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A HISTORY OF COMPUTATIONAL HEMODYNAMICS / 1955 — 2026

血流を計算する
血流 CFD 全史

1955年、ある数学者は、拍動する血流の速度を数式で解きました。計算機が流体の方程式を解けるようになると、その式は心臓の弁のまわり、動脈の分かれ目、患者一人ひとりの血管へと広がりました。血流の数値流体解析(CFD)の70年を、論文を根拠にたどります。

0速さ(背景は計算格子を模した表示)
PART 0

はじめての人へ 5分で分かる CFD

CFD を初めて見る人のための部です。計算の中で何が起きているのかを、ブラウザの中で動く小さな計算と、血流の基本の数値で示します。最後に、話の種になる雑学とクイズを置いています。

ACFD は何をしているのか入門

空間を細かいマス目に分け、マス目ごとに流れの式を少しずつ解く

数値流体解析(CFD)は、流れの方程式を、空間を小さなマス目(計算格子)に分けて近似的に解く方法です。マス目ごとに、隣のマス目との間で質量と運動量をやりとりさせ、時間を少しずつ進めます。下の図は、その計算をこのページの中で実際に動かしています。

狭窄のある血管の中の流れを、いま計算しています格子ボルツマン法(D2Q9)で、幅 96 マスの2次元の流路を計算しています。左から拍動する流れが入り、狭窄を抜けた噴流の後ろに渦が並びます。渦度の表示では、赤が反時計回り、青が時計回りの回転です。縮尺と粘性は見やすさを優先した仮の値で、実際の血管の値ではありません。
1形を作る

CT や MRI から血管の内腔の形を取り出します。

2マス目に分ける

形の中を、数十万〜数百万の小さな要素に分けます。

3条件を決める

入口から入る流れ、出口の圧、壁の性質、血液の粘性を与えます。

4解く

質量と運動量の保存の式を、時間を少しずつ進めながら解きます。

5確かめて読む

格子を細かくしても答えが変わらないかを確かめ、壁面せん断応力や圧を読みます。

格子の細かさ同じ血管の断面を、粗い格子・中くらいの格子・細かい格子に分けた模式図です。壁の近くを細かくするのは、壁面せん断応力が壁のすぐそばの速度の変化で決まるためです。
血液の粘性はずれの速さで変わるCho と Kensey が1991年に整理した Carreau モデルの定数(μ0 = 0.056 Pa·s、μ∞ = 0.00345 Pa·s、λ = 3.313 s、n = 0.3568)で描いています。流れが遅い所の粘性は高くなりますが、太い動脈の速いずれの領域では粘性はほぼ一定で、ふるまいは線形に近くなります。そのため、大動脈や冠動脈の CFD では、血液をニュートン流体(約 3.5 mPa·s)として扱うのが一般的です。
血管ごとのレイノルズ数と Womersley 数(計算例)Re = ρUD/μ、α = (D/2)√(ωρ/μ) に、表の仮の代表値(血液の密度 1,060 kg/m³、粘性 0.0035 Pa·s、心拍 60 回/分)を入れて計算しています。点にカーソルを合わせると、置いた値が出ます。大動脈では Re が数千、α が10を超え、毛細血管では Re が1よりずっと小さくなります。同じ「血流」でも、効く物理がまるで違います。
B雑学とクイズ入門

血流の式を解いた数学者は、チューリングを雇った人だった

血流の CFD の周りには、話の種になる事実がいくつもあります。カードを押すと、詳しい説明が開きます。

5問のクイズ

PART 1

年代順にたどる 1955 →

ここから歴史に入ります。拍動流の理論から、計算機の中の心臓、動脈硬化とせん断の関係、画像から作る患者の血管、そして臨床の検査になった CFD までを、古い順に5つの章で読みます。

01拍動流の理論1955–1997

心拍で揺れる血流は、Womersley の式で解けた

動脈の血流は、心拍のたびに加速と減速を繰り返します。1955年、Womersley は圧力勾配が分かれば管の中の速度分布を計算できる式を示しました。この式は、いまも CFD の入口の条件や検証に使われています。

拍動の速さと管の太さ、血液の粘性の比は、Womersley 数(α)という1つの無次元数にまとまります。α が小さいと速度の分布は放物線のまま前後に揺れ、α が大きいと中央が平らになり、壁の近くで流れが先に向きを変えます。血液は赤血球を含むため粘性が一定でない非ニュートン流体ですが、太い動脈ではその影響が小さいことも、1990年代までに整理されました。

