1-4 流れが壁に何をするか
往復する流れを、二つの指標に分ける
大きさを平均する TAWSS と、向きの入れ替わりを見る OSI。同じ波形から作られますが、別のことを言っています。定義の書き方も文献間で揃っていません。
壁面せん断応力は、心周期の中で刻々と変わります。収縮期に大きく順行し、拡張早期には逆行することもある。この時間変化する量を、1つの数字に縮めないと統計に載せられません。
縮め方は二通りあります。そして二通りしかない、というのが要点です。
大きさを平均する — TAWSS
ひとつは、向きを無視して大きさだけを心周期で平均する方法です。TAWSS(Time-Averaged Wall Shear Stress、時間平均壁面せん断応力)と呼びます。
この方法は、往復する流れでも値が残ります。行きも帰りも「擦っている」と数えるからです。
向きの入れ替わりを見る — OSI
もうひとつは、向きがどれだけ入れ替わったかを見る方法です。OSI(Oscillatory Shear Index、振動せん断指数)と呼びます。
考え方は単純で、「向きを込めて足した合計」と「大きさだけを足した合計」を比べます。一方向にしか流れていなければ二つは一致し、行きと帰りが釣り合っていれば前者はゼロになる。この比を取ります。
下の図で確かめてください。逆行の強さと長さを変えると、波形の形が変わり、TAWSS と OSI がそれぞれ動きます。
触ってみると、二つの指標の性格の違いが出ます。順行のピークを変えずに逆行だけを強くしていくと、TAWSS はさほど動かないのに OSI は大きく動く。 逆に、波形の形を保ったまま全体を大きくすると、TAWSS は上がるのに OSI は変わりません。
つまり、この二つは独立な情報を持っています。「低い TAWSS と高い OSI」という組み合わせが病変好発部の特徴として語られるのは、前の記事で見た「小さい」と「向きが定まらない」の二つに、それぞれ対応しているからです。
定義が揃っていないという落とし穴
ここで一つ、この連載を通じて何度も出てくる型の問題に出会います。OSI の定義は文献間で完全に揃っていません。
図の中に書いてあるのが、この図で使っている定義です。一方向の流れで 0、完全に釣り合った往復で 0.5 になる形にしてあります。文献にはこれと分子・分母や符号の取り方が違う書き方もあり、その場合は同じ流れに対して別の数字が出ます。
だから、OSI の値を文献と比べるときは、まず両者がどの定義を使っているかを確認する必要があります。0.09 と 0.4 が並んでいても、定義が違えば同じ流れを指している可能性がある。
この「定義を書かないと比較できない」という構図は、以降の章で扱う指標のほとんどに当てはまります。エネルギー損失でも、相対圧でも、同じことが起きます。
次の記事へ
指標が二つ揃いました。次は、その指標が実際に病変の場所を説明できているのかを検証した報告を読みます。結論は、通説ほど単純ではありません。
この記事で出てきた言葉
- TAWSS(時間平均 WSS)
- 心周期にわたって WSS の大きさを平均した量。向きの情報を落とすため、往復する流れでも値が残る。
- OSI(振動せん断指数)
- WSS の向きが心周期の中でどれだけ入れ替わるかを表す無次元量。定義の符号の取り方が文献間で揃っていないことがある。
ここで答えていない問い
- この指標で、実際の病変の場所を説明できるのか。
第1章「流れが壁に何をするか」より 最終更新 2026-09-07