1-6 血流は血管壁に何をするのか
TAWSS と OSI の定義と使い分け
拍動を縮める指標は、大きさを平均する TAWSS と、向きの入れ替わりを見る OSI の二つです。同じ波形から作られますが、別のことを言っています。定義の書き方も文献間で揃っていません。
壁面せん断応力は、心周期の中で刻々と変わります。収縮期に大きく順行し、拡張早期には逆行することもあります。この時間変化する量を、1つの数字に縮めないと統計に載せられません。
よく使われる縮め方は二つあります。大きさを平均するか、向きの入れ替わりを見るかです。この二つに限られるわけではなく、両者を組み合わせた相対滞留時間(RRT)のような指標もあります。ここでは、もっとも広く報告されている二つを先に押さえます。
TAWSS(時間平均壁面せん断応力)の定義
ひとつは、向きを無視して大きさだけを心周期で平均する方法です。TAWSS(Time-Averaged Wall Shear Stress、時間平均壁面せん断応力)と呼びます。4D Flow から算出する指標の数学的定義を整理した 板谷らの総説1が、この量と次の OSI の定義式を与えています。
この方法は、往復する流れでも値が残ります。行きも帰りも「擦っている」と数えるからです。
OSI(振動せん断指数)の定義
もうひとつは、向きがどれだけ入れ替わったかを見る方法です。OSI(Oscillatory Shear Index、振動せん断指数)と呼びます。
考え方は単純で、「向きを込めて足した合計」と「大きさだけを足した合計」を比べます。一方向にしか流れていなければ二つは一致し、行きと帰りが釣り合っていれば前者はゼロになります。この比を取ります。
下の図で確かめてください。逆行の強さと長さを変えると、波形の形が変わり、TAWSS と OSI がそれぞれ動きます。
触ってみると、二つの指標の性格の違いが出ます。順行のピークを変えずに逆行だけを強くしていくと、TAWSS はさほど動かないのに OSI は大きく動きます。 逆に、波形の形を保ったまま全体を大きくすると、TAWSS は上がるのに OSI は変わりません。
二つの性格を並べると次のようになります。
| TAWSS | OSI | |
|---|---|---|
| 縮める対象 | 大きさ | 向きの入れ替わり |
| 向きの扱い | 無視して絶対値を平均 | 向き込みの和と絶対値の和の比 |
| 一方向の流れ | 値が残る | 0 |
| 釣り合った往復流 | 値が残る | 0.5(この記事の定義) |
| 逆行だけを強くしたとき | ほとんど動かない | 大きく動く |
| 波形全体を大きくしたとき | 上がる | 変わらない |
つまり、この二つは独立な情報を持っています。「低い TAWSS と高い OSI」という組み合わせが病変好発部の特徴として語られるのは、1-4前の記事で見た「小さい」と「向きが定まらない」の二つに、それぞれ対応しているからです。この組み合わせで病変を説明した報告は、系統的レビュー2の集計では支持4編・不支持2編でした。
標準の OSI と派生定義
標準的な OSI の式は、かなり確立しています。 一方向の流れで 0、完全に釣り合った往復で 0.5 になる形で、図の中に書いてあるのがその定義です。値は 0〜0.5 の範囲に収まります。ここは定義が割れている量ではありません。
注意が要るのは派生定義のほうです。ある方向へ投影した成分で計算する投影 OSI のように、同じ「OSI」という名前で別の量を指す報告があります。派生定義の値と標準の値を並べるときは、どちらの式かを確認してください。
指標の名前だけでは中身が決まらないという構図そのものは、以降の章で扱う量にも当てはまります。5-2エネルギー損失と 5-6相対圧では、OSI より深刻な形で現れます。同じ名前で計算法が複数あり、値が桁で違います。
低ずり説の検証状況
指標が二つ揃いました。1-7次の記事では、その指標が実際に病変の場所を説明できているのかを検証した報告を読みます。結論は、通説ほど単純ではありません。
この記事で出てきた言葉
- TAWSS(時間平均 WSS)
- 心周期にわたって WSS の大きさを平均した量。向きの情報を落とすため、往復する流れでも値が残る。
- OSI(振動せん断指数)
- WSS の向きが心周期の中でどれだけ入れ替わるかを表す無次元量。定義の符号の取り方が文献間で揃っていないことがある。
引用文献(2 本)
- 1
- 2
ここで答えていない問い
- この指標で、実際の病変の場所を説明できるのか。
第1章「血流は血管壁に何をするのか」より 最終更新 2026-09-07