Womersley 数と速度の分布正弦波の圧力勾配で駆動した円管の速度分布を、Womersley の解析解で描いています(模式図、1心拍を自動で再生)。左から α = 2(細い動脈に近い)、α = 6、α = 15(大動脈に近い)です。
02せん断と動脈硬化1968–2012

動脈硬化は、血流が壁をこする力の弱い場所に生じやすい

動脈硬化のプラークは、血管のどこにでもできるわけではありません。1969年、Caro は早期の病変が壁のせん断の小さい部位に分布することを論じ、1985年、Ku は頸動脈の分岐部の模型で、低くて向きの入れ替わるせん断の部位にプラークが重なることを示しました。

血液が血管壁を流れの向きにこする力を壁面せん断応力(WSS)と呼びます。内皮の細胞は WSS を感じ取り、低く向きの入れ替わる WSS の部位では動脈硬化を促す性質に変わります。WSS は血管の中で直接測ることが難しく、計算で求める動機になりました。振動せん断指数(OSI)や相対滞留時間(RRT)のような指標も、この研究の流れから生まれています。

頸動脈の分岐部内頸動脈の膨らみ(球部)の外側では、流れがはがれて渦ができ、WSS が低く向きが入れ替わります。プラークはこの部位に多く見られます(Zarins 1983、Ku 1985 をもとにした模式図)。
03計算機の中の心臓1972–2002

動く弁を計算するために、格子の上に「見えない力」を置いた

1972年、Peskin は心臓の弁のまわりの流れを計算する方法を発表しました。弁は流れに押されて動き、流れは弁に押されて向きを変えます。Peskin は、固定した計算格子の上に弁の弾性線維を置き、線維の力を周りの格子に配る方法(埋め込み境界法)でこの連成を解きました。

1990年代には、有限要素法で頸動脈の3次元の拍動流と壁の変形を解くモデルが作られ、1998年には Taylor らが血管の血流を解く有限要素法の計算基盤を示しました。理論の式が当てはまらない複雑な形の血管でも、計算で流れを求められるようになります。

埋め込み境界法流体は固定した格子(灰色の点)で解き、弁の弾性線維(赤い点)の力を、近くの格子点へ重みをつけて配ります。線維は周りの流れの速度で動きます(Peskin 1972、2002 をもとにした模式図)。
04画像に基づく CFD1998–2017

MRI と CT から、一人ひとりの血管を計算機の中に作る

1998年、Milner らは MRI で健常者の頸動脈の形と流量の波形を取り、その人の血管の形で WSS を計算しました。理想化した形と比べると、個人ごとの形の違いが WSS の分布に大きく影響しました。患者ごとの形で計算する意味が、ここで示されました。

画像に基づく CFD は、画像の撮影、血管の切り出し、計算格子の作成、流れの計算、結果の表示という手順で進みます。2008年には大規模な研究のための自動化の枠組み(VMTK)が、2017年にはオープンソースのソフトウェア SimVascular の再構築が報告されました。

画像に基づく CFD の手順Steinman 2002、Antiga 2008、Taylor 2009 の整理をもとにした模式図です。
05臨床の検査になった CFD2010–2018

冠動脈 CT から FFR を計算し、CFD が臨床の検査になるまで

冠動脈の狭窄が心筋の虚血を起こしているかは、カテーテルで狭窄の前後の圧を測る冠血流予備量比(FFR)で判定します。2011年の DISCOVER-FLOW 試験は、冠動脈 CT の画像に CFD を当てはめて FFR を計算する方法(FFRCT)の診断能を、カテーテルの FFR と比べました。

FFRCT は、2012年の DeFACTO、2014年の NXT と多施設試験を重ね、2014年に米国 FDA の承認を得ました。CFD の結果が、医師が治療方針を決めるときの判断材料の一つになりました。2016年には、CFD の計算結果を学習した機械学習で FFR を数秒で予測する方法も報告されています。2018年には FDA の研究者が、計算モデルを医療機器の審査の証拠として使うための取り組みをまとめました。

FFRCT の考え方CT から作った冠動脈の形で、充血時の血流を計算し、各点の圧を大動脈の圧で割った値を色で示します。カテーテルの FFR では 0.80 以下が虚血の目安とされ、FFRCT はこの判断を補う材料として使われます。色は FFR の値(圧の比)で、圧の絶対値ではありません。FFRCT の慣例に合わせ、1.0 に近い所を青、低い所を赤で示しています(Taylor 2013 をもとにした模式図で、数値は説明用です)。
PART 2

