。節点数は 15,000〜33,000。後負荷として両肺と左房を表す集中定数モデルを併用した。

  • 03

    TCPC の設計

    上大静脈は体静脈還流の約3分の1を運ぶが大きい右肺へ、下大静脈は約3分の2を運ぶが小さい左肺へ優先的に流れる。吻合のオフセット量を変えて解析し、下大静脈側の吻合を右肺動脈側へ広げるとエネルギー損失が最小で配分も最適になった。

  • 04

    Glenn 吻合での前方血流

    肺動脈狭窄が高度(75%)だと、拍動性の前方血流は主に左肺動脈へ向かい、上大静脈圧と右肺動脈への影響は小さい。前方血流が体血流の 15/30/45/60% のとき、平均肺動脈圧と上大静脈圧はそれぞれ 1/1.7/2.4/3.6 mmHg 上昇した。

報告された値

Glenn 吻合に前方血流が加わったときの、平均肺動脈圧と上大静脈圧の上昇。前方血流の割合にほぼ比例する。
数値で確かめる
項目補足
節点数 15,000〜33,000 8節点ブリック要素。1996年時点の規模
形状パラメータ 約30の計測値 血管撮影の正面像と側面像から取得
前方血流 15% のとき 圧上昇 1 mmHg 平均肺動脈圧と上大静脈圧
前方血流 30 / 45 / 60% 1.7 / 2.4 / 3.6 mmHg 前方血流に対しほぼ線形に上昇
肺細動脈抵抗 1.62 Wood 単位 左房圧は 4 mmHg として計算

いずれもこの論文が報告した値です。

実務チェック

  • 術式案を比べるときは、エネルギー損失と左右肺の血流配分を必ず対で見る。片方だけでは優劣がつかない。
  • 形状をパラメトリックに作る。個別形状を1つ解くだけでは設計の指針にならない。
  • CFD が答えられるのは局所形状が流れに与える影響まで。術後不全の原因特定を約束しない。

この研究の限界

  • 著者自身が「モデル研究では術後不全の原因を特定できなかった」と述べています。
  • さらなる検討には追加のシミュレーションが必要としています。
  • 1996年時点の計算規模であり、現在の解像度とは前提が異なります。

書誌情報

原題Use of computational fluid dynamics in the design of surgical procedures: application to the study of competitive flows in cavopulmonary connections
著者de Leval MR, Dubini G, Migliavacca F, Jalali H, Camporini G, Redington A, Pietrabissa R
掲載誌The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery(1996)
DOI10.1016/S0022-5223(96)70302-1
PMID8601964

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