第1回
心臓の中で血液は渦を巻いています
心臓に入った血液は、すぐ隣にある出口へ直行せず、いったん渦を作ります。渦が育つ長さは健常成人で一定の範囲に報告されており、心臓の動きが落ちた人ではその範囲から外れます。
心臓の左心室には、入口と出口が隣り合って付いています。入口は僧帽弁、出口は大動脈弁で、そのあいだは数センチしか離れていません。押し出す効率だけを考えるなら、入ってきた血液はそのまま出口へ向かうのが近道です。
実際の血液はそう動きません。入ってきた血液は心室の奥へ進み、壁に沿って回り込み、渦を作ってから出口へ向かいます。渦とは、流体が回転しながら進む運動のことです。
流れ込んだ血液が周りの血液を巻き込むと、渦ができます
渦ができる理由は、心室の中に既に血液があることです。
拡張期に僧帽弁が開くと、左心房から左心室へ血液が流れ込みます。流れ込む血液は、心室の中で止まっている血液を押しのけながら進みます。押しのけられた血液は前へは逃げられず、横へ、そして流れ込んできた血液の縁を回り込むように動きます。縁での回り込みが、そのまま回転になります。
回転は流れ込みが続くあいだ成長し、輪の形をした渦になります。心臓では、この輪が心室の壁に沿って向きを変え、次の収縮で血液を大動脈弁へ送り出す向きに合います。
渦が育つ長さには、報告された範囲があります
渦は流れ込みが続くあいだ大きくなり、ある長さを超えると、それ以上は輪として成長せず、あとから来た血液は輪の後ろに残ります。
Gharib らは、この性質を1つの数値で表しました。僧帽弁を通る平均の流入速度に流れ込みの持続時間を掛けると、送り込まれた血液の柱の長さが求まります。柱の長さを僧帽弁の直径で割った値を渦形成時間1と呼びます。単位のない、比の値です。
報告された値は、健常成人80名で 3.5〜5.5、拡張型心筋症の患者で 1.5〜2.5 でした。健康な心臓では値が大きくも小さくもならず、狭い範囲に集まります。
つまみを動かすと、流入が速いほど、また流れ込みが長く続くほど柱が伸びます。心臓の動きが落ちて流入の勢いが弱まると、柱は短いままで終わります。
渦がいくつあるかは、数え方によって変わります
渦を数えるとき、どこからどこまでを1つの渦と呼ぶかを決める必要があります。
一般的なやり方は、回転の強さを表す量を計算し、ある値より強い領域を渦として切り出すものです。ここで、どのくらい強ければ渦と呼ぶかは人が決めます。設定を変えると、同じ計測データから数えられる渦の個数が変わります。
流れのつながり方から渦を記述する手法2は、切り出しの設定に頼らずに渦を扱おうとするものです。回転の強さで線を引く代わりに、流れの構造そのものを数学の言葉で表します。施設や装置が変わっても同じ記述になることを目指した方向です。
渦の個数は、流れを見る側の設定で決まる部分があります。心臓の中に客観的な個数が最初から存在しているわけではありません。
心臓から出た血液も、回転を保ったまま進みます
心室で作られた回転は、大動脈に入ってからも消えません。次の図は、当社が取得した健常ボランティアの心臓と大動脈の計測データです。線は血液の道すじを表し、色は流れの速さを表します。
当社が取得した健常ボランティア1名の 4D Flow MRI を iTFlow で可視化したものです。患者の診療データではありません。
大動脈の中の回転は、次回で扱います。
渦について、まだ分かっていないこと
渦形成時間が健常成人で一定の範囲に集まり、拡張型心筋症で下がることは報告されています。一方で、値が下がった人がその後どうなるかを追跡し、将来の経過を予測できるかを確かめた研究は限られています。渦の形と病気の関係として報告されているのは、多くが同じ時点での比較です。
渦が見えること自体は、異常を意味しません。健康な心臓にも渦はあります。渦の大きさや向きだけを取り出して良し悪しを判断できる段階には、まだありません。
次回は、心臓から出た血液が大動脈の中でどう進むかを扱います。血液は管の中をまっすぐ進むのではなく、回転しながら進みます。
この記事で確かめたこと
- 左心室に入った血液は出口へ直行せず、壁に沿って回り込みながら渦を作ります。
- 渦が育った長さを弁径で割った値は、健常成人80名で 3.5〜5.5、拡張型心筋症で 1.5〜2.5 と報告されています。
- 同じ流れでも、渦をいくつと数えるかは切り出し方の設定で変わります。
引用文献(2 本)
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最終更新 2026-09-25