テーマ別に見る

ここからは、境界条件、動く壁と弁、脳動脈瘤、先天性心疾患、検証、計測との融合、論文の件数、日本といったテーマごとに、年代をまたいでたどります。各章は年代を少しさかのぼって始まります。

06境界条件とマルチスケール1999–2017

計算する血管の外側を、電気回路で置き換える

計算できるのは、画像に写った太い血管だけです。その先に続く無数の細い血管が流れにかける抵抗と、血管壁の伸び縮みは、計算の出口の条件として与える必要があります。CFD の結果は、この境界条件で大きく変わります。

末梢の血管網は、抵抗とコンデンサーからなる Windkessel モデル(集中定数モデル)で表します。1999年には慣性を加えた4要素モデルが提案され、2000年代には3次元の CFD と1次元・0次元のモデルをつなぐマルチスケールの方法が整いました。

3次元モデルと Windkessel の結合大動脈の3次元モデルの頭頸部の3本の枝と下行大動脈の出口の断面に、それぞれ抵抗(Rp、Rd)とコンプライアンス(C)からなる3要素 Windkessel をつなぎます(Vignon-Clementel 2006、Westerhof 2009 をもとにした模式図)。
07流体構造連成と心臓2001–2016

拍動で膨らむ血管と開閉する弁を、流れと同時に解く

多くの CFD は血管壁を動かない硬い管として計算します。しかし大動脈は拍動のたびに膨らみ、弁は1秒に1回開いて閉じます。流れと壁の変形を同時に解く流体構造連成(FSI)の計算は、2000年代に大きく進みました。

2003年に大動脈弁の開閉、2006年に変形する動脈の血流を扱う連成運動量法と、CAD と同じ基底関数を使うアイソジオメトリック解析が報告されました。心臓の中では、MRI や CT で得た心室の動きを与えて、拡張期に心室の中にできる渦を計算する研究が続いています。

08脳動脈瘤の WSS 論争2003–2018

破裂するのは、WSS が高い瘤か、低い瘤か

未破裂の脳動脈瘤を治療するか経過を見るかは、破裂の危険の予測で決まります。CFD はその手がかりとして期待されましたが、破裂と結びつくのは WSS が高い瘤だという報告と、低い瘤だという報告が並びました。

2004年に Shojima らは瘤の先端の低い WSS を、2005〜2011年に Cebral らは集中した流入と高い最大 WSS を、破裂と関連づけました。2012年には治療の判断への有用性を疑う論説が出て、2014年に Meng らは、高い WSS と低い WSS がそれぞれ別の経路で瘤の成長と破裂を引き起こしうるという統一的な仮説を示しました。2018年の国際的な比較では、同じ5例の画像を26チームが解析し、血管の切り出しの違いで結果が大きくばらつくことが示されています。CFD の指標を、治療するかどうかの判断にどう使うかは、まだ定まっていません。

高い WSS と低い WSS の2つの経路Meng 2014 の仮説をもとにした模式図です。
09先天性心疾患の手術計画1996–2014

単心室の子どもの血管のつなぎ方を、手術の前に計算で比べる

心室が1つしかない子どもは、上下の大静脈を肺動脈に直接つなぐフォンタン手術を受けます。心臓のポンプを通らずに肺へ流れるため、つなぎ方で生じるエネルギーの無駄が、その子の一生の循環に響きます。1996年、de Leval と Dubini らは、このつなぎ方を CFD で比べました。

2007〜2009年に Marsden らは、患者の形で呼吸と運動の影響を計算し、新しい Y 字型の人工血管を提案しました。2009年には板谷慶一らが、心外導管の太さをエネルギー損失と血流の停滞から論じ、17例の形に基づく数値モデルの条件では 16〜18 mm の導管が最も効率がよいと結論しました。2014年には100例のフォンタン患者で、MRI から作った形でエネルギー損失が定量されました。

フォンタン循環(TCPC)上大静脈と、心外導管を通った下大静脈の血液が、左右の肺動脈に分かれて流れます。つなぎ方によって、流れのぶつかり方とエネルギー損失が変わります(de Leval 1996、Itatani 2009 をもとにした模式図)。
10検証と不確かさ2011–2018

同じ問題を解いても、答えは研究室ごとに違った

2011〜2012年、米国 FDA は、単純な形のノズルの流れを複数の研究室に計算させ、実験と比べました。同じ問題でも、結果は研究室ごとに大きくばらつきました。CFD を医療に使うには、計算の正しさを確かめる手順が要ることが明らかになりました。

2011年には、脳動脈瘤の中で収縮期の直後に流れが乱流へ遷移しうることが高解像度の計算で示されました。2013年と2018年の国際的な比較でも、計算の条件や血管の切り出しの違いで結果がばらつくことが確かめられています。2018年には、計算モデルを医療機器の審査の証拠として使うための考え方を FDA の研究者がまとめました。

11計測との融合とデジタルツイン2009–2020

測った流れと計算した流れを、一つにする

MRI で血流を測る 4D Flow MRI が広がると、CFD の結果を実測と比べられるようになりました。2009年には脳動脈瘤で、2017年には大動脈弓で、両者の流れのパターンが比べられています。

2020年には、流体の方程式を組み込んだ深層学習で、画像から速度と圧力を推定する方法や、4D Flow MRI の速度から動脈の圧の波形を求める方法が報告されました。患者ごとの計算モデル(デジタルツイン)で循環器の医療を個別化するという考えも、2020年に示されています。

健常成人の大動脈の流線と断面の速度分布を、4D Flow MRI と3種類の CFD で比べた図
健常成人の収縮期ピークの流線と断面の速度分布を、4D Flow MRI(左)と3種類の CFD で比べた図です。CFD 社の宮崎・板谷らが CFD を実測で検証しました。出典: Miyazaki S, Itatani K, et al. Heart Vessels 2017, Fig. 2, PMID 28444501(CC BY 4.0)
4D Flow MRI 全史 →血流を「撮る」技術の66年をまとめたページです。測る側の歴史は、こちらで読めます。
12論文の推移1990–2025

血流 CFD の論文は、2000年の年19件から2025年の年496件へ

PubMed で、CFD と動脈・血流の語を題名・要旨に含む論文は、2000年の19件から2025年の496件に増えました。2021年以降は年440〜500件で、伸びは緩やかになっています。深層学習を含む論文だけは、2023年の26件から2025年の52件へ倍に増えました。

血流 CFD 全体患者固有(patient-specific)冠動脈・FFR脳動脈瘤
PubMed esearch の件数(2026-10-22 取得)。題名・要旨に「computational fluid dynamics」または「CFD」と、動脈・血流の語を含む論文を数えています。2026年は部分年のため除いています

テーマごとの論文の件数(年別)

色が明るいほど件数が多いことを表します

各テーマの語と CFD の語を含む論文を数えています。動脈瘤と先天性心疾患の系列は、血管の語のくくりを付けずに検索しています

国別の論文の件数(通算)

所属に国名を含む論文を数えています。1本が複数の国に数えられます

PubMed の所属の検索で、米国と英国は表記ゆれを合算しています
13日本の血流 CFD1980–2026

世界4位の日本が、脳動脈瘤とエネルギー損失の研究で残したもの

日本の所属を含む血流 CFD の論文は PubMed で394件あり、国別では米国、中国、英国に次ぐ4位です。1980年に神谷と戸川は、血管が壁のせん断速度をほぼ一定に保つように太さを変えることを動物実験で示し、この分野の古典になりました。

2004年の庄島らによる脳動脈瘤の低い WSS の報告、2009年の下権谷らによる瘤の発生の指標、2012年の高尾らによる未破裂瘤の経過観察の解析は、脳動脈瘤の CFD で国際的に引用されています。先天性心疾患では、2009年の板谷らのエネルギー損失の研究があります。2017年には当社の宮崎・板谷らが、CFD を 4D Flow MRI で検証しました。

日本の所属を含む血流 CFD 論文(年別)

PubMed [ad] 検索(2026-10-22 取得)。2014年より前は筆頭著者の所属しか索引されないことが多く、下限の件数です
PART 3

研究を設計する人へ 70年分の研究の型

これから CFD の研究を始める人と、すでに研究している人のための部です。70年の研究が CFD をどう使ってきたかを6つの型に分け、プロトコルを決めるときの分かれ道を、根拠になった論文とともに並べます。

CCFD はどう使われてきたか1968–2020

血流 CFD の研究は、6つの型に分けられる

本稿の82本を読むと、CFD の使い方は6つの型に分かれます。型によって、必要な症例数、比べる相手、主な落とし穴が違います。自分の研究がどの型かを最初に決めると、その後の選択の多くが決まります。

1本の研究が扱う症例数本稿の論文のうち、要旨に症例数が書かれているものを年の順に並べています(縦軸は対数)。1998年の2例から、2012年の506例まで増えました。点の色は研究の型です。
Dプロトコルを決める設計

プロトコルを決める12の分かれ道と、そこで先人が見つけたこと

CFD の結果は、計算の前に決める条件で変わります。どの条件がどれだけ結果を動かすかは、論文が少しずつ明らかにしてきました。分かれ道ごとに、選択肢と、結果に何が起きたかを並べます。行を押すと根拠の論文が開きます。

研究の流れと、各段階で効く分かれ道番号は上の表の分かれ道に対応します。画像と形の段階のばらつきが、計算の段階のばらつきより大きいことがある点に注意します(Valen-Sendstad 2018)。
E落とし穴と、まだ答えのない問い研究者へ

26チームが同じ画像を解くと、WSS は最大56%ばらついた

2015年の国際比較では、5例の脳動脈瘤の画像を26チームが解析し、瘤の平均 WSS の四分位範囲が最大56%に達しました。ただし親血管の値で割ると、ばらつきは30%未満に下がりました。比べ方を工夫するだけで、結論の強さは変わります。

最も引用された10本

本稿の82本の被引用数(OpenAlex、2026-10-22 取得)。棒を押すと論文の要点が出ます

まだ答えのない5つの問い

Fはじめる人の道具箱2026

画像から結果まで、どのソフトで何をするか

血流 CFD の作業は、形を作る、格子を作る、解く、見る、の4段階に分かれます。段階ごとに、研究でよく使われるソフトウェアを並べます。オープンソースのものだけで一通りの研究ができます。

各ソフトウェアの説明は公開の情報によります。SimVascular は Updegrove 2017、VMTK は Antiga 2008 に基づきます。当社の iTSimulation は OpenFOAM を改変したソルバーを使っています。

14これから2026–2040

計算が手術室と診察室に入る日 — 6つの予測

ここから先は予測です。論文の件数と、ここまでの章で見た研究を根拠にしています。確度の低い予測も含めています。

AI が計算を数秒で済ませる確度 高2026〜2030年に、CFD の結果を学習した深層学習が、画像から流れと圧を数秒で予測し、日常の検査で使われるようになります。根拠: 深層学習を含む血流 CFD 論文は、2023年に26件、2025年に52件です。2016年には機械学習による FFR の予測が、2020年には大動脈の圧と流速の約1秒での予測が報告されています。
FFRCT のような「計算の検査」が冠動脈の外へ広がる確度 中2027〜2033年に、頸動脈、大動脈、末梢の動脈でも、CT から計算した圧や WSS が治療の判断に使われ始めます。根拠: FFRCT は多施設試験を経て2014年に FDA の承認を得ました。患者固有の CFD の論文は2025年に180件です。
手術の前に、計算で術式を選ぶ確度 中2028〜2035年に、先天性心疾患や大動脈の手術で、複数の術式を計算で比べてから手術に臨むことが、専門施設で当たり前になります。根拠: フォンタン手術の計算の研究は1996年から続き、手術設計のソフトの医療機器としての承認申請も始まっています。
計測と計算を合わせたデジタルツイン確度 中2028〜2035年に、4D Flow MRI の実測で条件を合わせた計算モデルが、患者ごとに作られるようになります。根拠: 4D Flow を含む CFD 論文は2021年以降、年17〜29件です。デジタルツインの考えは2020年に示されています。
脳動脈瘤の破裂の予測が実用になる確度 低2030〜2036年に、形と流れの指標を組み合わせた予測が、治療するかどうかの判断に加わります。根拠: WSS の高値説と低値説は統一的な仮説に向かっています。一方、2018年の国際比較でも結果のばらつきは大きいままです。
計算モデルが医療機器の審査の証拠になる確度 低2030〜2040年に、実験や臨床試験の一部を、検証された計算で置き換える審査が広がります。根拠: 2018年に FDA の研究者が、計算モデルを審査の証拠として使うための取り組みをまとめています。
REF文献一覧

本稿で参照した論文

すべて PubMed または Crossref で書誌を確認しています。被引用数は OpenAlex の値(2026-10-22 取得)です。